第三話
物事を穏便に進めるというのは、安易な選択に思われるかもしれないが、実はもっとも難しい。
人が複数人いれば、そこに意見の対立が生まれるし、他人の土地に踏み入れば、その一歩だけで土地が荒れる。
だからこそ、話し合いが重要なのだ。損か益が生まれた以上、それをどう配分するか。話し合いを続ける事でそれを決定し、生まれた変化を日常として受け入れる。そこまでやって、漸く穏便に事が進んだと言える。
「この場合、話し合えば分かるって話でも無い。発生した損と得をどう配分するかを少しでも間違えれば、すぐに争いに発展するんだ。慎重に事を運ぶっていうのは、自分の行動が相手にとって、利益にも損害にもならないと表面上は思わせる事何だと僕は……聞いてる?」
竜太は話を続けている。話し相手は火比であり、場所は旧村の中で混大と呼ばれる一党の縄張りとされる場所。
特別な何かがあるわけでも無く、襤褸屋が何軒か立ち並び、汚いままの道路が放置される。そんな旧村らしい見た目の場所だった。
「聞き流してます! というか……ややこしいのが好きなんですね、あなた」
「好きっていうか、得意? みたいな。好みかどうかって話なら、ややこしいものはややこしいよ」
現状、こんな話を続けるのは、単純に暇だからだ。時間は有限だが、何時だって用事の方がその長さに合わせてはくれない。
道端に二人並んで立ちながら、どことも無く街の風景を見つめている。有意義な時間とは断じて言えない。
「ほんとうに、こんな事をしていて、その混大って人らはくると思っているのですか?」
「来るね。放置してたら、彼らの面子が潰れるから。こんな事でもだ」
竜太は自分が持っている箱を見つめる。両手に収まるくらいの小さな段ボール箱だ。そこには募金箱と書いており、その文字を道の方に向けている。
「募金って言ってもね、勝手にやってる事だ。普通なら役所なりに届出をしてやるべき物なのに、それをしていない」
「だから縄張りを荒らされたと思って、その一党がやってくる?」
「これ、やってても、別に個人に害を与えてるわけじゃないだろう? 第一、ここらじゃ誰もお金なんて入れない。呼び込みもしていないし。となると、地域の管理役が一言文句を言いに来なきゃならない」
誰にも損になっていないが、それでもいるだけ、地域の安定を崩す。普通、そういった場合の管理者役は役所がするのだが、旧村ではその手も入り難く、代わりに、その地域を縄張りにしている人間が文句を言いに来るのが常だ。
縄張りなんて言い方をしているが、そこを管理していると言っているのと同義であるため、今の竜太達を放置していれば、そもそも縄張りとしているかとすら周囲から疑われてしまう。
「ほら、さっそく、現れたみたいだ」
体格の良く、強面の男が現れる。Tシャツにサングラスと言った出で立ちで、チンピラの中ではまだ迫力がある方だろう。
「おーい。坊ちゃんども。ここで何してる? 募金なんてしてても、ここらじゃあ何の役にも立たねえと思うがな?」
と、近づくや否や、チンピラはすぐさま話し掛けてきた。挨拶も無しであるものの、いきなり脅しや暴力が来ない分、まだ紳士的か。
「いやあ、ちょっと聞いてくださいよ。この子なんですが、なんとまあ、学校の先生が突然いなくなったらしくて」
と、竜太は火比の方へ視線を向けた。一方で火比は、いきなり何を言いだすんだと困惑した表情を浮かべていた。
「ほう? で、その先生を探すための資金集めってわけか」
「いえ、先生が突然いなくなった結果、心に傷を負ったので、その治療費を募金で集めています」
「……いや、絶対に集まらないだろ、それ」
「なんでです? 最近は心の傷だって、立派な傷病だって認められてるの知りません? 舐めちゃあいけませんよ。学生の頃に負った傷は、大人になっても治らないんです。そのまま残り続け、その人生が曲がった場所に進んでしまいます。例えば……ピアニストとか目指し始めるかもしれない」
適当な事を言葉にしつつ、まずは会話を試みてみる。目の前のチンピラが、とりあえず、日本語を十分に扱えるかどうかのテストだ。もしかしたら、言語の不自由な相手かもしれないじゃないか。
「とりあえず……なんでピアニスト?」
「ピアニストって、だいたい、なんか人生に傷を負ってそうじゃありません?」
「そうかなぁ……」
何故かチンピラは目頭を押さえ始めた。何故だろう。
とりあえず会話は出来る様子だが、動作は要注意かもしれない。ふと火比を見れば、同じ様な恰好をしていた。ドライアイが流行っているのか?
「事情はどうだろうが、ここらじゃそういう活動は禁止だ。さっさとどっか行け。もうっちょっと、身なりの良い奴が出歩く場所なら、万が一でも恵んでくれる奴がいるだろう。同情とか」
金銭の方が恵まれる可能性は無いらしい。まあ、それはそうかもしれない。心の傷は、目に見えないから。
「うーん。どうしよっか、火比くん。君の心の痛み。まだ我慢できそう?」
「え? はっ……いや……我慢……でき無さそう?」
火比は咄嗟に答えてくれた。チンピラから言われた通りにこの場を離れるというのは、どうかと思ったらしい。大丈夫。その反応で正解だ。
「ですって。どうしましょう。彼、きっと、心の傷が足に来てるんですよ!」
「どうしましょうって言われてもなあ。もう手遅れだろ。諦めろって、どんだけ金を積まれても治らねえよ、それ」
ついにはチンピラに困った表情を浮かべさせる事に成功する。あと一歩かもしれない。どんな一歩かは知らないけれど。
「これはあれですね。前任者はどうだったかを参考までに聞かなきゃですよね」
「前任者って、お前らみたいなのも珍しいんじゃないか?」
ちょっと、チンピラが距離を置こうとしている。逃げるつもりだろうか? 絶対にさせるものか。
「珍しくは無いんじゃないです? ほら、あなた達、前にも僕らみたいなボランティアを連れて行ったそうじゃないですか?」
「あ、そう繋がるんだ」
漸く、感心した様な声を出す火比。そうだ。別に本来の仕事を忘れたわけではない。
「ボランティアだ?」
「あれ、何を言ってるか分かりませんでしたか? 聞いてますよ。ほら、あなた方が広場の方で、ボランティアをしていた男性をどこかへ連れ去ったそうじゃないですか。僕らが捜している行方が知れない先生。その人なんですよ」
「……」
と、チンピラの様子が変わった。距離を置こうとしていた状態から、あからさまに警戒心を持った様子になったのだ。
「あの……これ、失敗なのでは?」
火比はそう言うが、案外、これで正解かもしれない。警戒しているという事は、注目を浴びているという事だ。さらに言えば、彼らにとって聞き捨てできない状況でもあると言う事。
(関わりがある。こっちの狙いは空回りしていない……それが分かるだけでも上等だよ)
次に考えるべきは、これからどうするべきかだ。関わる必要がある相手を特定した以上、さらに接近したいと思うが……。
「あの先生と知り合いか、お前ら」
意外な事に、警戒はしつつも、明確な敵意にはならなかった。彼らの繊細な部分に踏み込んだのではないか。そう思ったのだが、まだ彼らとは敵対していないらしい。
「神谷先生を知ってるんですか!」
と、チンピラの様子に思うところがあったのか、火比が前に出て来た。余程では無い限り、剣呑な状態にはならないだろうと思えたので、見守る事にする。
「あんた、もしかしてあの先生の生徒かい? そりゃあ……ご愁傷さまだな」
「ご愁傷さまって、神谷先生に何が?」
どうにも神谷・卓という人物に関して、明るい未来は無さそうに思える。火比もそう思っているだろうから、さらにチンピラへと近づいていた。
チンピラの方はと言えば、その火比の様子に押されている様である。
「ま、待てって。ここじゃなんだ。場所を移そうぜ」
人に聞かせられない話。そんな風に語るチンピラ。
(つまりは……ややこしい事態ってことじゃないか。どうしよう……逃げるなら今か?)
そう思ったが、残念ながら、逃げられる展開にはなりそうに無かった。
旧村にある家々の殆どが襤褸屋……だと表現するのは、些か間違いがある。こんな場所でも、裕福な人間はいるもので、それなりの生活をしていたりするのだ。
だが、それでもそんな人間が裕福だと認識されることは稀であろう。立場が上の人間は、それだけで目立つ。目立てばやっかみが発生するし、旧村みたいなところでは、そのやっかみは直接的な暴力へ発展する事もあった。
だから皆、自分達の恵まれている部分を隠そうとする。どこぞでホームレスをしてそうな人間が、案外、家を持ち、人並み以上の生活をしていたりするのである。混大と呼ばれる集団のトップにしても、そんなタイプの人間だった。
「それで? 坊や達があの奇特な先生の知り合いだって言うのかい?」
広い部屋に妙齢の女が一人。年齢は40代か……若くも見えるのでもっと下かもしれないが、変に迫力がある。それはきっと、女が一段高い壇上の様な場所で座っているからだろう。
まるで王様の玉座みたいな椅子に座り、その場所から竜太達を見下ろしている。一方で竜太はと言えば、見下げられるのは慣れたもので、むしろ混大の本拠地はこんな場所だったかと観察を続けていた。
そう、竜太達はチンピラに案内され、混大の本部の様な場所へやってきていたのだ。ちなみに高いところから見下ろしているこの女性こそ、混大の中心人物である。名前は金野井・寧子と言うらしい。
「こちらの火比って青年が神谷先生と知り合いです。僕はその付き添いみたいな立ち位置と言うか」
「付き添いだって? 保護者には見えないけどね」
金野井はマフィアの女ボスみたいな雰囲気を出しているが、彼女は一応、旧村の教師みたいな事をしているらしい。教師だ。冗談ではなく、そういう生業があるのだそうだ。
「世の中、外見に似合わない事をしている奴って大勢いません? 僕もその一人です」
外見に似合わない事をしている金野井に向かって答える。彼女……教師と言ったが、対価を貰って、こんな場所を用意できるくらいには儲かっているはずだ。
場所的には地下になるだろうか? 上の部分は長屋らしい建屋になっており、それに隠れるような構造で、長屋側から幾らか下側へ降りると、この広間へとやってくる。金野井は普段、ここで生活をしており、混大のメンバーも、時々集まっているのだそうだ。
「……ま、そりゃあそうか。この街で外見を気にし過ぎる奴ほど馬鹿な奴はいない。そこのあんたも、案外、外見に似合わない事をしてたりするのかい?」
と、金野井の目線が火比へと向く。竜太はからかい甲斐の無い奴とでも思われたのだろうか?
「ええっ……いや、私……俺は特に……学生です!」
「おや、学生さんかい? なら、あたしの商売相手ってわけだ」
笑う金野井。学生を見て商売相手などと言う人種に碌な奴はいないと思う。実際、碌でも無い話なのだろう。
この旧村で教師をする。さらにはそれで収入を得ている。さらにさらに、商売相手となる生徒達は徒党を組んでいる。そんな彼女らが、真っ当な存在ではない。
「その事なのですが、失礼ながら、教師という言葉がどうにも想像できないというか」
火比も同意見だったらしい。彼の場合は、外見を見て率直に思った言葉だろうが。
「はっはっは! 随分と素直に言うじゃないか。あたしもそう思うよ。けど、ここらへんじゃあ、むしろ学びたいって奴は積極的なのさ。金を出したって誰かより賢くなりたいってね」
その賢さを売っているのだから、金野井もかなりの力を持っていると言う事だろうか。何にせよ、碌な事は教えていないだろうなと思う。
「おおっと待った。あんた、あたしをあくどい何がしかだと思って無いだろうね?」
と、竜太は指を刺されてまで注意された。考えた事が顔に出ていただろうか。反省しなければならない。内の感情は、上手に隠さなければ調停役とは言えない。
「油断ならぬ相手だとは……失礼ですが思ってますね。ここで、まるっきり人を信じるなんて、それこそ間抜けだ」
竜太の答えに対して、金野井はむしろ破顔する。
「はっ、まったくもってその通りさ。ああ、あたしは悪い奴だ。そんな悪い奴に、あんた達、関わっちゃったよ。覚悟する事だ」
実際、雰囲気としてはそれが正しい。こちらの願いを叶えるために、竜太達は危険な場所へとやってきた。旧村に来るとはそういうことだろう。
「ただ、あんた達が探している先生。神谷って名前なのかい? 彼については、あたしらが何かをしたわけじゃあない」
「実際、あなたの生徒さんもそんな様子でしたね。むしろ、同情的な言い方をされた」
竜太はチンピラの言動を思い出す。てっきり、こちらが挑発する形で、チンピラ側が脅しにかかって来ると思っていたのだ。
だが実際は、こうやって、それなりの地位にある人間に会って、話をさせて貰っている。直観と違う結果が目の前にある場合、それは自分にとって、大層ややこしい込み入った事情がある事を意味しているはずだ。
「あなた方が確かに神谷教師と会っていたという話は聞いています……その時、何かあったんでしょうか?」
「その時については何時も通りさ。あの先生、あたしの商売と同じ事を無料でやろうとし始めてね」
「ああ、ボランティアですから。それで、それをされると商売があがったりだと伝えに?」
「そ。良くある事だろう? 納得しないなら暴力沙汰もって話でもあるけどさ、こっちの事情を話したら、頭下げて、素直に教師業については旧村でしないって言ってきたよ。代わりに、何か出来る事は無いかって尋ねたから、軽い炊き出しなんかなら感謝する奴もいるんじゃないかって伝えて、それで終わりさ」
旧村と言う土地柄を考えれば、むしろ穏便な話し合いだったのだろう。神谷側も、そこを汲み取って、何故慈善活動をしてはいけないのか。などと言った反論はしなかった様子だ。
「じゃあ、行方不明になったのはその後……?」
「そうだね。申し訳ないのはその話でさ……どうにもあたしらと穏便に事を済ませたのを見て、敵対している奴が目をつけやがったみたいで」
「敵対……あなた方もまた、何やら抗争をしているのですか!?」
脇から、金野井の方へ向かうかのごとく、火比が身を乗り出し、声を上げた。彼にとっては、見知った教師の危機であると共に、正義のヒーローとしての立場であっても、聞き捨てならなかったのだろう。
「この場所で儲けたり上手く生きるっていうのは、誰かしらと敵対する事さ。我の強い奴らは何にだって引っ掛かる。ただ……やっぱりすまないね。誤解で人が浚われるなんてのは完全にこっちの責任だ。しかも奴ら……人質にして、あたしらに交渉を持ち掛けてくる始末で」
「人質か……それはまた……妙な手を取ったもんですね」
「珍しいやり方だとは思うよ。ここらへんの住む奴に、人質になるだけの価値なんてあんまり無さそうだしさ。ただ、あの先生。旧村の外の人間だろ? 多少なりとも価値はあるって思われたんじゃあないかね」
やはり込み入った事情があったと、竜太はうんざりする。ここから、色々と立ち回るのは、結構しんどいぞと頭を働かせ続ける。その間に、火比の方が、相手に聞きたい事を聞き始めた。
「神谷先生を浚った相手……心当たりはあるのですか?」
「辰石三兄弟って言う連中だ。名前の通り三人兄弟なんだが、どいつもこいつも、他人に迷惑を掛けちまう“力”持ちだよ」
暴力的だったり、反社会的だったりする力を持っているのだろう。そうなってくると、竜太にとっては厄介この上なくなってくる。
「そいつら……旧村じゃあ何人か手下を引き連れてデカい顔してたんだけどね。その手下にさ、あたしが教師として色々教えたのさ」
教師として色々と……それが商売に成り得るほどのものだったとすれば、その後の顛末について、竜太は色々と想像できた。
実際、金野井から出て来た言葉は近いものである。
「その手下ども、知恵を付けたんで、さっさと三人兄弟の下から逃げちゃった。結果、恨みはあたしらの方にも向けられるって寸法だよ」
そこについてはどこにでもある抗争みたいなものだが、神谷が巻き込まれてしまったと言うのが、今回、ややこしくなっている点だろう。
「だいたい構造は分かりました。あとは裏付けと、相手方の誤解を解くところからかな……。兎に角、こっちは神谷先生の救出を優先しますんで、それだけはお伝えしておきます」
「ああ、そっちに関しちゃあ邪魔しないよ。せいぜい頑張ることさ、調定屋」
「……なんですって?」
「自分の立場が、それほど有名じゃあないと思ってるなら、そりゃあ過小評価だよ。あんた、関係のある人間にとっちゃあ有名だ」
違う、そうじゃあない。
(僕は喫茶店の店主だぞ?)
今はエアコンが直るまで休業中だが、本職は喫茶店の店主なのだ。副業の方で名前が知れても、それほど嬉しく無いと思う竜太だった。
混大の拠点から離れて暫く。沈黙を保ったまま、とりあえず歩いていた竜太であるが、そろそろ次を話し合った方が良いと考えたため、隣を歩いている火比へと話し掛けた。
「次をどうするかだよ、これはね。とりあえず、さっき聞いた話も、本当かどうか確認する必要がある。嘘だったら、もう一度、さっきの場所へ直談判に向かう」
面倒かもしれないが、そういう考え方はしなければならない。自分自身の行動くらいは、確信を持ったものでありたいから。
「もっとも、多分、本当だろう。嘘を吐く必要性も無いから。となると、なんとか三兄弟から神谷先生を救出する事になるだろうけど―――
「いや、調定の仕事はここまでで構いません」
「は?」
これからの話をしようと言う時に、これからはいらないと返されてしまった。呆気に取られる竜太を余所に、火比が話を続ける。
「明確に、誰がどうなったかは分かったわけです。なら、次はヒーローの仕事だ。そうでしょう?」
「……かもしれないけど」
火比はこれより、ヒナエソルジャーの一人、ヒナエファイアーとして動くつもりなのだろう。もしかしたら、他の二人も連れての行動になるかもしれない。
「いや、でも待ってよ。そんな事をしたら、やっぱり目立つよ。ここは穏便に、なんとか三兄弟と交渉して、神谷先生は関係者って誤解を解く形に……」
「それこそ間違いだ! 辰石三兄弟は、明確に悪を成している。例え神谷教師の事が勘違いだったとしても、人質を取り、脅しを掛けるなどと言う行動に出ているんです! それを退治せずに、何がヒナエソルジャーですか!」
「ヒーローとしちゃあ、そういう意見もあるかもだけどさぁ」
それはとても、ややこしい事態になるぞと、竜太は忠告しようとしたが、きっと火に油を注ぐだけだろう。悪を見過ごせない。陳腐な言葉だが、その言葉を本気で実行しているから、彼らはヒーローが出来ている。
“力”があったとしても、気持ちがそうでなければヒーローとは言えない。きっとそうだ。
「止めないでくださいよ。あなたとは一旦、お別れです。漢条さん」
「まあ……止める力とかも無いしねぇ。そうしたいって言うのならすれば良い。けど、慎重に動く事は忘れない様に。無関係の人間を巻き込むなんてもっての外だ」
「ええ、それは十分に分かっています。報酬に関しては、きちんとお支払しますので。では!」
と、目の前で火比が跳ねた。常人以上の脚力で高く跳ね、そうして視界から消えて行ったのだ。すっかり、ヒーローとしての心持ちになっているのだと思われる。
であるならば、辰石三兄弟という男達も、早晩、ヒナエソルジャーに退治される事となるだろう。ヒナエソルジャーは間抜けな姿をしているが、その力の使い方は玄人のそれだから。
「じゃあ、僕はどうするかだ」
誰も聞いていない独り言を、竜太は発する。これで仕事は中断だろうか? いや、そうではないはずだ。依頼主にはもう必要ないと言われたものの、彼からの依頼は調定役だ。
彼らがこの旧村で活動する間、無用な混乱を避けるために動く。それはまだ、事が終わるまで継続中なのである。
「君らには君らのやり方があるだろうけど、僕には僕の働き方がある。ま、報酬分は働くよ。できるだけ、無難に収める事にしようじゃないか」




