第四話
「そこは花の園と呼ばれる場所ですわね」
次の日の朝になり、場所は生徒会室へ戻る。そこで寝不足気味の目を擦りながら、竜太は四雨会に昨夜気になった事について尋ねていた。
「花の園って……花の四天王だったけ。彼女らと関係あったり?」
「花の四君……彼女らが普段から集まっている場所ですわね。一般の生徒とは違うということを、場所からして示しているというか。そもそもあの小屋自体、元花の四君だった生徒の親族が寄付の形で建てたものですし」
なるほど、そういう場所だったかと新しい情報を受け入れる。材料は多い方が良いし、その方が最終的な着地点も想像し易い。
「っていうか、あそこにまで不法侵入したの? まるっきり泥棒じゃないの」
日が変わったって、那姫の方は睨んでくるのを止めない。いい加減、そういう風に不機嫌に日々を過ごすのは、胃に悪いと思うのだが。
「何かを盗んだら泥棒だろうけど、僕はただ中を見学しただけだからね。学校見学は犯罪じゃあない。無実だよ」
「許可を得ずにであれば犯罪だと思いますけれど、名目上は、わたくしが許可を与える形になっていますわねぇ」
困った口調で話をしているが、実際はそれほど問題視していないはずだ。四雨会をそういう人間だと竜太は評価する様になっていた。
「花の四君さん方が集まってるのは分かったけど、それ以外の人間は近寄らない感じ?」
「滅多には。そもそも彼女ら専用の休憩室や雑談室ですし、学校側が決めた役職でもありませんから、何かを頼む様な事も無いかと」
「なるほど。だいたい見えてきたかもね」
材料は思いのほか集まってきた。後はそれぞれの情報の確度を高め、真偽を明らかにした上で、どの様にその真実を無難な形へと見せるかだ。
「って、え? 見えてきたって、犯人分かったの!? 幽霊が見えたとかじゃなくて!?」
声を張り上げる様に驚く那姫。つい、睨むのも忘れてしまっている。
「犯人はまだなんとも……候補はいるだろうけど、どちらかと言えば、今回の放送の原因やら事件の過程やらが想像できる様になったって感じかな」
「つまり……分かった様な、分からない様な形だと?」
四雨会の指摘通り、これですべての解決に乗り出すにはまだ早かった。ただ、道筋を立てる事ができるし、その道を進むために何をすれば良いかは分かる。
「ちょっとね、君らに頼みがあるんだ。もしこの試みが成功したら、上手く事を収める自信はあるよ。どうする?」
「無理難題と言うわけで無ければ、もちろん、協力させていただきますわ。わたくし側が解決を頼んだわけですし」
「四雨会が言うなら……私もするけどさ」
二人の肯定的な発言を聞き、竜太は頷く。勿論、彼女らに無理な事を頼むわけが無い。竜太が望んでいるのは、ちょっとしたお茶会を見学させてもらう。それだけの事だから。
緑の匂いが鼻に付く。もうすっかり夏めいた季節の中で、竜太は視界に広がる木々を見て、そんな感想を抱いていた。眠気のせいか、どうにもこの森林庭園と言う場所を肯定的に捉えられない。普通は、こういう景色を見て楽しむものなのだろうが。
(まっ、あと少しで終わりって状況まで来てるから、不快だろうが何だろうが我慢するさ)
そうして背中を預ける。木の感触が伝わってくるが、別に木々に背を預けているわけではない。
自分は今、森林庭園の花の園などと呼ばれる小屋まで来ており、その裏手側の壁に背中を預けつつ、座っているのだ。
表にしか出入り口が無い小屋なので、普通に利用すれば死角となって見えぬ場所に陣取っている。何のためかと言われれば、この小屋の中で行われるお茶会の内容を盗み聞きするためであった。
「……で。いったい……かしら?」
(おっと、始まったな)
竜太は姿勢を正し―――もっとも、背筋を立たせただけであるが―――小屋の中の話しに集中する。
「ええ、その……緒方さんからの注意に、わたくし共も些か思うところがありましたので、一度、こうやって赴いてお話などをと」
四雨会の声が聞こえた。今、この小屋には四雨会と那姫。そうして小屋の主となっている花の四君が揃っている。
彼女らのお茶会という名目であるが、実際は、最近の素行について、反省の弁を述べたいと言う理由をでっち上げて、四雨会に他の女生徒を集めてもらったのである。
「四雨会さん。あなたの方からこの会を開きたいときき、私、実はとてもうれしいの。少なくとも、自分で今の状況をなんとかしたいと思っていらっしゃると言うことなのだから」
(この声は、あの緒方って生徒か)
緒方・秀美。背が高く綺麗で、スポーツの成績も良く、一般的な成績はもっと良い。品行方正を絵に描いた様な生徒らしく、また聞いていた通り、法曹関係の家柄で、家族に至るまでの身なりまでしっかりとしている。
頭の中で、そんな風に四雨会から聞かされた彼女の情報について反芻する竜太。彼女だけではない。花の四君なんて呼ばれている女生徒は、全員、記念撮影用の写真なども見せてもらって、顔立ちと背格好。背後関係まで情報を得ていた。
このお茶会の際に、竜太は声だけで個人を判断しなければならないから必要だったのだ。勿論、このお茶会が終わった後に、どの様な形で事を収めるかについても、これらの情報を利用するかもとは考えている。
「けどさー。那姫ちゃんまで連れてきちゃうって言うのは軽率よねー。四雨会さんってさぁ、公私混同みたいな事、結構しちゃう感じ?」
間延びしているが、一際高い声が聞こえる。
(声の印象からして、背が低そうだな。あとは四雨会くんへの敵対心がありそうだ。だとすると……稲峰・沙也って生徒かな?)
写真で見た限りでは背が低く、顔立ちも子どもっぽい。高所得者の家庭出身らしいが、あくまでそれだけだ。素行については悪いわけでは無いものの、学業については平均点くらいで、このお嬢様達の集まりの中では、あまり良い方では無いそうだ。
(四雨会くんが花の四君にならなかったから、代わりとして入ってるなんて噂されてる生徒らしいね。だから彼女が気に食わない)
ちょっとドロドロとした背景を感じ取り、幾つの年齢だろうと、女性の集まりは伏魔殿だなと思ってしまう。
「まあ待って、ボクは那姫君が来てくれた事にも嬉しく思うよ。四雨会君と那姫君の仲は良いし、学外での付き合いも長いんだろう? なら、一緒にお茶を飲むのには抵抗はないよ」
(こっちは分かり易いね。歌劇団の男装女優みたいな雰囲気が声からでも伝わってくる)
名前はきっと、石崎・麻子と言うはずだ。緒方以上に身長が高く、女性にしては体格も良い。中性的な顔つきであり、これで本当に男性なら、引く手は数多だろうとは写真を見た上での感想だ。
(本人にその気が無ければ、嬉しくも無い評価なんだろうけどね)
ただ、本人的には周囲の女性が望みそうな、ややもすれば男性的な振る舞いをしたりするそうだ。口調についても意識してだろう。彼女らの中での立ち位置的には、常識的かつ無難な発言をする役割らしい。
「どうでも良い事です。あくまでこれはお茶会のはずでしょう?」
最後の一人の声も聞こえた。残りとなれば、名前は狗巻・芹香という女生徒だろう。少なくとも同学年での成績はトップクラスであり、常に一位を維持しているそうだ。
つまりはガリ勉タイプかと竜太が言葉を漏らした時、ガリ勉とは何だと那姫から返されてショックを受けた印象がある。彼女とはまったく関係の無い印象であるが、まあ、写真では眼鏡を掛けていたしガリ勉だろう。
「正直なところ、ここに那姫さんがいる事については、私も良い気分ではありません。栄えある花の園は、その立場に相応しい人間がいるべきとの伝統もあります。ですが、普段の素行が問題視されている生徒へ手を差し伸べると言うのも、崇高な行いなのではないでしょうか?」
と、最後に緒方が締めた。どう聞いたって、那姫を侮辱する様な発言が続いていたが、彼女はどう反応するか。それに期待したい。
(上手くやってくれよ……)
四雨会にこの集まりを作ってくれように指示したが、那姫の方にも、頼んでいる事はある。
「馬っ鹿みたい」
「なんですって?」
「馬鹿みたいって言ったのよ。崇高な考え? 一緒のお茶に抵抗はない? はー、まさか。内情は良く知らなかったけど、そういう言葉がばんばん飛び出すもんなのね」
那姫の言葉が、場を凍らすのが壁越しですら分かった。だが、言葉を発した本人は止まらない。
「なんか自分達を特別に思ってるんだろうけど、糞真面目女と男女とガリ勉……? だったかしら。それと……ごめん、思い浮かばないけど、そういう連中でしょう? お友達会なら好きにしとけって感じ。けど、噛み付かれたら噛み返すわよ。私はね」
最近憶えた言葉まで使って、この場そのものを嘲笑する那姫。彼女がヒステリックなわけではない。彼女はむしろ、すこぶる冷静だと思われる。
「那姫さん……聞き捨てならないわね。花の園でのお茶会をお友達会ですって?」
凍りついた場は、一気に燃え上がる。真っ先に火に油を注がれたのは緒方である。こちらからはまったく見えないが、もしかしたら那姫に掴みかからんばかりかもしれない。こちらから様子が見えなくて本当に良かった。
「お、男……男女」
「ガリ勉とは………?」
「ちょーっとまってってー! 私だけ何にもないってどういうことー!?」
口々に言葉が飛び出している。竜太の仕事は、それを楽しく見守る事ではなく、その言葉をすべて聞き取る事であった。
(いいぞ。その調子だ、那姫くん)
那姫への頼みごとは、つまりはこう言うことだ。対象の生徒が集まった段階で、場を荒らして欲しい。その方が、聞き出したい素の話が聞けるからと。実際、このままヒートアップしていけば、そんな状況もすぐだろう。
「はっ! 気に食わない感じ? 真面目女さん。けど何度だって言ってあげる。ここにいる全員、私と対等よ。とやかく言われる筋合いは無い。この小屋だって、何代か前の上級生が立てたもんで、別にあんた達のもんでも無いでしょう?」
(えっと……本当に心は冷静かな? 那姫くん?)
そうじゃないかもしれないな。と思いながら、それでも場の中心にいないから止める事もできない。止めに入れば、不法侵入者だと騒がれて、さらに状況を混乱させるだけだし。
「寄りにも寄って、花の園そのものまでも……! もう許せないっ。四雨会さん? あなたからも何か言うことはあるのかしら?」
「その……なんと申しましょうか。まあ」
「まあじゃないでしょう!?」
普段ならきっと、四雨会は那姫のストッパー役なのだろう。だが、ここは竜太の指示があるためにそれを行わない。だからどんどん、状況は白熱するばかりなのだ。
(あれだね、望むところって思おうか。暫く続けば、結論も出せそうではあるしね)
そう思いながら、竜太は目の前にある木々の緑を視界に収めた。夏の濃い緑であるが、小屋の中での騒動よりかはまだ優しげがある。なるほど、緑が心を癒すと言うのは、こういうことなのかもしれない。
その日、緒方・秀美の運勢と気分は最悪だった。ここ最近は悩ましい事が続いていたというのもあるが、そこに来て、今日の喧嘩染みた一騒動である。気分良くなんてなれるはずも無い。
「ああもう……なんてこと」
那姫・蘭……あの女の顔が頭に過ぎる。今回に限って言えば、あの女が元凶だろう。秀美が花の君にふさわしいと考えている四雨会・天香を無理に連れまわし、彼女の価値を貶める。那姫という生徒に対する秀美の評価はそんなものだ。
そんな相手が、さらに花の園や花の4君まだ罵倒するのだから、我慢の限界をとっくに過ぎていた。罵声だけに留まらず、手が出なかったのは、この場所を汚したくないという秀美の意思がそうさせていたに過ぎない。
良くもまあ自分は我慢できたなと、秀美は視界を上げる。他の生徒から花の園と呼ばれ、那姫自身もそう呼ぶこの小屋は、景色として美しく、校舎と比べれば洒落た部分も多い、そんな空間だ。
だが、場所だけで見ればその程度の場所なのだ。多少、立地に恵まれた木造の小屋。調度品に関しても、秀美が良く掃除や整頓をしていて纏まっているが、だからと言って何より価値があるわけではない。
この空間の価値とは即ち、学校が出来てからずっと続く伝統の価値なのだ。花の4君の伝統は古い。学校内で一目置かれる生徒4人が、代々その名前を受け継いできた。誰もが素晴らしい人間であり、OBの中には街の人間なら知らぬ様な立場の女性もいる。
だからこそ、大切にしなければならない。尊重しなければならない。形無きものに手が触れ得ぬ以上、この場所を丁寧に扱わねばならない。だと言うのに、あの那姫という女は、そこに唾を吐きかけるのだ。
(いえ、実際に吐きかけたわけではないけれど、それと同じ事をしたのよ。彼女は)
だから怒りが抑えられない。しかし、そんな感情的なのでは駄目だ。感情的になってはならないのだ。だからこそ、誰もが去った後のこの場所で、まだ一人、我慢を続けている。自分一人では抑えきれない感情も、この花の園という場所なら包み込んでくれるはず。そうでなければ自分は……。
「え?」
上げた視界の中で、突拍子も無い事が起きた。小屋の窓から、フランケンシュタインの怪物みたいな覆面を付けた不審人物が侵入してきたのだ。一切の躊躇も無く、秀美の姿も気にせずに。
いや、さすがに秀美の存在はしっかりと受け入れているらしい。
「緒方・秀美だな」
その覆面の内側から、くぐもった声で話し掛けてきたのだから。
「悲鳴を上げられる前に言っておくが、私は不法侵入者ではあるものの、君側の人間だ。君のその“力”寄りのな?」
上げそうになった悲鳴を、その言葉が留める。そんなまさか……力と言ったのか、この不審人物は。
「いったい何の……」
「恍けても無駄だ。既に調べは付いているのだからな。君の力……今は学校内の放送をジャックするしか出来ないようだが」
「……っ」
どうして。本当にこの不法侵入者はこちらについてを知っている。悩み、ひたすら隠し続けた事だったのに。
「君の悩みについても知っているぞ? だいたいの人間が持つ悩みだよ、それは。力が扱いきれない。周囲にバレてはどうしよう。と言った奴だろう? 今まで一般人してた奴らがだいたいそうやって悩み、時には事故を起こす。悲惨な事故だ」
目の前の男……恐らく男だろうが、どうにも秀美の力について、秀美以上に知っている様な気がする。いや、きっとそうなのだろう。なら、自分が出来ることは……。
「ね、ねえ。この力が何なのか私は知らない。急に、自分の思ってる事が放送で流れるのよ!? こんな事ってある? けど、あなたは詳しいみたいね? だったら―――
「力を消し去って欲しい。その方法を教えて欲しいという話ならNOだ。一度生まれた力は人間生来のものだ。都合良く消すことなんてできない。学校の授業では教えていないのか? だからみんな隠しているし、苦労もしている」
その返答は絶望に近い感情を秀美に与える。
これまで散々悩んで来たのだ。この力に目覚めたのはつい最近……学園祭の準備が始まった頃だ。最初、秀美は学園祭の準備のため、日が落ちる頃まで残っていた
場所はここ、花の園。そこでクラス出店のポスターのデザインを考えていたのだが、少し疲れたな。そう感じた時、放送が鳴った。
良く分からない放送。そこでぼそぼそと聞こえた声だが、何故か自分の声に似ていると感じる。
それが何度か続き、噂になった頃……漸く、自分がこの場所で作業している時、自分の心の中の声が漏れている事に気付いた。
この……花の園に何かあるのか。そう思ったが、そうではなかった。ただ自分が、何かの放送機器の近くにいる時に、それは発動するのだ。自分の意思と関係なく、まるで力が暴発する様に。
「何度も言う、力は無くすことはできない。だが……制御する事はできる」
「それは……本当に!?」
それは望むべきものだ。力そのものが消えてしまえばと思うのが第一だけど、それでも、ちゃんと自分で操れれば、周囲から隠すことができる。自分の悩みも、大分マシになるはずだ。
「本当も本当だ。ちゃんと制御できない連中がそこら中にいれば、もっと世の中、混乱に満ちているはずだろう? そうでないということは、隠れて力を持っている連中が、上手く隠しているということだ……あ、私もそんな感じだ」
何故か目の前の男の言葉が崩れて来た。本当に信用しても良いのかという疑念も相応に膨らむ。そもそもからして、信用すべき登場の仕方と外見をしていない。
「なら、私にもその制御の方法を教えて……え? 教えてくれるの?」
「最初からそのために現れた。それが私、怪人フランケンシュタイン仮面だ。言って置くが冗談では無くそういう名前だ。君だって見た事があるだろう。どこぞで喧嘩したり正義の味方とぶつかったりしてる」
「ええっと……秘密結社なんとかとか言う連中の事? あなたがその一員?」
「似た様な感じだな。そこでだ、緒方・秀美! 君の悩みを解消したい。力を制御したいと考えるのであれば! 私達の元に来い! 君にはその力がある!」
「え? 嫌ですけど?」
「……」
力のせいで日常を送れなくなるのが嫌なのに、なんで良く分からない組織の一員にならなければならないのだ。本末転倒も甚だしいし、その道を選ぶくらいなら、力の暴走とやらが起こった方がマシに思えた。そっちだって嫌だけど。
「ま、まあ。そんな返答が帰って来るかなとは薄々感じていた。だいたい、勧誘したって大概の連中は付いて来てくれないんだ」
「勧誘は大変そうだけど、当たり前よね」
そうしてフランケンシュタイン仮面は悩みこむ様な仕草をし始めた。顔の部分は覆面なので、不気味な姿ではあったが。
「……ただ、君はそれでも力を制御すべきだとは私は思う」
「私だけの問題ではなく?」
「その通りだ。力を持つ人間が暴走したら、大概は社会に害が与えられる。そうして社会は、害を与えた本人だけでなく、同じ様に力を持った人間に対して、色々とやり返す。君くらいの年齢ならそういう事も分かるだろう?」
差別とかの問題だろうかと思う。今、秀美は力の存在を隠したがっているのは、力を持つ人間に対しては、少し距離を置くという考え方があるせいだ。そうしてその考え方があるのは、力を持っている人間が、過去に社会に対して害を与えた歴史があるからに他ならない。
「今、それが暴走しているのなら、個人的にも、制御して貰わなければ困る」
「困ると言われたって……私が一番困ってるのよ!?」
話が振り出しに戻ってしまった。結局、目の前の男は解決役とはならない。そもそもの外見からして頼りにすべきで無い人種だ。
「いっそ、別のちゃんと力を制御している人間が教え込むのが一番なのだがな……ああ、そういえば、この学校にもいたか」
「え? ちょ、ちょっと待って。それは本当?」
自分以外にも、この力を持っている人間がこの学校にいる? 初耳だった。しかも、自分が気づいていないということは、上手く隠しきっていると言う事でもある。
「……教えて欲しいかね?」
「そ、それは……」
「教えて欲しいならばここで約束して欲しいのだが、しっかりとその人物から力の制御方法を学んでくれ。了承が無ければ教えることはできないな。これは力を持つ者同士の信頼関係に関わるのだから」
言われて悩む。どう答えるのが正解なのだろう? けど、自分が今、どん詰まりにいることだけは分かった。どうにかするためには、誰かの助けを借りる必要があるのは事実で、目の前の男に頼るのだけは避けたい。ならば……。
「本当に……約束すれば、その人たちを教えてくれる?」
「勿論だとも。それで私の悩みが一つ減るのだからな」
答えるべき事は決まっている。そう思えた。これだけが、自分が進める唯一の道なのだ。