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日苗市の人々  作者: きーち
第五章 蠢く日苗市の影
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第六話

「辰石・剛人が、話が出来る状態まで回復したそうだよ」

 今日も続く取り調べ。本日の始まりはどんないやがらせかと竜太が考えていたところ、刑事の間智は開始早々に、そんな言葉を投げ掛けて来た。

「へえ。思ったより早いですね」

 竜太が返す言葉はそんなものだ。驚嘆はしない。死んでおらず、肉体的にも健康な状態だったのだから、遠からず回復するのは当たり前だ。むしろ、今まで、まともに会話できない状態だったのがおかしい。

「その剛人だが……なんて言ってると思う?」

 こちらの視線を伺ってくる。動揺の一つでもみたいのだろうか。

 であるならば、話し合いではなく、熊のきぐるみでも着て訪れたら良い。そうすれば、竜太はこの上なく狼狽する。

 言えば本当にしてきそうな間智であるから、あえて言わないが。

「……碌な話では無いでしょうね」

「まったくだ。まったくだよ。君はこれを狙っていたのか?」

 なんの話だろうか。恍ける風を装うものの、実際、辰石・剛人が発した内容については、ある程度、予想は付いていた。

「自分はヒナエソルジャーに襲われたとでも言ってましたか?」

「そうだ。やはり知っていたね? 奴が目覚めて、その言葉を発するのを。奴はなんと言ったと思う? ヒナエソルジャーの一人、ヒナエゴッドを名乗る男が、兄弟を殺したと、そう言い放ったんだ」




「中々に良いネーミングセンスだと思ってくれいないかな? ヒナエゴッド。強そうで……追加戦士っぽいだろう?」

「何がっ!」

 おどける様に、自分が用意した状況の仕掛けを話すのは、神谷・卓だ。場所は変わらず旧村の行き止まり。

 だが、雰囲気は怒りに包まれていた。真っ先にその感情を発したのは志摩である。手酷い事を仕出かした男が、さらに自分達、ヒナエソルジャーの名まで騙っているのだ。

 その事に怒りを覚えなければ、ヒナエソルジャーにとって何もかもが嘘になる。

「おおっと、君らが戦うべきは僕か? 違う……違うだろう? 直に、辰石・剛人が発した言葉は、旧村にも噂の形で広まる。警察の中にはね、お喋りな奴がいたりするのさ」

 旧村は暴動寸前の状況。そうであるならば、その暴動の着火点となるのがヒナエソルジャーと言う事になる。

 事件の原因。旧村の顔に泥を塗った張本人がヒナエソルジャーである以上、暴動の力はすべて、ヒナエソルジャーの方を向く。

「今すぐ逃げる事をお勧めするね。少なくとも、この旧村は君らの敵となるだろう。敵のホームで戦うのは得策じゃないはずさ。まあ、移動したらそこが戦いの場となり、被害が周囲に出るだろうが……そこは僕の知った事じゃあないか」

 あくまでヒナエソルジャーを潰すため、この事態を作った。神谷・卓はそう言っている。そうして、最後の一手は既に放たれているとも。

 徹也はそんな神谷の姿を見て、不思議と冷静でいられた。普段の自分なら、志摩以上に怒り、真っ先に神谷へ襲い掛かっていたはずなのに。

 代わりと言うわけでも無いだろうが、徹也は神谷との話を続ける事にした。

「逃げる必要なんてない」

「ほう。つまり……僕と戦う気か? 何時までもここにいれば、自分達が不利になるのに? ま、それも選択だ。時間は稼がせて貰うよ。3対1で勝利できる自信は無いけど、それくらいなら出来るし、それで十分だ」

 時間が経てば、辰石・剛人の言葉が旧村にも広まり、ヒナエソルジャー達は追い詰められる。そうでなくても、ヒナエソルジャーは白い目で見られる事になるだろう。

 ヒーローとしての立ち位置は崩れ、確実にヒナエソルジャーの名声は地に落ちる……と、神谷は考えているはずだ。

「逃げる必要は無いって言うのはそういう事じゃあない。そもそも、逃げる意味が無い。俺はそう思ってますよ。神谷先生」

「徹也?」

 誠一がこちらの態度に疑問を持ってか、徹也の肩に手を置いてくる。そんな誠一の顔を見て、徹也は首を横に振った。慌てる必要も、危機を感じる必要も無い。

 あるのは、目の前の敵に言ってやる事だ。何時も怪人に向けている言葉を、そっくりそのまま。

「神谷・卓。お前の野望もここまでだ。お前の狙いは、すべてこのヒナエソルジャーが打ち砕く……と言いたいところだが、既に、別の人間が未然に防いでくれていた」

「何だと?」

 漸く、神谷の表情が笑いのそれより変化する。彼の予想通りの事態は終わったのだ。いや、そもそも途中から、まったく違う形になっている。その事を理解した時、彼の表情はさらにどう変わるだろうか。

「暴動は起きない。旧村は俺達の敵には回らない」




「何を根拠に?」

 日苗警察署、取り調べ室。不安がり、尋ねてくる。間智に対して、竜太はどう説明したものかと頬を掻いた。

 もう口を閉ざす理由は無くなった。拷問をあえて耐える理由もだ。目の前の男……それなりに義務感を持っていそうな刑事に、悪役を演じさせる事も、もう無い。

「順序を良く考えてみましょう。多分、辰石・剛人の証言は外に漏れます。そうであれば、警察の中に、今回の事件に関わっている人間がいるって事にもなりますが……」

「それには危機感を覚えるがね。ならばなぜ、旧村で暴動が起きないと断言できる」

「暴動が起きる理由って何です?」

「一般人に不満が溜まり、その捌け口が、暴力以外無くなった時だ」

 間智の返答に頷く。大切な事だ。誰だって、いきなり暴力という選択肢は選びたくない。

 誰かを殴れば自分の拳が痛む。なんて綺麗な話ではないが、暴力をいきなり振るうというのは、社会的に損が多いから、極力避ける。

 ましてや、それが多数の人間に寄るものとなれば、発生するのはかなり限られた状況においてだろう。

「今、そんな状況ですか?」

「旧村は、旧村外から害を受けたと言う不満がある。さらに言えば、それがヒナエソルジャーと呼ばれる力を持った相手であるとの情報が―――

「だから順番に考えましょう。旧村は害を受けました。そうして、次の場面はどうなりましたか? その害となった人物が、とりあえず警察に捕まった。そういう状況でしょう?」

 竜太の事だ。容疑者と思しき人間が、既に警察に捕まっている。勿論、その時点で暴動は発生しない。犯人を捕まえた警察がどうするか。それを見守る。判断するのはそれからだ。

「で、あなた方は次に、僕をかなり厳しく取り調べた。どうです? 結構、そうなる様に仕向けたと思うんですが、まだ……序の口でした?」

 間智が目を見開いていた。今、竜太と言う人間について、その判断をやり直しているのだろう。それを待ってやるのも構わないが、今はとりあえず説明を続ける事にする。

「その時点でも、暴動は起こりません。何故か? だって、旧村に泥を塗ったと思われる人間が、警察によって、厳しく責められているんですから。なんで暴動なんて起こすんです? 警察が勝手に、自分達の憂さを晴らしてくれてるんですよ?」

 だから竜太は、ひたすら、拷問染みた取り調べに耐えたのだ。その取り調べが厳しいほど、旧村の暴動を抑制できる。噂が流れる程に、人々は溜飲を下げ、さらには暴動を引き起こそうとする人間の計画を止めていた。

「だが、それも今日までだ。違うかい? 辰石・剛人の証言が広まれば……そうか……広まったところで、やはり暴動は起きない」

 間智の方も、構造を理解してくれたらしい。今回、どこかの誰かが仕組んだ計画に対して、竜太がどの様に台無しにしたか。

「そう。辰石・剛人の発言に寄り、旧村の敵が確定する……それが誰かの狙いだったんでしょうが、今の状況じゃあそうはならない」

 考えてみて欲しい。 事件が起こり、犯人らしき人物が警察に連れられて行った。取り調べでは、かなり厳しい事がされているらしく、警察がそこまでする以上、犯人はほぼ確定だろう。

 そんな状況で、関係者から、犯人だと思われていた相手とはまったく違う対象が自分達を襲ったと証言が出る。名前をヒナエソルジャーのヒナエゴッドと言うらしい。

「普通、こう思います。何がどうなってるのか? って」

 暴力は方向性を持つ。いや、方向が定まらなければ暴力にはならないと言えば良いか。

 明確な何かが無ければ、誰だって暴徒などにはならないのだ。

「今、旧村が不穏な雰囲気になっているとしたら、それは暴動の始まりじゃなくて、何が起こっているのかの情報整理ですよ。何人か、警察に怒鳴り込む事はあるかもしれませんね。警察はちゃんと調査をしているのかって」

 誰もが頭に疑問符を浮かべている。状況の整理が追いつかないからだ。追いついていない以上、それが何かに発展するまで、まだまだ先がある。

 疑問に思わない人間がいるとしたら、それは多分、自分なりの筋書を考えていた人間だろう。既にその過程を、竜太が乱している事に気づかないまま、計画が上手く言っていると思い込んでいる相手。

「何にせよ、暴動は起きない。誰かさんの計画は手詰まり。ザマア見ろって感じですね」




「……」

 事態の種明かしが終わった。徹也は黙り込む神谷を見て、今はいったい何を考えているのだろうと訝しむ。

 口惜しさか、後悔か、それとももっと別の感情か。それがどんなものであったとして、徹也達がする事は変わらないのであるが。

「サンダー! ウォーター! コスチュームは無いが、ヒナエソルジャーの時間だ! 敵を追い詰めた以上、私達の次の仕事は、敵を捕まえること! 世に悪を広める相手を止めるのだ!」

 徹也は口調をヒナエファイアーのものへと変える。心もすぐにヒーローとして染まっていく。

 一応、何時も持ち歩いているゴーグルだけは顔に付けた。何時だって心にヒーローを。胸元にはカラフルなゴーグルを、だ。

 他の二人も、それぞれの色のゴーグルを付ける。混乱したり、戸惑ったりする時間はもう終わりなのである。

「はっ、相変わらずチープだねぇ!」

 と、神谷がこちらへと走り寄って来た。行き止まりとは言え、塀くらい乗り越えて逃げるだろうと思っていたため、これは意外だ。

「隙は突き慣れているらしいな!」

 ヒナエファイアーが迫る神谷と相対する。真正面から、その腕をファイアーへ叩き付けようとする神谷。

 その振るわれた腕を、ヒナエファイアーはそのまま自らの腕で受け止めた。喉元でも狙っていたのだろうが、その視線で狙いどころは分かった。

 どこを狙っているのかが分かれば、対処もし易い。正面から防げば良いのだ。ヒナエファイアーは、身体能力を増強する“力”を持っている。

 ただ、それだけだ。特別、他より優れているわけではない。ただ、その力だけが、アベレージよりただ高い。

 故に、神谷がどの様な攻撃を仕掛けて来ようとも、それが普通の攻撃である限り、対処できる。

「そちらも、随分と手慣れているっ」

「子どもの頃から、ずっと戦って来たからな! ウォーター!」

 神谷の腕を防ぐだけで無く、それを握り込んだ。衝撃が手のひらから肘の先にまで響くが、耐えられない程ではない。

 その隙に、ウォーターが神谷を横から蹴り上げようとし……神谷の腕がファイアーの手からヌルリと抜けた。

 一瞬、その腕が、神谷の目筋の様に黒く染まった様に見えたが、もしかしたらそれが神谷の“力”。その本質なのかもしれない。

「はっ……さすがにやる―――とぉっ」

「く、くそっ」

 後方に下がる形でウォーターの攻撃を避けようとする神谷めがけて、次はサンダーが足を引っかけようとする。

 確実に神谷の両足に、サンダーの右足が挟み込まれた様に見えたのだが、やはり、神谷の足が黒く染まり、そのまますり抜けた。

「肉体を透過できるのか……!?」

「説明する必要なんてない。そうは思わないのかい?」

 こちらの攻撃を脅威に思っている風ではあるから、何もかもが通用しないと言う事も無いのだろうが、それでも、幾らかの攻撃を避ける事はできるはずだ。

「さて、反撃を。と言いたいところだけど、それも難しいかな?」

「逃げる事もできない。お前はここでおしまいだ」

 神谷は不気味だ。だがそれでも、ヒナエソルジャー達は彼を追い詰めていた。どう考えても、この後は彼を捕まえるという可能性しか無いというのに、一方で神谷は不敵に笑っている。

「その顔は余裕か?」

「いや、切羽詰まったところで、助けが来れば、こんな笑みになる」

「……!?」

 神谷へ迫ろうとしていたヒナエソルジャー3人が、神谷から離れる様に、後方へと飛んだ。

 そこで異変が起こったからだ。神谷の周辺に陽炎が発生したかの様に、空気が歪む。その光景を見て、警戒した3人は離れたのだ。

 そうして、その直感は正しかった。その歪みはさらに激しくなり、というか、収縮する様に歪みが極点化し、次の瞬間には暴発する様に広がったのである。

 それは実際に質量を持っていた。言ってみれば爆発だ。爆風はヒナエソルジャー達がさらに神谷から遠ざける程の威力があったが、その中心にいた神谷はどうなっているのか。

 答えは爆風により散った塵が収まる頃に判明する。無傷の神谷がそこに立っていた。

「遅かったじゃないか。“虫”」

「……」

 神谷は塀の向こう、民家の屋根の上を見つめる。そこには、灰色の布を頭から被った何者かがいた。

 恐らくは人……なのだろうか。布越しに頭と体の輪郭を持っているが、両手足に当たる部分が存在しない様に見えた。

 虫と呼ばれていたが、芋虫の類をなぞらえているのだろうか……。

「……」

「ふん。わかってる。そうだ、失敗したさ。だから今、助けを求めている? 見捨てられると困るが……ああ、有り難い」

 虫と呼ばれた存在は、徹也の耳には何も話していない様に思えるが、それでも、神谷と話ができるらしかった。

「今度は二人で来るか!?」

 いちいち、相手の会話を見守る理由もない。再度、神谷へと近づこうとする撤也だったが、やはり再び、神谷周辺の空間に陽炎が広がる。

 また爆発するのか? そう思えたのだが、歪みはその内側、神谷の方へと広がり、神谷の輪郭を歪ませていく。

 神谷と神谷の周囲の風景がモザイクの様に歪み、混ぜた絵の具の様な印象を抱かせるまでになると、それは正常な景色の方向へと戻り始める。だが……。

「なっ……どこだ!」

 正常に戻ったその空間から、神谷が消えていた。

「ファイアー! あそこだ!」

 ウォーターが指し示す場所は、虫と呼ばれた存在がいた場所。そこには、並ぶ様に虫と神谷が立っていた。

「ヒナエソルジャーの諸君! 今日はここまでだ! 君らが僕の策を打ち破ったこと、感嘆と脅威を覚えさせてもらう! 次の機会があれば、さらに強大な敵となりたいと強く思っているよ。ではな!」

「ま、待て!!」

 サンダーがその瞬発力を活かして追い縋ろうとするも、神谷と虫は再び自ら周辺の空間を歪ませていく。

 その歪みは再び彼らの姿を消し、ヒナエソルジャー達に、敵を逃がしたという思いを抱かせるのだった。




「私はつまり、まんまと君の策略に乗った形になるのかな?」

「策略って、そんな大それたものじゃあないですよ。そうなったら良いなって願望の元に動いただけで……あ、別に、この件で訴えたりとかはしないんで、そこは御心配せず」

 日苗市警察署の正門にて、竜太は取り調べ役をしていた間智と別れの挨拶をしていた。

 別に別れる事に名残惜しさなんて欠片も感じないわけであるが、どうにも、この相手に対して、敵意以外の何かを感じ始めていた。向こうもきっとそうなのだろう。

「正直、そこは助かる。君には何かあると感じて、だからこそ、強く出た側だからね、私はさ。結局、アテが外れていた事になるんだろうが」

 取調室で感じた威圧感を、今の間智からは感じられなかった。仕事の時間は終わりであり、今、目の前にいる男は、ただ一人の男になっているという事なのかもしれない。

「仕事熱心な結果と考えれば、それほど恨みは湧きません。僕がそう仕向けた側でもありますし……けど……」

「わかっている。警察内部に、何かを策謀している人間がいるという事。忘れない様にしよう。私が君を責めた対価として、君が望む事と言えば、そんなあたりかな?」

「ええ。誰だって、住んでる町の警察には、健全で居て欲しいって、そう思うでしょう?」

 今回の一件。どうやら何者かの意図が働いていた様だが、その何者かのうち、警察関係者が介在している可能性が高かった。

 警察内部の情報が、都合よく、旧村へとばら撒かれていたのである。だからこそ、危ない状況にもなっていたのだ。

「耳が痛い。市民の真っ当な意見として、受け止めておこう」

 そう言葉が返ってくるのであれば、竜太の今回の仕事は終了だ。いろいろと厄介この上ない内容だったが、落としどころとしてはこんなものだろう。

 事件の完全なる解決とは言えないが、そもそも、それは竜太の仕事では無かった。

「おや、どうやら、出迎えが来た様だぞ? 良い身分じゃあないか」

 間智に言われて後ろを振り返ると、3人の青年が目に映った。ヒナエソルジャーの3人だ。

 学生服姿で、明らかに竜太を見ていた。

「ちょっとした知り合いですよ。なんだろう。どこで聞きつけて来たのかな。あ、それじゃあ、間智さん」

「ああ、それでは」

 間智と別れて、ヒナエソルジャー達の側へと歩いていく。彼らは3人とも深刻そうな顔をして、竜太を見つめていた。

「やあ、こんにちは。その顔を見るに、あまり良い状況とは言えないみたいだね」

「えっと、お勤めご苦労様ですと言った方が良いのか……そうなんですよ。どうにも、ややこしくって、どうしたら良いか……」

 ヒナエファイアー、火比・徹也が返事をしてくれるが、良い返事とは言えなかった。問題も事件も、まだまだ終わりの姿を見せていない。

 だが……。

「時間が必要だろうね。今回、僕らがやった事は時間稼ぎだ。警察は今回の殺人事件の犯人をまた捜し始める。旧村は混乱が一時落ち着くだろうけど、やっぱり、犯人に旧村の人間を殺されたという事実は消えない」

 街に転がる爆弾が増えた。導火線はどこにでも伸びていて、何時、誰かが火を点けるか知れたものではない。

「じ、時間があれば……それを解決できるのでしょうか?」

 ヒナエサンダー、雷公・志摩がおずおずと尋ねてくる。申し訳ない話だが、その言葉に対して、竜太は首を横に振った。

「解決っていうのは、こじれた紐を解く事だ。時間がどれだけあったって、紐は勝手に解けない。むしろさらに絡まっていくもんさ」

「なら、俺達が動けば?」

 ヒナエウォーター、水木・誠一が、どうにもやる気を見せているらしい。

「とりあえず、そっち側で何があったかを聞かない事にはなんとも……」

 情報が足りない。ずっと取調室にいた竜太にとって、外界がどうなっているかは、頭の中で想像するしか出来なかった。

「けどね、君らがこのままじゃあ終われないって思うのなら、行動はするべきだ。行動の結果、さらにこじれた時は、僕に相談すると良い。面倒が増えるのは嫌だけど、今回の件に限っては……調定屋が動くべきなんだろうさ」

 副業ではあれど、こっちの仕事にだって、それなりの矜持を持っている。日苗市を左右する事態なのだとしたら、竜太だって動かないわけにはいかない。

 この街に住む、一般市民なのだから。

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