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日苗市の人々  作者: きーち
第五章 蠢く日苗市の影
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第二話

「時々、自分がどうしようも無いお人好しなんじゃないかと勘違いすることがある」

 ポツリと零すその言葉は、独り言ではなく、隣に立っている青年に向けてのものだ。場所はと言えば日苗市西区。古い日苗の姿が残る、混沌とした街並み。

「いろいろと難癖を付けて、兎に角仕事を引き受けない様にしていた人の言葉とは思えないんですけど?」

 隣に立っている青年、ヒナエファイアーこと火比・徹也である。コスプレ姿ではなく私服であり、体格の良さも相まって、結構、人好きのする姿だと思う。顔つきだって悪く無い。

 思うに、学校の方ではそれなりに人気者なのではないだろうか。

「こっちはだから副業なんだよ。もし、行方不明になった人に縁が無かったら、そもそも話を聞こうとすら思えなかった」

 神谷・卓。好青年に見えた人物であるが、まさかその後、それほど期間も置かず行方不明になっているとは。

「しかしこう……あなたの助言になりますが、ヒーローの姿で探さなくても良いっていうのはどういう?」

 火比が尋ねてくる。ヒナエソルジャー達は当初、ヒーローの恰好で神谷・卓を旧村で探そうとしていたらしいのだが、竜太がそれを止めた。

 旧村にまでヒーロー活動を持ちこまれてはたまらない。

「探すのは君らだから文句を言う筋合いは無いんだけどさ、その過程で旧村側との軋轢が生まれたら事だから、調定役を雇いたいって話なんだろ? だったら、ヒーローの姿は絶対に止めた方が良い」

 今回、調定役としての竜太の仕事は、彼ら、ヒナエソルジャーが普段活動範囲に入れていない旧村。そこを動き回る中で、旧村とヒナエソルジャーの揉め事が発生すれば、それを調定するという役目である。

 ヒナエソルジャー達も、旧村がどういう場所か、話には聞いているため、外からの人間が派手に動けば、それだけ何がしか事件に発展してしまうのではと警戒しているのだ。

「ここらには、例えば君らヒーローみたいな格好をする奴も結構いる」

「つまり……違和感がないという事では?」

「そういう格好をした奴が、だいたい揉め事を起こす側だったとしても?」

 この旧村で発生する事件の殆どが、個性の強い存在がぶつかった結果である。

 “力”を持った人間が何故か集まるこの日苗市においては、力とは即ち強烈な個性であり、ヒナエソルジャーもまた、そんな個性を持った存在だった。

 出来る限り、そんな個性は隠した方が、人探しをする場合は丁度良い。

「余計な場所にも行かないこと。大半が危ない場所なんだ。ここらで情報を集めやすい場所を紹介するから、まずはそこで人探しを始めようか」

「ううん……何かこう……スマートじゃない感じが……もっとこう……名乗りを上げる形にはできないのですか!」

「だからそれを止めろって! サンダーとウォーターの二人を置いてきた理由を考えなよ……」

 今、ここにいるのは火比と竜太だけだった。ヒナエソルジャーの残り二人は一時待機。人手がいる事態になった時に呼ぶ事になっていた。

 兎にも角にも、今はそれほど目立たずに情報を収集する事である。動きが遅くて手遅れになるというのなら、とっくに手遅れになっているだろうし。

「それで、情報を集めやすい場所って? 実を言えば、あんまりここ周辺は知らないのですが!」

「人探しそのものは、君らに任せる予定だったんだけどなぁ……」

 旧村に詳しい人間は、竜太以外にはいない。となると、自分が案内するしかないと思うのだが、面倒である事は変わりなかった。




 旧村は混沌とした不法地帯。そんな風に言われたところで、人が集まれば一定の秩序と社会が出来るものだ。

 明文化なんてことはされていないが、だからこそ、それらの秩序は大事にされている。明確に言うならば場所である。

 その場所だけは、揉め事があっても場所から出て行う。その場所だけは荒らさない。個性豊かな旧村の面々にとっては、それだけでも窮屈なルールに思えるのだが、不思議と、その場所にだけは人が集まる。いや、人が集まるから、自然とそんなルールが出来たのか。

 どちらにせよ、そこにだけは不必要な事件は起こらず、さらに多くの人間が顔を出すのだ。

「それがここ、日苗西区広場。一時は遊具なんかがある公園として整備もされたけど、大半が壊されて、結局、空き地みたいな広場だけが残ってる」

「その……遊具が破壊? 揉め事禁止エリアのはずでは?」

 竜太は火比を連れて、日苗西区広場までやってきていた。西区のほぼ中央にあり、開けた土地となっている。アスファルトで舗装もされておれず、キャンプでも出来そうな場所だ。

 実際、テントなんか張られているし、真ん中にはキャンプファイアーっぽく火が焚かれている。

 夏であるから、その火の規模は小さいものの、これが冬場近くになってきていると、もうもうと燃え盛るだけの燃料が投入されるのだ。

 また、やはり集まった人々も多い。ほぼ全員と言って良いくらいに奇抜な格好をした人々。

 例を挙げるなら、腰巻だけで半裸の(靴も履いていない)毛が生えていたらゴリラと見紛うばかりの筋肉男。なんだかスクール水着っぽい服装に、機械みたいなアクセサリーを付けた幼子等々、個性豊かなメンバーたちだ。絶対に、普段なら近寄りたくない。

「荒っぽい連中が荒っぽいことをしないってだけで、物を大切に扱うなんて脳味噌は多分無いんだよ」

「辛辣ですね、さっきからあなた」

 辛辣にもなる。ここに存在するのは、まったくもって、街にとっての不穏分子なのだから。だいたいこの場所にしたって、不法占拠には変わりないのだ。

「ま、話してたら僕と似た様な感想を抱くかもだよ? とりあえず、あっちからだ」

 竜太は幾つか張られているテントの一つを指差した。

「あのテントに? 何故?」

「上から煙が出てるだろ? 多分、何か屋台みたいな事をしてるはずだ」

「炊き出しみたいなもので?」

「金は取ってはいるから炊き出しじゃあないね。碌に仕事に就いていない人間相手の商売だから、安いちゃあ安いんだろうけども」

 説明しながら、テントへと近づく。さっそく入口を潜ると、折り畳み机をカウンター代わりにした、狭苦しい空間が内側にあった。

 3人くらいの人間が客として入っているらしく、おでんらしきものを食べている。そう広くも無いが、奥では店主らしき人間が鍋を煮込んでいた。

「……」

 テントの中にいた全員が、こちらを睨んでくる。ただし話し掛けては来ないし、絡んでくることもない。

 旧村における普通の道端で会えば、竜太の様な外見の人間は、舐められて突っかかられるタイプの人間である。

 一方でこの広場はそうであってはならない。他人に文句を付けるにしても、広場を出てからだ。イラつく事があるなら、広場からその相手が出て行くまで待てと言う事で、竜太の存在も、一応は無視されているのだろう。

 が、竜太の方はそのルールを守るつもりが無い。

「いやあすみません。ちょっと良いですか?」

 へらへら笑いながら、まず店主へ話しかける。軽い人間として見られる事を心掛ける。外見が子どもっぽいから、より一層、面倒な奴という印象が先立つことだろう。

「なんだ……注文か」

「あー……夏場におでんはちょっと遠慮したいかなですね。何時もここで店を開いてるんですか? メニューは変えた方が良いんじゃないかなって。かき氷とかどうです?」

「おい……」

 客の一人。口周辺が鮫みたいになっている男が竜太を睨んで来た。黙れ。そんな圧力を感じるが、鈍感である様に心掛ける。

「かき氷が無いなら……そうだ、人は知りません? 顔は写真の通り、こんな感じ。優男って感じがするでしょう? 雰囲気からして人の良さそうな……騙されやすいとも言えますがね、そんな人間が―――

「おい! 黙れっつってるだろうが!」

 懐から、火比から貸してもらった神谷・卓が映った写真を店主に見せていると、机を叩いて、鮫口の男が叫んだ。嫌でも耳に響く。これを聞かなかったフリをするというのは難しい。

「おい……ここじゃあ止めとけ。悪いな兄ちゃん。見覚えが無い」

 店主の言葉は素気無いものだった。竜太の背後でその様子を眺めていた火比はそれに納得がいかないらしく、竜太の肩をどける様に前へと出て来た。

「本当に、本当に見た事が無いんですか!? ここに来たはずなんですが!」

「だから見覚えが無い。本当に来たとしても、俺の記憶にはない」

 声を大きく尋ねる火比に対しても、店主の態度は変わらない。こういう場所で店を開く人間の素質みたいなものだ。

 深くは関係しないし、激しく感情も動かさない。用意したものを出す。それだけを行動の主体とする。それだけで商売はできるし、そうでなければ商売にならない。

「ま、仕方なしだよね。一旦出よう。さあ、早く」

「え? おい! ちょっと!」

 火比はまだ話を聞きたい様子だったが、竜太はさっさとテントから出た。だいたい狭いのに男ばかりで、さらに鍋物を調理しているとあっては、熱気が凄いのだ。夏場にこれは勘弁して欲しい。

「ちょっと待ってくださいって! 良いんですか? あれ……全然、話聞けないじゃないですか」

 しかし火比の方はまだまだあのテントの中にいたかった様子。あれだろうか。名前に火が入っていたり、ファイアーなんて名乗っている立場上、暑苦しいところが好きなのだろうか。

「話を聞くつもりは無かったしね。あくまで、あそこで話をするつもりだっただけで?」

 テントから離れ、さらには足を広場より外へと向ける。この場所でやる事は終わったのだから、次の予定へ進めるだけ。

「はぁ? 何が何で……」

「ところで火比くん」

 広場から少し出たところ。そこまで歩いた後に立ち止まり、竜太は振り返って火比を見た。そろそろだと思ったのだ。

「え?」

「腕っぷしにはどれくらいの自信がある? 普段、ヒナエソルジャーなんて名乗って、怪人連中と戦ってるんだろう? けっこう出来る方だと予想はしているんだけど」

 そうでなければ非常に困るので、しっかり確認しておきたいところだ。次の予定は、火比の力を当てにしていた。

「そ、そりゃあ、”力”がありますからね。似た様な力を持っている人間がいたとしても、経験だってありますから、おいそれと負けるつもりなんて」

「上出来だ。それじゃあうん……がんばって」

「がんばるって何を……っとぉ!?」

 竜太は話の途中で、体を後ろ側へジャンプさせた。そうして距離を取ったところで、さっきまで居た場所に、空から何かが振って来る。

 かなりの重量だった様で、土煙が立っている。その煙の中央には、さきほどの鮫口の男が。

「早いね? おでんは完食できた?」

 竜太は鮫口の男に向かって軽口を叩く。内心では、少しばかりビビっているものの。

「ここでなら、てめえを殴りつけたって文句はねえんだよ」

 どうやら空から降ってきて、そのまま竜太を殴りつけるつもりだったらしい。勿論、そんな事をすれば竜太は死んでしまう。

 これから反抗する力だって無い。だからこそ、味方に頼ろうとする。

「火比くん。頼んだ」

「だから何が何なんですか!?」

 と、状況の変化に混乱しながらも、火比は鮫口の男に近づいた。怯えて距離を取る竜太とは大違いだ。戦い慣れた動きと表現すれば良いのだろうか? 火比の動作には、若いながらにそんなものが宿っていた。

「なんだぁ!? てめぇ! 引っ込んでろ!」

「そうは言っても、暴力は……」

「うらぁああ!!」

 鮫口男が火比に対して大きく口を開いた。まさしく鮫みたいに大きな歯で噛まれればひとたまりもあるまい。が、火比は迫る鮫口男へさらに近づく事により、その懐に潜り込んだ。鮫口男の体格が常人より一回り大きいからこそ出来た事だろう。

 すぐに鮫口男が、懐の火比を掴もうとした様子だが、それより前に、火比の拳か鮫口男の腹部へめり込んでいた。鈍く響く様な音が竜太の耳にも届き、それが相応の威力であろう事が嫌でも分かる。

「あっ……はがっ……」

 一歩二歩と、鮫口男が体を退ける。火比から距離を置くためというより、その方向に倒れようとしている動きに見えた。

「あ、できれば意識は保ったまま拘束して貰うのが一番良いかな」

 完全に火比にとって有利な状況となった。その事を竜太は把握したので、彼の動きに対して注文を付ける。ここからが肝心なのだ。

「あれこれ言ってくるよなぁ……よっ」

 最初から、鮫口男を追い詰め続けるつもりは無かったのだろう。火比は拳の一撃で震える鮫口男の関節を極めて、地面へと引きずり倒した。

「ぐぉっ!? な、なんの……何のつもりだ!」

 倒れたまま、それでも話す事はできるらしい鮫口男。良い塩梅だと思う。

「なんのつもりかって……俺にも分からないというか……ええっと、何なんですか? これ?」

 鮫口男の関節を固めたままの姿勢で、火比が尋ねてくる。竜太はそんな火比に近づき、今後についての説明をする。

「彼は僕たちの存在に苛ついて襲い掛かって来た。僕らはそんな彼に反撃しただけ。これって中々重要だね。こっちから喧嘩を売ったわけじゃあないって名目ができる」

 ルール無用に近い旧村では、そんな名目が重要だった。何かをするにも、何かしらの問題に関わってくる。そんな面倒な場所で、面倒事を起こさない様にするためには、自分達はむしろ、振り掛かる火の粉を払う立場だと示す必要があるのだ。

「だから……俺に倒させた?」

「君は反撃した。それだけだ。襲い掛かって来たのはこの鮫口男で、しかも鮫口男は無様に負けた。そうだろ?」

 竜太は鮫口男を見る。悔しげな目線をこちらに向け、さらには今にも暴れ出そうと体を揺すっているが、火比の力には完全敗北しているらしく、火比から逃れる事ができない様子。

「だから何のつもりかって聞いてんだよ! くそっ……離しやがれぇ!」

「君みたいなのにとっては、今の状況は屈辱以上に焦る時だよねぇ。旧村では他人に力を見せつける事で、自分の立場を守るって言うのが鉄則だ。だけど今はどう考えたって、その力が無様にしか見えない。舐められたらチンピラなんてお終いだ。それは旧村だろうと別の場所だろうと関係ない」

「な、何だ? てめぇ……何者だ……」

 漸く、竜太自身を気に掛けてくれた様だ。相手に探りを入れるというのは、相手に対して、ある程度の脅威を感じてくれていると言う事。そうやって、漸く話をする土台が出来る。

「僕が何者かはどーでも良い。だけど、この写真に写ってる人間に関してはどーでも良く無い。ちゃんと答えたら解放してあげよう。この写真に写ってる人物……最近、見た事は?」

 また懐から写真を取り出し、鮫口男へ、神谷・卓の顔をしっかりと見せる。

「……」

「黙るなよ。せめて知らないって言った方が、まだ人を騙せる。けど、知らないわけは無いんだよ」

 鮫口男へさらに写真を近づける。それを持つ竜太も同じく近寄る事になるが、鮫口男はいい具合に、暴れるのを一旦止めている。

「この人、ボランティアで旧村へやってきた奇特な人でね。そういう作業をするなら、絶対にあの広場には顔を出しているはずなんだ。で、旧村の外の人間だから目立ってもいた」

 鮫口男が、大きな口で歯ぎしりをしていた。あともうちょっとかなと竜太は考え、火比に視線を向けた。

「だんまりかい? 身内を庇うって程でも無いだろうに……そうだ、火比くん。頼むんだけどさ、もうちょっときつく絞めてあげてくれないかな? こう、悲鳴を上げるくらいに」

「な、なんで?」

 やはり、一方的に痛めつけるのは火比の気が咎めるらしい。だが、今は人助けが優先される。ちょっとヒーローらしくない事も手段に入れておいてくれなくては。

「悲鳴を上げさせた方がさ、みっともなく見えるだろ? 遠くにも聞こえるから、この鮫口男が馬鹿をしでかしたんだって、旧村中で認識され―――

「わ、わかった。話す! 話すからそれは止めろ!」

 脅しが効いたらしい。焦り、冷や汗を流しながら、鮫口男が口を開いてくれる。

「5日前くらいだ! その写真の男が炊き出しかなんか始めようとしてよ、混大の徒党の奴らに連れて行かれたんだ! それっきり見ちゃあいねえよ! 今、いねえってのなら、きっと、何か揉め事を起こしたんだろうぜ!」

「なるほど……OK。分かった。解放してあげて」

 竜太の言葉を聞いて、火比は素直に鮫口男から身を退いた。そもそも、乱暴事は乗り気では無かったのだろう。鮫口男の方も、すぐさま立ち上り、周囲の目を気にしながら、そそくさとこの場を立ち去って行く。

 これ以上の喧嘩を売るには、割に合わない相手だと認識された様だ。

 その場に残るのは竜太と火比の二人だけ。

「だいたい予想通りだったかな?」

 鮫口男の言い分で確証を得た形になるが、こういう情報が来るのではと言うのは、竜太の予想の範疇にあった。

「混大? そんな事言ってましたが」

「正式名称は確か……混沌大学とか大哲とかそんな一派だった気がする。旧村の方にも、君らが相手している組織と似た様なのがあってね……いや、組織っていうより思想集団って言った方が近いか?」

 旧村にいる連中の中でも、まだ話し合える存在ではあるが、一方で、危険な力が集まっているから厄介な相手とも言える。

「そいつらが先生を? 何故?」

「鮫口男の話を信じるならそうなる。神谷先生は旧村でのボランティア活動は今回が初めてじゃないらしいし、個人間の問題で行方不明になったって言うよりは、どこかの縄張りを知らずに荒らした可能性の方が高い……かも」

 まだ断定はできない。そのために探りを入れるのだから。

「そもそも信用できるんですか? あの男の話」

 一方的に痛めつけ、無理矢理聞き出した話。それを火比は信用できずにいるのだろう。

「信用云々なら、この場所の誰もが信用に値しないよ。適当や好き勝手に話す連中ばっかりだ。けどね、だからこそ、わざわざ嘘を吐く理由も無い。誰も彼もが信用できないんだから、誰かを庇ったり秘密を守ったりする必要も無い」

 やるべき事は嘘かもしれない情報でも動く事だ。頼れるのは自らの行動のみ。旧村にあるルールの一つと言える。

 なんとも世知辛い社会だとは思うが、誰かが何かをやってくれると言うのは、もうちょっと開けた世界の話なのだ。

「……で、その混大って連中はどこに?」

「縄張りなら大体知ってる。そこで問題を起こせば、すぐに集まってくるだろうけど」

「その問題を起こしたくない」

「だよね。だったら穏便に行こう」

 少々面倒であるが、その面倒を享受しなければ、世の中は何時だって不穏になる。

「……穏便に?」

 火比は先ほどまでの状況について疑問符を浮かべているらしい。そりゃあ確かに、多少なりとも荒っぽい事をしたとは思う。

「言っとくけど、あれくらいはここらじゃ日常だから。日常を乱しているとは言えないかな。だから次も、ここらの日常に即した行動をすればそれで良い」

「な、なんか不安になってくるなぁ……」

 それは仕方ない。あまり慣れぬ土地柄なんて、誰であろうとも不安になると言うものだから。


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