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日苗市の人々  作者: きーち
第三章 日苗市導火線
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第一話

 日苗市在住、間上・大はヤクザである。少なくとも、周囲からはヤクザとして見られているし、ヤクザに近い仕事をしているのも事実だ。

 ただ、言わせて貰えれば、人の道に反することをした覚えは無かった。所謂クスリに関する商売には手を出した事が無いし、一方的な弱者をさらに責め立てる事はしない。どこぞの組に属しているわけでも無いので、そんな態度を貫いても、上から文句を言われる事も無い。その上が存在していないのだから。

 が、暴力は使う。ヤクザがヤクザたる所以だ。貸した金を返さない相手には相応の痛い目に遭ってもらうし、どこぞの縄張りで、周囲の事も考えず粋がる奴がいれば、立場を理解させるために酷く直接的な方法を取る。

 それでもだ。人の道を外れているわけでは無いと思う。何故なら暴力とは、ある意味では人の本質だからだ。獣の本質と言い換えても良い。

 人は群れる生き物だから、世の中にはルールが溢れており、そのルールを破る存在には罰が与えられる。罰の中でもっとも分かり易いのが、間上が扱う暴力なのだ。

 勿論、現代社会に反した行いではあると思うから、大きい顔をして表通りを歩けない立場だと言うのは理解している。

 だがしかし、もっと厄介な人間がこの社会には溢れているし、そういう人間の方が、もっと物の怪染みているのじゃないかと間上は思うのだ。

「よう、漢条。仕事持ってきたぞ」

 そんな物の怪みたいな人間の一人、漢条・竜太の店へと間上はやってきていた。

 店の名前は『カニバルキャット』。認めたくはないが喫茶店らしい。が、どんな料理も不味いのだから、食品を出す店としては失格だと思う。

 食えないレベルよりかは、辛うじてマシという評価の料理ばかりなので、金を取るのはまったくもっての詐欺商売になるのでは無かろうか。

 唯一、金銭を払って良いと言える料理がナポリタンであり、こちらに関しては素直に美味かった。常連と言えば良いのか、今日も見知った老人が、店の端の方の席でナポリタンを啜っている。

「仕事って、今、僕は絶賛仕事中ですよ。さっさと料理頼んでください。すぐに作りますから」

 店主である漢条の発言。これを聞けば分かってくれるだろう。こいつは自分の店が一端の店であると信じているのである。

 料理を出せば客は金を払う。それだけの料理は作っており、それでも客が来ないのは、近くに出来たショッピングモールに客を取られているせいだと、そんな風に思っている。いや、思おうとしているのだ。どうだ、やはりこの店主の方が物の怪みたいではないか。

「最近はナポリタンも飽きてきたからな」

「じゃあナポリタン以外を注文すれば良いじゃないですか」

 なんで金を出して不味いと思う料理を口に運ばなくてはならないのか。その考えが分からない限り、この店はずっと閑古鳥のままだろう。

「って、仕事の話をしに来たっつってるだろ。聞けよ、話を」

「だから仕事の話で注文を聞いてるんじゃないですか。言ってくださいよ、注文を」

 この平行線だ。厄介この上無い話として、この店主は、喫茶店の店主としての才能はからっきしなのだが、それ以外の、とある才覚に関しては、金を稼げるくらいの物を持っていた。それを目当てで間上はこの店へとやってきているのだが、どうにも店主は店主であることを止めようとしてくれない。

「なら注文だ。最近、妙な奴らが街に出入りしててな。不安がってる住民もいる。なんとかしてくれ」

「……そんな料理はメニューに載ってませんが」

「載ってるだろう? 少なくとも店の売上帳には載ってるはずだ」

 閑古鳥の店は、何時だって赤字である。店主がその状況を改善しようとしない限りずっとだ。その赤字を埋めるためには別の仕事をしなければならない。

 その手伝いを間上はしようとしているのだから、文句を言われる筋合いは無い。

「悪いんですけど、今のところはまだ余裕があるんですよ、うちにはね」

「おいおい。なんか別口で依頼があったのかよ」

「……なんで店の売り上げが良かったって思わないんだろう、この人」

 そんな現象は起こらないから、考えたって意味の無い事だ。漢条が何がしか金銭を稼げるとしたら、間上が持ってくる様な依頼に寄るものが殆どのはず。

「あー、そうか。あの公務員から仕事を貰ってたな。ってことは、あれは首尾よく終われたわけだ」

「ちょっと、あんまり言いふらさないでくださいよ。公務員から仕事を貰うなんて、店の評判が落ちる」

 役場庁舎の食堂に店を入れられる程の腕も無いだろうから、確かに公務員から仕事を斡旋されるなんて立場は不当だろう。事が公的なものなら、世の中の目は厳しくなって当たり前である。

 が、ここに来てこの話は、間上にとって幸運だ。

「どうしたもんかね? 口止めってわけでも無いが、こっちの話を聞いてくれるってんなら、そっちの話は忘れるかもしれねえな?」

「……くそっ。ヤクザめ」

 今さらの話だ。間上は誰から見てもヤクザなのだから。




「怪しい人間が出入りしているって言っても、それを無理やり止めるなんて僕にはできませんよ。第一腕力が無い」

 間上の話を聞くことになった竜太だが、まったく乗り気では無かった。詳しく話を聞けばそうでも無いかもしれないが、仕事そのものを受けたく無いから、話の始まりの時点で文句を言う事にする。

「第一、怪しい人間なんてどこにでもいます。今朝方だって、ヒナエツインズが怪人を倒してたんですが、その怪人がどうにもビョースター団関連じゃなくて、酒に酔っぱらった浮浪者だったんです。しかもその人、知り合いが誰もいなくて、結局、ヒナエツインズが役所まで連れて行きましたよ」

 そんな街だから、怪しいと言うだけでどうこうできる街では無い。そもそも関わる気も無かった。

「別にお前がその怪しい奴らを何とかして欲しいってわけじゃねえよ。なんとかして欲しいのは、不安がってる住民の方だ」

「……いるんですか? そんな人たち」

 怪しい人間がごろごろいる街で、怪しい人間がいたぞと頭を悩ましていたら、日苗市ではやっていけない。早々に家を引き払うべきだろう。どちらの労力を取るかの話だ。怪しい人間は沢山いるが、それに悩む住民はあまりいない。

「道ばた歩いてるだけの正真正銘鳥頭の羽毛男とかなら、誰も文句なんて言わねえよ。厄介なのは住民の土地に侵入して、妙なもんを置いて回ってるってところでな」

「……妙な物が何なのか知りませんが、それって単純に犯罪じゃないですか。警察の仕事ですよ? ヤクザが持ってくる仕事じゃあない」

「警察が動いてくれるってんならな。もしそうだってんなら、俺みたいな奴がそんな仕事を持ってくるわけない。違うか?」

「まーたややこしい事情があるってわけですね。嫌だなぁ。聞きたく無いなぁ……」

 だが、耳を閉じたところで、それをこじあげて聞かせてくる相手だ。さらに内容如何に寄っては、聞いてしまえば動かなければならない。

「これのまともじゃない理由のはな、その妙な物を置いた人間ってのが、その土地の所有者ってところなんだよ」

「は? もしかして、住んでる人と土地の所有者が別とか、そういうややこしい話で?」

「もっとややこしいぞ。住んでる人間も所有者も同じ人間だ。つまり本人が妙な物を庭に置いてんのに、後になってから、怪しい人間が街の外から出入りしてて、庭に妙な物を置いて行ったって、そう言ってるんだ」

「冷静に考えて、その人、頭おかしいですよ」

 被害妄想と類では無かろうか。その人物が頼るべきは警察でもヤクザでも無く、どこぞの医者であるからして、誰かが優しく看護してやるのが望ましい。

「住民一人だけってのならそうだろうよ。だが、まったく同じ状態の奴が複数人いるってのなら話は別だ。本当に怪しい人間が街の外からやってきて、悪さをしてるのかもしれねえ」

「げっ。個人の問題じゃないんですか」

「“力”関係の問題かもな」

 力……日苗市に集まる力は、いろんな形を持っている。超人的な身体能力なんて言うのはまだ分かり易い方で、中には人の心を操ったり、体の自由を奪ったりする様な力まで存在していた。

 それが街を脅かしており、複数の住民が不安がっているのなら、確かに竜太の仕事かもしれなかった。ややこしい事態になっていて、怯えている人間がいるのなら、その感情の揺れをなんとかするのは、調定と言える。

「けど、そういう話なら、抜本的な解決は無理ですよ。何度も言いますが腕力が無い」

 力相手にまともにぶつかれば、竜太は容易く屈服してしまうだろう。住民の不安に思う感情は何とかできたとしても、それ以上はできないのである。

「なら、そっちは俺がなんとかする。俺にとっちゃあ、人の感情の方が強敵に見えるんでね」

「まあ、間上さんは腕力の専門家みたいなもんですけれど……」

 ヤクザだから、暴力は得意なのだ。だが、これである意味、仕事の内容が理解できてしまった。最終的には暴力が絡む、血生臭い仕事ということだ。




「なのになーんで受けちゃったんでしょうね、僕。どう思いますか?」

 竜太は天井を見上げる。木張りの天井に、紐を引く事で光る電灯がぶら下がっている。古風なつくりだ。古臭いとも言える。そんな天井は慣れ親しんだものでは無かった。当たり前だ。ここは竜太と縁も所縁も無い住民の家なのだから。

「そうねぇ。やっぱり人の頼みって断れないものだと思うわぁ」

 畳敷きの応接室で、目の前に老婆が座っている。この老婆こそ、竜太が今居る家の主であり、既に旦那を無くして長い唯一の人間だった。

「人間関係って難しいです。縁を切りたいと思っても、何時の間にか引っ付いてるんですから」

「困ったものよねぇ。ところで、何の話だったかしらぁ」

 何の話だったろうか。老婆はおっとりとした性格で、さらにはマイペースな話し方をするため、どうにも話の筋が大きくズレてしまった気がする。

「あ、そうだ。庭に置いてあったって言う変な置物の話ですよ」

「そうそう。それなのよぉ。困ったわねぇ。狭い庭でしょう? そこにあんな大きく置かれちゃあ、狭くって敵わないの。なのにほら、周りは私が置いたって。困ったわねぇ」

「確かに、困った状況ですね」

 とりあえず、不安がっているという住人に会いに来た竜太だが、状況はほぼ、間上から聞いた通りだった。

 家主の庭に突如、妙な置物が現れる。誰かがそれを持ち込んだのだと家主は慌てるも、周囲は家主自身が持ち込んだのだと指摘するのだ。だが、家主自身にはそんな記憶は無い。

「それで……街の外から来た人間が置いて行ったはずだって、お婆さんはそう言ってましたけど、何か理由が?」

 老婆にはそれが置かれた記憶が無い。という事は、誰がどう置いたかも記憶に無いという事である。何故それで、街の外の人間だと言えるのか。

「だってぇ。こんな事をする人って、街の外から来たに違いないわぁ。私、そう思うのよぉ」

「ううーん……」

 と、こんな様子だった。根拠も無く、街の外の人間が犯人だと言う。しかし周囲は家主が置いたと言うし、本人にはその記憶がまったく無い。警察沙汰になったとしても、どうしたものかと困惑するばかりなのだろう。

(なんとかしようとするなら、ヤクザな仕事になるかもって事かな? それにしたって、まだ平和な内容だけど)

 間上が絡む以上、もっと物騒な話だと思っていたが、結局、どういう真実があったとしても、庭に変な置物が置かれたと言うだけでしかない。予想していた血生臭さは感じられなかった。

「じゃあお婆さん。その……庭にあった置き物についてを見せてくれたりはしません?」

 妙な物、知らない置き物。そんな風に言われていたが、肝心のそれを見ていなかった。それについても確認しなければと竜太は老婆に尋ねる。

「ええぇ。こっちよ、こっち」

 老婆は立ち上がり、竜太を置き物があったという庭まで案内してくれた。果たしてそこにあったのは、幾つか転がる石ころである。

「これが……?」

「ちょっと……邪魔だったでしょう? だから知り合いの庭師さんに頼んで、壊して貰ったのよねぇ。幾つか大きい石もあったから、それは持って帰ってもらってぇ」

「つまり、石で出来た何かだったんですか?」

「そうねぇ。ほら、神社とかに灯篭ってあるじゃない? あんな感じだったわねぇ」

 なんとなく想像できたので、竜太は試しに転がる石に触ってみる。何の変哲も無い、ただの石だ。

「庭に何時の間にか置かれてたって話ですけど、石自体は単なる石ですね。何かこう……悪い事を起こすって感じじゃないですし、今後は戸締りをしっかり……って、庭だからそれもできないのか。兎に角、気を付けなきゃですよね」

「そうよねぇ。ごめんなさいねぇ、わざわざ話を聞いてもらってぇ」

「いえ、これも仕事ですからね」

 問題の発生そのものに絡めない以上、竜太は住民の不安を拭い去るために、ただ話をする事に専念していた。

 心の不安とは、自らの心を整理できないときに生まれる。妙な置物が何時の間にかあって、それを周囲は記憶に無いはずの本人が置いたと言う。その事が不安なのだ。

 だから竜太は本人の話を聞き続け、本人自身が心を落ち着かせる手助けをしていた。地味だが、地道に行けば効果はある。

「じゃあお婆さん。今回の件、何か不安があったら電話でもしてくださいね。相談に乗りますから」

「わかったわぁ。またこういう事が無ければ良いんだけどぉ」

 一通りの話を聞き終わった竜太は、老婆に店の電話番号を教えて去る事にした。今できる事と言えばこれくらいだろう。

 そうして老婆の家を離れてしばらく。他に同じ事があった場所へ向かう際中に、竜太はふと思う事があった。

(妙と言えば、確かに妙だよね、これ)

 老婆がこれだと言って示した石ころ。幾つかあり、さらに大きな物もあったと言うが、あの老婆が一人で持ち運べるはずも無い。だが、証言をした周囲の人間とやらは、老婆が持ち込んだと言っているのである。

(誰かが嘘を吐いてるってことだ。ま、深入りはしないけどさ)

 根本の解決は間上の仕事。竜太はただ、住民の不安をなんとかするだけだ。




 やるべき事はあるだろうが、すべてをする事は出来ないし、どれが効果的な方法なのかも予想は難しい。間上は頭を掻きながら日苗の街を歩く。

 往来には人が行き交い、一般人の幾らかが、間上を見て咄嗟に目を逸らしている。そんな光景が、間上が見る景色の大半である。

(俺だって、ぶつかられても、頭下げてそのまま何も無く通り過ぎるくらいはできんだけどな)

 外観だけで怖がられるとは言わない。実際、立場を見ても恐れられるのは仕方ない。ただ、何の理由も無く暴れまわれる様な若さでも無かった。

(誰だって丸くはなるんだ。顔は怖いままかもしれねえが、暴れられる時期なんてのは短いもんさ)

 だから、暴力を使うにもコツがいる。やたらめったらに使えるものではないし、誰かを殴れば拳も痛む。何の関係も無く、ただ腹が立つから殴りつけたところで、周囲の目と、当事者のどうして? という表情を見れば心も痛む。結局、大半の場合において、暴力とは損を生み出す行為でしかない。

(だからこそ、上手く使える奴が重宝されるんだろう?)

 間上は自分を、その上手く使える奴の一人であると考えていた。重要なのはやはりコツだ。暴力はここぞと言う瞬間に爆発させてこそ意味がある。普段から、やたらめったらに使っている奴は、その暴力を他人に知られるから駄目だ。

 大事なのは、いざと言う瞬間に、誰にも予想できぬ力を発揮する事なのだ。それを理解せず、普段から暴力を振るう人間は、周囲にどの程度の力が知れてしまう。そうなれば、それは素人の暴力となるだろう。慣れを生み、価値を失い、果ては反撃の方法さえも与えてしまうのだ。玄人のそれでは無い。

 暴力とはその瞬間。やるべき時に、その一瞬を爆発させてこそ意味がある。憤怒の感情も、その一瞬にすべて注ぎ込む事で、漸く価値のある力となれるのだ。それ以外の暴発は、力の浪費でしかない。

(俺は暴力は嫌いだね。こいつは飯のタネだから大事にしたいが、面倒くさい事この上無い力の一つさ)

 日苗市には様々な“力”が溢れており、間上の暴力も、その力の一つに過ぎない。そうして力毎に順位を付けるならば、かなり下に位置する物かもしれない。扱いが難しく、器用に使ったところで、大きな見返りも少ない。ただ、それにしたって使いようだ。

(今回も上手く使ってやるよ。なあ?)

 間上は男の背中を見て思う。

 彼は今、ある男の背中を追っていた。スーツ姿の若い男だ。背を向けて歩いているため、顔を直接見られないが、さっきすれ違った時は、随分と優男に見えた。

 男を追っている理由は匂いである。長く日苗市に住む者だからこそ分かる、外部の人間の匂い。追っている男からはそんな匂いが感じられた。

 今回の件。庭に妙な物が置かれているという事件について、間上は当事者の、原因は街の外からやってきた人間と言う証言を信じていたのである。だから、街の人間では無い男をこうやって追っている。

 勿論、真っ当な理由で日苗市にやってきたと言う人間もいるだろう。だから手当たり次第と言うわけだ。今回の相手も、外れの可能性はある。

(が、多分は当たりだな)

 間上は別に、隠れながら後ろを追っているわけではない。堂々と、その背中からある程度の距離を置いて追っているのだ。後ろを振り向けば、すぐに追われていると気が付く。そんな距離を常に取っていた。

 だが優男は逃げようともせず、変わらぬ速度で歩き続けている。考えられる状況は二つ。一つは本当に気が付いていない可能性。この場合は、単なる間抜けか、頭が抜けている人間と言う事になるだろうから、それが確認できた時点で追跡を止める。が、もう一つの可能性。気が付いているが、あえて追わせていると言う場合であれば、恐らく、間上が追っている人間であるのだろう。

「……わざわざ黙って付いて来てやったんだ。間抜けでない方がありがたいね。そうだろ?」

「わざわざついて来た貴様は間抜けだがな」

 男が振り返った。やはりこちらに気付いていたらしい。ふと周囲を見渡せば、大通りから横に入ったどこぞの路地裏である。人通りも少なく、太陽の光も建物に遮られて薄暗い。

「ここはあんたの狩場ってことかい? ちなみに、ここだって日苗の土地だ。外から来た、てめぇの縄張りじゃねえ」

「時期に我々の物になる。先んじていただいても構うまい? 見たところ、我々と明確に敵対するつもりの様だが……追って来たのは貴様だけか?」

「安心しろよ。てめぇを殴るのは俺一人だ。だが残念だったな、俺は他人の5倍は多く殴るからよ」

 手の関節を鳴らし、握りこむ。体を一気に優男へと近づけ、そのまま腕ごと鳴らした手を叩き付けようと―――

「がッ――!」

 呻き声を上げたのは優男では無かった。間上自身である。

 殴り掛かったはずが、何時の間にか首を掴まれていたのだ。それも優男の手では無く、路地裏の横側から独りでに伸びた配管の様な物で。

「ぐっ……なんだ、こいつは」

「話す意味があるか? これから気を失う奴に」

 配管が閉まっていく。先ほどは単に前進を止められた程度の衝撃だったが、今度はきつく強く、間上の首を締め付けてきた。

「だ、れ、が……こんな……もんにっ―――ぬぉっ……!」

 首を絞める配管を、力任せに引き剥がそうとする。だが、そうやって力を込めた途端に足を取られた。まるでぬかるみにでも嵌ったかの様な感触。なんとか視線を向けると、足がアスファルトにめり込んでいた。

 アスファルトが溶けている。そんな風に思ったが、足を動かそうとしても、それはアスファルトの固さで阻まれる。一体何が起こっているのか。そんな事を考えるだけで、脳が酸素を消費していった。

 意識が遠のく、どこまでも遠く、視界は黒く……。

「ふんっ、こんなものか」

 優男がこちらを見下ろしている。どうやら間上は地面へと倒れたらしかった。だが、そんな視界も、すぐに黒へと染まって―――


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