友だちがほしいお姫さま
違う、そうじゃない。
むかしむかしある国に、花のようにきれいなお姫さまがいました。
王さまはお姫さまをとても大事にしていたので、お姫さまはお城の外に出してもらえず、いつも部屋で本を読んだり、庭で花を摘んだりして過ごしていました。
王さまもお妃さまもとてもやさしく、召使いたちはみんな親切だったので、お姫さまはお城の外に出なくても幸せでした。
でも、お城から出ないお姫さまには友だちがいませんでした。
本を読むのも花を摘むのもいつもひとりです。
お姫さまは友だちがほしいと願いました。
するとある日、お姫さまの前に魔女があらわれて言いました。
「おまえの願いをかなえてあげよう。姿を変えてお城の外に出られるようにしてあげる」
そう言うと、いじわるな魔女はお姫さまをカエルに変えてしまいました。
「これでお城の外に出て、お友だちを作れるわ」
お姫さまはよろこんでお城の外へ跳んでいきました。
しばらく行くと、うさぎに会いました。
「うさぎさん、こんにちは」
「なんだい、みにくいお前がわたしに話しかけるんじゃないよ」
うさぎはそう言って、森の中へ走って行ってしまいました。
またしばらく行くと、今度は小鳥に会いました。
「小鳥さん、こんにちは」
「まあ、なんてしゃがれた声なのかしら!」
小鳥はそう言って、空高く飛んで行ってしまいました。
「こんな姿では、だれもお友だちになってくれないんだわ」
お姫さまはしくしく泣き出しました。
「カエルさん、どうして泣いているんだい?」
お姫さまが顔を上げると、とてもきれいな身なりの男の人がお姫さまをのぞきこんでいました。
「わたしはお友だちがほしいのに、こんなにみにくくて、こんなにしゃがれた声では、だれもお友だちになってくれません」
「それじゃあカエルさん、ぼくと友だちになってくれませんか」
やさしい男の人はそう言うとお姫さまを手のひらに乗せて、となりの国のお城につれて行きました。
男の人は、となりの国の王子さまだったのです。
お姫さまは王子さまにたくさんの本の話をしてあげました。王子さまはそれを楽しそうに聞いてくれました。
「カエルさんは物知りですね。話をしていてこんなに楽しいのは初めてです」
お姫さまも初めて友だちができてとてもうれしく思いました。
お姫さまは心のやさしい王子さまをすっかり好きになりましたが、王子さまがみにくいカエルの姿を嫌いにならないか心配になりました。
「王子さま、こんなにみにくいわたしと、本当にお友だちになってくれるのですか?」
「ぼくはカエルさんをみにくいとは思いませんよ。カエルさんはいちばんの友だちです」
そう言うと、王子さまはカエルのお姫さまにキスしました。
するとたちまち魔法が解け、お姫さまはもとの姿に戻りました。
花のようにきれいなお姫さまの姿を見ると王子さまはよろこんで、お姫さまと結婚することにしました。
それからふたりは、幸せに暮らしました。
でも本当は、お姫さまは少しだけ幸せではありませんでした。
なぜなら、お姫さまの望みは王子さまと友だちになることだったからです。
男と女の友情なんて幻想、という話。