平穏3
「耀介だ。よろしく」
簡潔な自己紹介。それでわかるのは他人とのかかわりをもたないという意思表示。よろしくの言葉に温かみなどない。
「だそうだ。みんなよろしく頼むな」
とはいってもかりそめのクラス。
基本的にかかわりなどない。講義が一緒になるかどうかすら定かではないのだ。なので必然的に周囲の関心は薄れる。もともと転入生が来るのが珍しくて興味を持っていただけなのだ。途轍もないイケメンが来るとか、美少女が来るとかでもない限りその興味は続かない。
「だってよー、彼方」
「しらん」
だから彼方も椅子に座りつつ後ろを仰ぎ見る塔矢の言葉にそう返して終わり。
―――のはずだった。
「失礼します、菜摘さん」
「おう、入れ」
そこにその男がいなければ。
「あれ? 言いましたよね。生徒会役員はもう一人いるって」
「言いましたけど……ん? じゃあ、もう僕は雑用しなくてもいいってことですよね」
彼方が菜摘に出会い雑用することになってから半年が過ぎようとしていた。
この長かった雑用もようやく終わり。
そう考えると解放感と同時に一抹の寂しさを感じるのも事実だった。
と、
「んーそうですね。でしたら校内行事関連は耀介に手伝ってもらうとして、彼方には買い出し関連を手伝ってもらいましょう」
『なんでだよ!』
思っていたのにあっさりと手のひらを返されるような菜摘の台詞。
二人の突っ込みが重なる。
彼方と耀介。
「もう一人が来るまでって言ってたじゃないですか」
彼方はなぜか内心ほっとするものを感じつつ。
「俺は買い出しもできるぞ。なんでこんな奴の手を借りなきゃならないんだよ」
耀介は彼方を睨みつつ菜摘に告げる。
その言葉に、その態度に、彼方は不快感を覚え、
ああ…そうか、これは―――
「んー。私が決めたことなので。というか耀介、あなたはわかっているはずでしょう?」
「………そうだな。わかったよっ」
用事がないと会わないのが知り合い
用事がなくても会うのが友達
用事を作ってでも会いたくなるのが好きな人
そういったのは誰だっただろう。
それに彼方が気づくのはいつの日か。
そして―――
そして、
彼方の雑用が続くのは確定事項となった。
「で、あいつは何なんだよ」
「まだわかりません。調査中です」
「白か黒かは?」
「おそらく白でしょう。能力者ですらないようですし」
彼方を先に帰し。二人は本題に入る。
「ちっ、そもそも白だったらいつまでも見てる必要なんてねぇんじゃねぇのか」
「そこは志穏に聞いてください。それに、別にあなたが来る必要はなかったのに」
「あっ、おまえ何言ってんだよ。来るにきまってんだろ。主人を護るのは俺の仕事だよ。いや、仕事というよりは俺の意志だ」
はぁ…
菜摘はため息を一つつき、耀介を見る。この男、悪い人間ではないのだが、少し直情的なところがあり、たまに行動が行き過ぎる。
「そもそも生徒会に入れる必要なんて―――」
言葉の端を耳に挟み菜摘は思考する。
もちろん、耀介の言い出した通り。生徒会として共に活動する必要はない。むしろマイナスでしかない。必要以上の接触はよくない結果を巻き起こすこともあるのだ。それでもなぜか呼んでしまった。なぜかそばにいさせてしまった。なぜか手放すきっかけを自分で断ち切った。それがなにかわからず。
見続けていたいと思ったのだろうか。それがなぜかわからず。
一つ大きく息を吐き、思考を停止する。
わからないことにかまけている暇などない。私は元凶を見つけ出し、滅ぼし、そして最後には――
「…聞いてんのかよっ」
「雨が降りそうですね」
「聞いてねぇのかよっ」