第二話
人には様々な一面がある。私生活での姿、仕事をしている時の姿、そこらを散歩している時の姿。どれが本音に近いかと言うのなら、そのどれもが本当では無い。その時々に応じて、考えの優先順位すら切り替えられるのが人間だ。
四雨会・天香という女子高生にしてもそうなのだろうと竜太は思う。ヒナエレインとしての姿、女子高生としての姿。自分のところに仕事を持ってきた時の姿。そのどれもが建前の姿でありながら、本当の姿でもある。では、そんな彼女が今、見せている姿は何なのだろうか。
日苗女子の校舎へと入った竜太が見る限りは、彼女はこの高校の生徒会長の姿をしていた。
「なんだね……職権の乱用なんじゃないかって思う事はある。こう、すれ違う生徒さん達からじろじろ見られていると特に」
校舎の廊下を歩きながら、前方を歩き続ける四雨会へ話し掛ける。話しを続けていなければ、自分が不審者だと思われかねないからだ。なにせここは女子高の中。男性の姿を見掛ける事はあまり無いはずだ。それもまったくの部外者であればなおさら。
「学校の生徒会長が、来客へ校内案内をするというのは、それほど権限を逸脱してますかしら?」
「うーん。相手によると思うけど、僕みたいな奴を案内してるって言うのは、ちょっと頂けないな。すぐに教師なんかに相談するべき案件だ」
「そうすると、やや状況が面倒くさくなりますから、しないでおきますわね」
「懸命な判断って本気で思ってる? それ?」
四雨会の表情を見てみたくなり、横へ並ぶ。動揺なんて微塵も見せぬその表情。優等生のさらに代表みたいな立場である、高校の生徒会長なんて姿と良く合っていた。
彼女はその立場で、竜太を学園祭のイベントのために、校舎を見て回らせなければならない人物だと、門に詰めていた警備員に対して堂々と謀ったのである。
最初は大丈夫だろうかと訝しげだった警備員も、校舎内にいる間は四雨会がずっと付き添っているという話を聞いて通してしまった。普通の生徒なら、これだけの話で済むはずも無いが、四雨会ならそういう事もするなんて認識を持たれているに違いない。
「わたくしの立場がそんなに心配ですの? でしたらご心配なく。例え、あなたを校舎に入れた事が教師や職員の方々にバレたところで、上手く乗り切る自信はありますから」
「つくづく思うんだけど、最近の学生って君みたいにふてぶてしいのが一般的だったりする?」
世の中は何時だって変わる。若者の成熟が早くなったって、それが現実なのだから認めなければならない。そうは思うものの、目の前の少女のやり口は、どう考えたって清純な乙女とは程遠い。
「さあ、目的の場所へつきましたわよ」
「ははっ。話しを聞き流すやり方まで心得てるよ」
無駄な話はしない。金銭を払うと約束しているのだから、そちらはとっとと仕事をしろ。言外にそんな意思が伝わってくる。
仕方なしに、竜太は仕事をするための思考に切り替えた。案内された場所は放送室。ここを起因として噂される、とある怪談話が、竜太の仕事へ大きく関わってくるらしいのだ。
「一応言っておくけど、僕は霊魂を信じてないし、万が一にでも存在したところで、門外漢って事になる。それは良い?」
「ええ。勿論ですわ。ですからあなたにしていただきたいのは、まずここを確認してから、どうすれば事が無難に収まるのかを考えていただく事ですの」
もし、さらに言葉が続けば、その他の余計な事は、自分が解決できる。なんて台詞になっているのだろうか? 竜太に求める事が良く分かっている姿を見ると、増々、彼女が単なる学生に見えなくなってきた。
「わかってくれてるなら有り難いね。開けても?」
「どうぞ。この時間なら、誰かがいる事もありませんし」
了解を得たため、竜太は放送室への扉を開く。ガラガラと音が鳴り、横滑りに開いた扉の向こうには、幾つかの機器が所狭しと並んでいる小部屋が存在していた。
機器から伸びたマイク。ボリュームや何かの調整用であろうスイッチやつまみ。有線用の細長いケーブルなどもあって、それぞれにどんな機能があるかは分からないものの、ここが間違いなく校舎へ放送を流すための部屋である事は一目で分かった。
「……妙なところは無いね」
余計なものを触らない様にしながら、部屋の奥へと入って様子を見る。
「そうですの。変なところなど無いんですのよ」
それが問題だと言う困り顔を浮かべている四雨会。確かに悩みどころだろう。だからこそ、悩んで竜太に話を持ってきた。
「一度、話をまとめてみよう。ここから仕事を進めるならそれが良い」
竜太がそう提案すると、四雨会は黙って頷いた。
「まず、君の悩み。この放送室に誰もいないはずの時間帯……だいたいが夜だって事だけど、放送で怪音が流れるという怪談話がある」
「ええ、どうにも生徒達がそれに怯えていて」
「最近は学園祭間近で、夜に残る生徒もいた。そんな生徒が確かにその怪音を聞いたって言うのが、噂がさらに厄介になっている原因って話だよね?」
「わたくし、その噂に関しては事実だと思っていますの。怪談話自体は昔からある話だそうですけれど、今回に限っては、実際に怯えてる娘たちまで出ていますから」
「すくなくとも、何がしか普通とは違う状況ってわけだ。そんな状況になり、君は困った事になった。放課後に残る生徒が極端に少なくなってる。僕も耳にするけど、この学校の学園祭って、かなり大規模で、生徒さんの頑張りなんかが凄いって聞くよ」
「授業の合間に用意されている準備時間などがあるのですけれど、お恥ずかしい話、放課後や休日に出ての準備を始めて、漸く当日のための催しが完成するという状況でして」
つまり、放送室から始まった怪談話が、その学園祭の邪魔になっており、それを排除したいというのが彼女の根本的な悩みと言う事だ。
「そこからの発想が僕には面白いと思ったね。単純に問題を根こそぎ解決するんじゃなく、問題の真相そのものが学園祭にとって邪魔になる様なら有耶無耶にする事も厭わない。だから僕に頼む事にしたって、そういう話だった」
「ええ、その通り。問題を解決するなら、力押しで出来る可能性もありますけれど、もしかしたら繊細な話かもしれませんし」
「だからか……僕に霊魂を信じるかどうかを聞いたのは」
「わたくしも、まったく信じていない側ですから。そういう噂が流れていて、学園祭の準備に不都合が出ているとすれば、むしろ人間的な理由がそこにあると思いますでしょう?」
まったくもって同意できる話だった。誰かしらが意図を持って学園祭を邪魔しているかもしれない。
それが明るみに出た時点で、学園祭そのものに不都合が出る可能性もある。だからまず、状況を無難に収めて欲しいと、彼女はそう望んでいるのだ。
「まったくもって調定役が必要な状況ではあるね……けど」
「けど……なんですの?」
「いや、仕事を始めるにしても、どこからにしようと思ってさ」
本音は別にあった。確かに困った状況であるが、だからと言って、結局は学校の一イベント事でしかないのだ。そんな事に、わざわざ金まで払って仕事を他人に頼むなんてするだろうかと思っただけである。
が、そこにも必ず理由があると竜太は考えている。そこもやはり、何がしかの問題に関わってくるのだ。首尾よく事を収めると言うのは、そんな考えすらも汲み取って、どんな人間にもとりあえずの安心を与える事に他ならない。
「どこからか……ですわね。放送そのものは夜ですから、夜にまたここへ、というのはどうでしょう?」
「それよりもまず、出来る事ならだけど―――
実際の行動へ移ろうとした竜太達。だが、そこで違和感が発生した。一体それが何であるかについては、最初、良く分からなかった。
だが、正体はすぐに分かる。放送が流れたのだ。覚えた違和感は、校内放送が流れる前のノイズが原因だったらしい。
『……た…………て…………』
誰かの声がノイズの中で微かに聞こえた。声の高さから考えるに女性だろう。だが、いったい何を言っているのかは分からない。それくらいの小ささだった。
「ここ以外に、放送室があったり?」
「いいえ。この部屋だけですわね」
自分達以外に誰もいない放送室を見渡す。狭く、隠れる場所などどこにもないこの光景を見れば、竜太で無くても、妙な事態になっているのは理解できるはずだった。
ざわつく校舎の廊下を、竜太は四雨会と共に、早歩きで進んでいた。
「できれば、もう少しあの部屋を調べたかったんだけど」
「放送室はあそこだけと言いましたでしょう? 誰かのいたずらだと思って、教師の方々がやって来れば、まっさきに疑われますわよ。特にあなたは」
それは間違いなくそうなる。女子高に、見知らぬ男がいるのだから、その不審者が何かをしたとするのが自然だし、当然の成り行きだ。
「けど、生徒の方はそう思っていないみたいだね?」
廊下がざわついているのは、生徒達が先ほどの放送を聞いたからだ。既に放送室の怪みたいな形で怪談話が広まっている。これまではあまり人がいない時間帯の放送だったのだろうが、今回は昼間から誰もが聞いた。噂にもなるだろう。
いや、噂にはもうなっているのだ。今の放送は、噂を証明する形になった。
「次の授業時間まであと5分ほど。それまではみなさん、いろいろと怖がったりおもしろがったりすると思いますわ」
それは四雨会にとって、あまり良い状態では無いのだろう。端正な顔立ちが、ほんの少しばかり歪むのを見た。
「生徒会室へ向かいましょう。今なら、あそこは誰もいないはず。この雰囲気の中だと、あなたの姿は目立ちますし」
「そうで無くても目立ってたよ。ところで、あと5分で授業開始との話だけど、君は受けなくても良いの? 生徒会長が堂々とサボり?」
「サボる云々なら、何時もの事だと思っていただけるかと。あなたも知っている諸事情により、良く、授業を抜け出しておりますの」
「なるほど。魔法少女も大変だねぇ」
悪の秘密結社が、わざわざ放課後の時間帯を選んで現れてくれるはずも無く、平日に敵が現れれば、何時も学校を抜け出しているのだろう。
話しながら進んでいると、すぐにその生徒会室が見えてきた。何か荘厳な……という場所でも無く、普通の教室らしい部屋に、生徒会室のラベルだけが付けられている。鍵も掛かっていない様なので、特に警戒もせずに扉を開く。
「確か、誰もいないはずじゃなかったっけ?」
竜太の視界には、生徒会室の中に並ぶ椅子の一つに、こちらを睨みながら座る女生徒の姿があった。なんだろう、会った事が無い相手のはずなのに、どこかで会った気がする。
「切れ目に短めの黒髪。スカートも校則ギリギリかアウトの長さかな? それはそれとして、椅子に座りながら足を組むのはいただけないな」
なんとなく、素直に彼女の外見の感想を言葉にしてみる。必要ない事かもしれないが、やってみたいなという好奇心があったのだ。
「ちょっと天香! こいつ……どういうこと!?」
「蘭……あなたこそ、どうしてここに?」
四雨会の知り合いらしい女生徒。なんだか話が長引きそうな気配がしたため、竜太は色々と段階をすっ飛ばす事にする。
「もしかしなくても、君がヒナエクインだろ」
「なっ……なんで分かっ……」
「君らみたいなのとは結構付き合いがあってね。勘って言葉が一番近いかな。少なくともヒナエクインは何度も見た事があるし、実際に話した事がある。雰囲気がね……そういうのは化けても隠せないよ」
ここに来て、ヒナエツインズが揃ったと言う事になるのだろうか。案外、彼女の方も優等生みたいな立場かもしれない。その逆も有り得るか。
「ば、化けるですって? 人を何だと……」
「ちなみに僕がここにいる理由は、隣の彼女。君の相棒から仕事を受けたからだ。やましい事では無いけど、やましい仕事をしている立場なのは自覚あるから、文句はとりあえず聞こうか。事情はこれで把握してくれると思う」
「……」
漸くヒナエレインが絶句してくれた。何やら姦しい言い合いにならなくて良かった。
「もしかして……こういう事態に色々と慣れていらっしゃいますの?」
「どうだろう。もうちょっと厄介な事なら、腐るほど経験と記憶があるんだけど」
いちいち変化し続ける現実に頭を悩ましていたら、この街では何もかもやってられなくなる。だからできるだけ、さっさと状況を落ち着ける。健全な人間の知恵というやつだ。
「……あ……あー……ちょ、ちょっと待って。納得したわけじゃないわよ!?」
思考停止にまで陥っていたヒナエクインが、漸く再起動したらしい。頼むから、そんな大声を上げないで欲しい。はしたない。耳に響く。
「だから文句は聞くったら。質問は何だい? それとも、君の相棒と話し合いたいの?」
「だ、だからその……なんでその……こいつなんかに頼みごとをするのよ!」
こいつと指さされた。随分と雑な扱いだ。そう言えば彼女、男性嫌いだったか。彼女にとってみれば、不倶戴天の敵が自分の相棒の近くにいると言うことになるのだろう。
「その頼みごとと言うのが、あなたの苦手な事でしたから……わたくしの手にはやや余りますし」
「に、苦手って……もしかして」
「ええ、先ほども放送で聞いたかもしれませんけれど、放送室の怪に関する……」
「きゃー! きゃー!!」
途端に耳を抑え、机の下にもぐり始めたヒナエクイン。なんとも活発な。
「彼女……ヒナエクインは、男性も苦手ですが、お化けや幽霊と言ったものも大変苦手としておりますの」
「じゃあなんだったら得意なんだろうね?」
頭を掻きながら、次に何をするべきだろうかと、竜太は溜息を吐きたくなった。
ヒナエクインの本名であるが、那姫・蘭と言うらしい。学校では四雨会と共に、生徒会に所属しており、運動部関係の会計なんかをしているとの事。
活発そうな見た目と言動をしているため、実際に何かの運動部に入ってはいないのかと尋ねたところ。
「わたくし達、あまり体を動かす関係で公式的な記録を作れませんので」
と、四雨会から回答を貰った。なるほど、魔法少女なんて力が備わっており、それを隠している以上、表立って力を発揮できないのだろう。
「はんっ。それで、調定役さんとやらが、私達にもできないお化け退治をなんとかしてくれるってわけ?」
「お化けって単語を言葉にするだけで震えるなら、あんまり言わない方が良いんじゃないかな?」
とりあえず立ちっぱなしも何なので、この場にいる3人とも、手近な椅子に座っている。那姫などは、四雨会が自分を置いてあちこち動き回っているのを聞いて、ずっと生徒会室で待っていたそうだから、座り慣れていると思われる。
「で、僕に問題を解決できるかって話だけど、どうだろう。そもそも問題が何かを知らない事にはどうにもできないよね」
「問題なんて丸わかりじゃないっ。あの放送よあの放送!」
那姫はいちいちキンキンと頭に響く声を出す。それでいて、男の竜太とはできる限り離れたいのか、一定の距離を置いている。だから声が大きいのだろう。
「じゃあ、あの放送がどこから流れて、どういう意味を持っているか……君には分かるかい?」
「そ、それは……」
「だったら何にも分かってないと同じだよ。だからまず、調べない事には何も始まらない。そこで四雨会くんには頼みたい事があるんだけど」
「あら? わたくしにですの?」
別に那姫でも良いが、大人しく聞いてくれるとは思えないので、彼女に向ける事になる。
「今回、放送関係の噂が流れ始めた原因。多分、実際に誰かが聞いたんだろうけど、その人から話を聞きたいんだ。一番最初、何が起こったのかを知れれば、自ずと道は……開かれれば良いなぁって」
「随分と自信の無い発言ですわね」
「別に探偵でも霊媒師でも無いからね。専門家じゃあるまいし、簡単に出来るなんて事は言えないかな」
材料を集めてそれを整理するのが調定役だ。その材料が集めきれるかとか、材料の質がどうであるかなどまでは責任を持てない。
「けど、それくらいの事であれば容易いですわ」
「へえ。さすが学校の生徒会長。学校内での行動には自信があるみたいだ」
ある程度、今回の件に関しては頼りになるかもしれない。そう思っていたが、予想外の回答を貰う。
「というか、そこにいますもの。最初に噂を広めた人間が」
四雨会が示す先には、非常にばつの悪そうな表情を浮かべている那姫がいた。
「な、なによ。悪い? 苦手なのよ、こういう話って。最初の時も怖くって、動転しちゃってたんだってば」
なるほどと、竜太は納得した。那姫の様子にでは無く、竜太に仕事が回ってきた経緯についてを。
那姫がその放送を聞いたのは一週間くらい前の事らしい。学園祭の準備が始まったばかりであったが、どうにも今年は気合を入れてと言った気分だったそうで、彼女は他に生徒の気配が無くなる時間帯まで、生徒会の役員としての仕事をしていたそうだ。
実際、部活動関連の会計役ともなれば、金銭的な変動が大きくなるこの時期がもっとも忙しいのだと思われる。
とは言え、学生レベルであれば、それでも夜遅くまで残らなければならないと言う事も無いのだろう。が、そんなのは本人の意気込み次第で大きく変わるものだ。
自らの役割を全うしようと集中していた。誰もいない生徒会室。ふと気が付けば日は落ちて、どうにも自分は一人きりになっている。その事実を把握するや、途端に不安になったそうだ。
今日はもう、荷物を纏めて帰ろう。そんな風に考え始めた頃、それは鳴ったらしい。
「あ、あれは地獄からの呻き声よっ。間違いないわっ。地底の底から、墓を壊されて怒った死者が、学校の放送を通して恨み言を吐いているのよ!」
顔を真っ青にしながら那姫が話している。どうにも、オカルトが苦手と言うのは本当らしい。全身がガタガタ震えていた。竜太にはそれほど怯える状況とも思えないのが、感性は人それぞれと言ったところか。
「その放送。今日に流れたのと特に変わらなかった? 同じ様に、校内放送用の機器から流れてたんだよね?」
「そうよ! 忘れるわけ無いじゃないっ。馬鹿にしてるの!?」
「どう見たって気が動転している相手の言葉って、信用度が比較的低いと思うんだ、僕」
ただ、貴重な初めの情報源ではあるから、無下には出来ないなと感じる。詳しく聞く必要はあるのだが……。
「なんだろうね。まさか正義の魔法少女が、学校に不安を振りまいてる元凶とか、そういうのは何の喜劇かって思うよ。早めに事を収めたいって気持ち、分からなくはない」
「あ、やはり、こちらの意図が透けて見えてしまいましたの?」
仕事の依頼人であるところの四雨会が、竜太の言葉を聞いて反応した。那姫の方はと言えば、何の事か分かっていない様子で、そもそも怯えているから深い事は考えられないのだろう。
「結局、自分らの恥でしかない事態だから、金を使ってでも無難に収めたいって話なんだよね。良くあるんだ、こういうのは」
代表的な仕事とすら言えた。もう少し、何か深い意味があっての仕事だと思って引き受けた面はあれど、少し関わってしまえば、深いものなど何も無いように思える。ただ……。
「一旦引き受けたからね。やれるだけの事はするよ。ヒナエツインズにはこれからも頑張って欲しいと思ってるんだ。本当だよ?」
「そうしていただければ、本当に助かりますわね。学業だけでなく、最近は蘭が怯えて、ヒナエツインズの方も活動に支障が出始めていますから」
本人たちにしてみれば、切実この上ない悩みと言う事だろう。出なければ、竜太なんかに頼ろうともしないはず。
「で……私の話を聞いて、何か新しい事でも判明したの? そこが一番重要じゃないっ。これで何もわかりませんでしたってなったら、私、思いだし損よ。怯え損なのよっ」
「那姫くんはあれだねぇ。いろいろと苦手なものはあれど、分かり易くて良い娘だ」
扱いやすいという意味で。そこまでは言わないものの、最初の取っ掛かりにはなるかなと竜太は考えていた。