第三話
日苗市には神様がいる。かつて崇められ、今も古い文化として家に奉られている神様がいた。それは狼の神様であり、まだ辺りに田畑が多く残っていた時代は、害獣を追い払ってくれる存在として、多くの人間が信仰をしていた。そんな神様がいる。
時代が下るに従い、それは信仰を失っていくも、やはり存在していて、何時しか街の住民として暮らす様になっていた。
やっている事と言えば、神様時代と変わらない。自分を崇める人間に対しては益を与え、舐める人間には罰を与える。その双方共に、狼の神らしく、暴力を使ってだ。
神様なんてヤクザとそう変わらない。力を頼られ力で脅す。そんなやり口で自分の利益を得るのである。本人曰く、ヤクザの方が後追いらしいが。
「神様つっても、誰かのために生まれたわけじゃあねえんだよ、きっとな。俺だって生きてる以上は生きたいと思うから、生きるための努力をしてるわけだ。その手段を奪われそうってのなら、全力で反撃する。違うか?」
「無関係な人間を巻き込まないって言うのなら、全面的に賛成できる意見ですね。ええ」
奇妙な事件に関わり、命の危険にさらされる事態にならなければ、是非とも頑張ってくれと応援するところだ。
一方、現実は大きく違って、例の事件から数日後、竜太はさらなる危機的状況に陥っていた。
場所は変わらずの『カニバル・キャット』。これも変わらず客はいない。
「言っとくが、お前は関係者だからな。で、やつらの日苗市内にあるはずの拠点は見つけたか?」
これである。追加の報酬を払うからと、さらに危険な事を繰り返し強要されているのだ。
「だから僕は武闘派じゃないんですってば」
「武闘派が必要になる前に、なんとか最小限に収めようって話だろ? なら、お前の調停が際立つ場面だ」
「別に義務とかでこの仕事やってるわけでも無いんですけど」
あくまで副業だ。幾ら調停役の仕事と言っても、命を捨ててとまでは考えていない。第一、今回は相神会が日苗市内に作っているはずの彼らの拠点探しが仕事となっている。
どこかのスパイや情報屋の仕事であり、調停本来の仕事とは離れている気がするのだが。
「嫌なら止めても良いんだぜ? そこまで強要する理由は……とりあえず俺には無いわな」
「そうなんですけどね。どうにもこう……ここまで関わった以上は最後までって気になっちゃいまして」
それ以上に、放置していれば、もっと面倒な事態になりかねない気がしている。本当に嫌な事で、こういう予感はだいたい当たるのだ。そうして、面倒になった状態で、またどこからか調停を願われたりするのである。しかも断り切れない状態になって。
「今の段階なら、大事になる前に俺が潰せるだろうから、早めに敵の場所を見つけられれば助かるがね」
今の段階で言えば、害を直接受けているのは間上だけだ。相神会の男は間上を守護者などと呼んでいたが、間上が神様である事に、何がしか関わりがあるのかもしれない。
「なんで相神会は間上さんを真っ先に狙ったんでしょうね? 彼らが使う力が……神さまの力だとかなんとか言ってましたけど?」
「説明した通り、奴らは世界を自分の思った通りに変える力を探求している一派だ。で、それにも限度がある。人間一人の精神なんてたかが知れてるから、起こせる事もたかが知れたもんなんだよ。自分の力を鍛えたところで、まだ上限がある」
そこから、間上の存在が関わって来るのだろうか。とりあえずは黙って彼の説明を聞く事にする。
「だいたいその上限に達すると、自分一人じゃ無理なんで、余所から力を借りようと思うわけだ。例えば……他人の信仰とかな」
「何かの宗教信じてる感じの人たちからの熱い思いですか? そんなんで力が強くなったりするんです?」
「精神が力を持つってのは、既に相神会の奴らが自分たちで証明してるだろ? 奴らの力は精神の力だ。で、自分だけじゃなく他人からもその力を借りれれば、扱える現象も増すって原理なんだろうさ。なんでそれが信仰って感情なのかと言えば、扱いやすいからだろうな。怒りとか喜びとか、そういう類だと波がある」
確かに感情なんて代物、自分の分だけでも扱うのは手一杯だ。さらに他人の分もなんて、考えるだけでも面倒臭い。
「そういうのを求める奴らにとって、日苗市は丁度良い場所と言えるのかもな。精神の力が強そうな奴らが多そうだろ? ここらって」
「わざわざ自分たちを信仰してくれるなんて予想できる程度には、街の事をまったく知らないって事ですね、相神会の人たちは」
簡単に御せる人間ばかりなら、街だって混沌の中に埋もれてはいない。もっと秩序立った街になってくれていた事だろう。そうなれば、街もここまで成長していなかったかもしれないけれど。
「どこまででも外の人間ってわけだな。邪魔者が当たり前の様に現れると思って無い。いたとしたら、それ専用の役割があるんだろうなと予想してやがる。それで奴らの考え方に合致した存在が俺ってわけだ」
神様だから、当たり前の様に街を守っていると、そんな風に思っている。性格がヤクザで、自分の利益にならない相手なら見捨てたりもする奴だとは気づいていないのだろう。
「ついでに言えば、彼らが得たい信仰についても、間上さんが既に得ているとも考えて、排除を試みたってところですか?」
「だろうな。俺の神灯を回りくどい方法で排除しようとしたのも、挑発と同時に、俺への信仰を奪おうとしたんだろうさ。直接的にやらなかったのは、そこまでの力が無いんだろうと思う」
相神会は間上を崇める神灯を、崇める人間の記憶を操って、自ら排除する様に仕組んだわけだが、それはつまり、相神会自身が無理矢理神灯を破壊したりは出来なかったと言う状況でもある。
できるにしても限度があるのだろう。
「できる事の限度を考えるに、相手もそう手は多く無さそうですね」
「相神会自体は規模がそこそこデカい組織だろうが、日苗市に関わってるのは数える程かもしれねえな」
意見が合った。相手は少数であり、街のどこかへ潜伏している。そのどこかを見つけられれば、後は間上個人で対処可能かもしれない。
「まあ、少人数だからこそ見つけにくいって話なんですけども」
「そこだな。警察に突き出した例の男。やっぱり個人的に捕まえとくべきだったか?」
「拷問とかそういう事をしたことって無いですから、居ても困ります」
ただ、情報が一旦途切れているのは事実であるから手詰まり感が強かった。これも純然たる事実として、時間を掛ければ事態はより竜太達の不利になるだろう。相手に準備期間を与える事になる。それが何の準備だろうと、竜太達にとっては喜ばしいものではあるまい。
「一つの手としちゃあ、また俺を狙って来た時を返り討ちってやり方がある。俺はまだまだ健在で、あいつらは真っ先に俺を狙ってるわけだからな?」
「最後の手ですよ、それは。間上さんを次に襲うタイミングは、間上さんを確実に倒せるって向こうが考えた時なんですから」
実際はどうなるか分かったものでは無いだろうが、相手が準備万端と思うまで待つという選択肢は危険な手だ。
「ならどうする? こう、画期的な案って奴が欲しいところだがね」
無茶を言う。だから自分は調停役であり、こういう対策なんてのは不得手なのである。
「あー、けど。向こうから近づいて来るタイミングでって言うのは良い案かもしれませんね」
「おいおい、さっき最後の手って言ったばかりだろう? それとも、今が最終局面か?」
「別に、間上さんを狙ったタイミングってわけじゃありませんよ? あるじゃないですか、敵が行動を予想できる事が」
夜が深くなっていく。混沌の只中にある日苗市にも、勿論夜が存在している。何時までも禍々しい太陽が住民すべてを熱狂させる。そんな雰囲気のある街だったが、そんなのは印象だけの話であり、実際は、太陽は沈むし人々は休みを取る。
だからこそ隙が出来るのだ。その男が動いたのは、別に夜だったからでは無い。その時間がもっとも手間無く、仲間と接触できるタイミングだったからだ。
(この様な事態も予想していた。何も問題は無い)
人通りはさすがに殆どない日苗の街で、その男は黒ずんだローブの様な服装に身を包みながら、日苗警察署と呼ばれる場所の正面までやってきていた。
あからさまに怪しい格好だが、それでも夜の闇には不思議と紛れていた。もっとも、それも一日ずっと電灯が輝いている警察署の土地内へ入れば、すぐに目立つ格好に変わるだろう。
だからこそ、男は力を使った。見つからないための力だ。自らの存在を薄くし、一方で周囲の人間には自分を認識し辛くする。別に自分自身が消え去るわけではない。ちょっとした暗示なのだ。
人の感覚は、感じられる部分と感じられない部分がある。本人の好き嫌いによっても、把握できない場所は存在し、まるでそれは癖の様に、その対象にとっての死角となる。
男はそれを操り、丁度自分の周辺その死角と感じる様に、周囲の人間に暗示を掛け続けているのである。
こうすれば、余程の事が無い限り見つからない。ただ本音を言えば、こそこそせず、正面から堂々と侵入して、それでも捕まらぬ力が欲しかった。否、その力を欲してこの街へやってきたのだ。
この街には力の源泉があるはずだ。でなければ、ここまで種々様々な力が集まるはずが無い。今、自分が使っている簡易な暗示では無い。これまで街へ仕掛けて来た、嫌になるほどの面倒な準備が必要な方法でも無い。
もっと直接的な力を手に入れる事がこの街では出来る。そう信じている。だから今は慎重に、だが確実に、この警察署の留置所に囚われた仲間と接触しなければ―――
「おおっとぉ。本当に来やがったな。珍しく当たりだぞ、漢条」
「あっ!? ああがっ……がうっ……」
最初に感じたのは息苦しさ。首に感じる毛むくじゃらの感触。そうして、強制的に正面を向かされた結果、視界に映る狼の顔。
「当たりかもしれませんが、これからですよ。もう一人をやっつけた形になりますけど、後、どれだけいるのかとか聞き出すにはどうすれば良いか」
「あっ……ぐあっ……」
狼は、どうやら近くにいるらしい誰かと話をしているが、その内容が自分たちにとって不穏な会話である事だけは理解できた。他は酸素が頭に回らなくなり、判断できそうに無い。
だから、出来る限り全力でこの状況から脱しな―――
「っと、悪いな。取込中だ。ちょっと気を失っててくれよ」
「あがっ……」
遠くに狼の声を聞いた気がする。狼は目の前にいるのに……そうして視界が黒く染まって………。
警察署に侵入しようとしていた男を捕まえるや、竜太達は『カニバル・キャット』へとやってきた。時間は深夜なので、客に見られる心配は無い。昼間であったとしても見られないのでは、などと言ってはいけないし。考えるのも駄目だ。
「まず第一の問題として、気絶させたら話を聞く事もできません」
とりあえず床に捕えた男を転がす。机の上とか、ソファーの上とか、そういう贅沢は許さない。
「水でもぶっかけりゃあ起きるだろ」
「そうすると床が水浸しになるんですよ。掃除するのは僕なんで。ああ、それと、起きたところで話を聞き出す方法が無いっていうのも問題と言えば問題ですね」
実際はそこが一番の難点だった。再度、敵となっているであろう相神会のメンバーを捕えたわけだが、これで終わりか。それともまだまだ人員がいるのかが把握できない。これは当事者に聞く他無いのであるが、簡単に喋ってくれそうには見えない。
「そうだな。俺たちで無理なら、他を頼るって手もあるんじゃねえか? なんかそういう知り合いとか居ないのか? 漢条」
間上の提案を聞いて考える。拷問が得意そうな知り合いがいないでも無いが、事態に巻き込む形になるし、頼めばそれだけ借りを作る事に繋がる。ちなみに拷問が得意などと言っている奴に借りを作るなんて、碌な事では無いと言うのは、誰しも分かってくれると思う。
「ああ、いや、借りを作らずに頼める相手ならいますね。うん。良い案かもしれない」
「ほう。さすが調定役」
「何がさすがかは分かりませんが、できればさすが人気喫茶店の店長と言って欲しいところです」
「絶対に言えねえな、その台詞は」
何故だ。調定だのなんだのよりもまだ平穏な言葉ではないか。そんなに『カニバル・キャット』が人気喫茶店と認めるのが嫌なのか。
「何時かは認めさせてやるからな……それはそれとして、頼る相手を選べば、特に問題なく、いい感じにこの人から話を聞き出せると思います。ビョースター団とか」
「ビョースター団だと!?」
叫んだのは間上ではない。さっきから店の床に転がっている男だ。いつの間にか起きていたらしい。
「良かったな、漢条。床を水浸しにしなくて済みそうだ」
「そうですか? 暴れられでもしたら、それこそ店がめちゃくちゃになるんですけど」
そんな事にはなって欲しく無いため、竜太は転がる男を見た。黒っぽいおかしな格好をしており、一応、腕や足を縛っているのだが、それでもおかしな“力”を使える。この状態でも何がしか噛み付いて来る相手と言えるが……。
「貴様は、ビョースター団を知っているのか!」
と、何やら煩い。声だけで済んでいるから安心するべきなのか、それとも深夜に近所迷惑だと注意するべきなのか。竜太はそのどちらも選ばず、尋ね返す事にした。
「知ってはいますが、だから何です? そんなに怖いですか、ビョースター団が。ああ、けど、あなた方を差し出すには丁度良い相手かもしれませんね」
転がる男を見る。その男の目に、ちょっとした怯えの感情が見て取れた。この話題は使えると、そう感じる。
「日苗市を……なんでしたっけ? 支配するつもりでしたか? ビョースター団もそんな感じの組織です。丁度ライバル関係の同業者と言える。ちなみに日苗市内じゃあビョースター団の方が新参者のあなた方より規模は大きいですよ」
そうして日苗市の多くの住民も、見知った組織より新参の組織を警戒する。この街の……辛うじて存在する秩序を破壊する輩では無いかと。そういう相手に目の前の男を引き渡せば、頼まなくても情報を引き出し、組織を潰してくれるかもしれない。なにせ新参者。組織としての力も弱ければ、潰す事に対する抵抗も少ない。
「わ、我々をすべて潰したとしても、本部が黙ってはいないぞ!」
「相神会ってのは確か独立独歩の気風が高いって聞くが……本当に黙らずにいてくれるかね?」
ニヤつく間上。その表情を見て、男は怒りの感情を高めたと思われる。実際、その後の言葉は感情的なものだった。
「貴様らが我々を惨たらしい方法で八つ裂きにしてみろ! そうすれば本部も動くだろうさ! 自らの力を高め、組織としての力すらも強めて行く! それが我々、相神会の進む道だ! 泥を掛けられて動かぬ道理は無い!」
「そうですね。そこに注目したいところだ」
感情を激しくする男に反して、竜太は冷静になっていく自分を感じた。暴力沙汰は嫌いだし、苦手で、事実、巻き込まれれば逃げるしかない。ただ、どうにも状況が自分の領分になってきたと思ったのだ。
「この状況は如何にも調定が必要な状況です。そうは思いませんか? 間上さん」
「何だ? 良い考えでも浮かんだのか? 漢条」
まだ浮かんでいない。これから浮かばせる。これまではただ、どちらが強いかの比べ合いみたいな状況に巻き込まれていたが、事態を俯瞰できる様になり、自分の仕事に取り掛かれる準備が出来た。ならば次は、その良い案とやらを考えるのみ。
「さて、怒りんぼなあなた。相神会の本部は、あなたが惨たらしい状況になれば乗り込んでくると言いましたよね?」
「ははは! 今さら怯えたか! ならば恐怖するが良い我々は―――
「お互い、そんな状況は望むべくも無い。そうじゃないですか?」
「何?」
まずは相手の感情を、怒りから興味へと変える必要がある。話し合うための第一歩だ。
「あなた、死にたがりとかじゃありませんよね? ちなみに僕は死にたくないですし、例えば相神会の本部が乗り込んできて、そのいざこざに巻き込まれるのも嫌です」
男の目を覗く。相手の感情を知る力なんて無いが、それでも、戸惑っていると言う態度くらいは竜太でも判断できる。
「何が言いたい?」
「妥協しあえるんじゃないかと、そう言ってるんです」
「おい、漢条」
「黙っててください。間上さんは既に僕に仕事を頼んでる。この状況の調定を」
漸く、調定を行える材料が揃った。ならば次には当事者同士の意思を確認しなければならない。依頼者の間上と、そうして、目の前のいる相神会の男の。
「そこの間上さんは、舐めた真似をしている奴に一発かましたいとそう思ってる。現状もそうです。ですが、やり過ぎるとあなた方のボスが出てくるとそうあなた方は言う。とんでも無い話だ。だからこっちはやり過ぎない様にしなければいけないし、あなた方も、やり過ぎない程度に妥協をしてくれると有り難いと、そう提案しています」
「我々に、貴様に屈服しろと言うのかっ」
「別に……街を支配したいって言うのなら、それを試みれば良いって、僕はそう思いますよ」
「おい、だから漢条!」
「神様とか武闘派組織とか、そんなのに巻き込まれるのはうんざりなんですよ!」
それは竜太自身の言葉でもあるし、日苗市に住む人間の大多数の意見でもあるだろう。ただ、この場においては、余計な言葉を遮る怒鳴り声でしかない。
「街を支配したがってる人間や組織なんて、この街にはごろごろいる。それが一つ増えるだけの話だ。ただ、あなた方は街のルールを知らない。不用意にあちこちをつついて、手痛い反撃に遭ってる。それが今。違いますか?」
「……」
男は答えもしないが、反論もしなかった。先ほどまでの威勢が消え、竜太の言葉を聞いている。それで良い。調定とは話し合いだ。怒鳴り合いでも殴り合いでもない。
「僕らはあなた方を見なかった事にする。警察に捕まってる人はご愁傷様ですが、あなた方ならなんとかする方法あるんじゃないですか? 何にせよ、それにしたって見えないフリをする」
「そうして……お前たちはどうする?」
「僕ら? 僕らは普段通りです。普段の日常に戻る。で、あなた方はその日常を見ていれば良い。次の支配に乗り出したって構わない。ただ、今度は街をちゃんと見ろ。自分達の力を伸ばせる都合の良い場所だなんて簡単に思うな。ここはもっと……ジャングルのど真ん中にある沼地みたいな場所なんだ。何もかもが集まって、何もかもを飲み込みかねない」
さて、こちらの提案を受け入れられるか? 竜太は男の動きを追った。彼の返答次第では、再度、剣呑な状態に戻る事になるが……。
「い、いや……駄目だ。それでは駄目だ。我らが良くても、奴が……」
「今、奴と言いましたか? 奴らでも、我らでも無く、奴と?」
「……!」
男の顔に脂汗が流れ始めている。焦り、恐れ、そうして情報の過多。それらが合わさり、男を精神的に追い詰めていた。
「その奴を排除さえできれば……僕の提案は受け入れられる?」
「こ、この街に……どんな形だろうと、拠点らしきものができれば……本部についてはそれで良しとするだろう……だが……」
「なるほど、まさしく独立独歩。顔に泥が塗られない限りは、放置を決め込むってわけだ。それは素晴らしい」
こうなれば、相神会側の意見は定まった様なものだ。彼らは今すぐに街を支配できないが、それでも、街の住民としては受け入れられる事になる。その後にどうなるかはまた、別の話だ。
「で、どうします? 間上さん。その奴っていうのを排除するのは別に構わないらしいですよ。一発、ガツンと言わせられる。それができれば、滅多にちょっかいは掛けて来ないかも」
「だが、街にまたややこしい奴らがやってくる事に違いねえだろ」
「ここはそういう街です。何百年と住んでいるんですから、それくらいはもう理解したのでは?」
間上は神様だ。もうずっと神様をしていて、寿命なんかは一般人と比べられない程に長い。そんな彼を生かしているのが街の人間の、わずかに残った信仰心であり、その信仰心に対するライバルが今、現れようとしている。
それを受け入れられるかどうかだ。とりあえずの奇襲は無くなった。自身の力を示すチャンスもできる。だが、そこからさらにライバルを潰すとまでは行かない。竜太の提案に乗ればそうなるだろう。そうしてそれ以上の段階は、また次の話になる。
「ちっ……お前がそういう提案をする奴だってのは理解してたし、それを承知で仕事を頼んだのは俺だ」
「OKです。話し合いが終わりましたね? お互いの擦り合わせはこれにて完了だ。後は取り決め通りに、現実を動かすだけって事になる」
それが一番大変なのだが、それでも、竜太は一仕事終えた気分になった。




