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エデンの向こうへ  作者: 懸時哀斗
1-2 出逢い
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行間

ひさしぶりになりましたが、

ぱんぷきんに区切りがついたので戻りました

「なっちゃん、最近わらうようになったよね」


その言葉で現実に引き戻される。

白い殺風景な部屋。

そこには菜摘ともう一人、少女がいる。


「なにかあったの?」


なにか……

菜摘の脳裏に一人の男の子が浮かぶ。

そう、彼は「男の子」、まだ子供だ。

考え方も稚拙で、現実がどれほど過酷なものかをも知らない。

幼稚園に行く前の子供と同じ。

世界を、自分を取り巻く環境すら知らない。


けど、だからだろうか、暖かい。

彼と一緒に過ごす時間はこの上ないぬくもりをもたらしてくれる。

今、この「組織」以外で唯一くつろげる場所だろう。

だから―――


「ほら、またわらった」


ベッドに横たわったまま少女は微笑む。


「……うれしそうね?」


その少女の態度に菜摘は怒るより先に疑問を覚える。

だって、と少女はつぶやく。


「だって……このままなっちゃんが復讐とかに囚われないようになればいいなって………ごめん」


菜摘の表情を見た少女は、だんだんと声が弱くなり…あやまる。


「それはないわ」


菜摘は断じる。

これまで幾度となくあったやりとり。

そのたびに同じ言葉を繰り返してきた。

これからもこの答えが変わることはない。


「私は家族が殺された五年前のあの日のことを忘れることはない。絶対に。そして私は家族の敵を討つ。必ず」



菜摘は思い返す。

帰宅時に見た光景。

家屋はねじ曲がり、引き裂かれ、もはや建物としての機能を果たさず。

日本庭園だとか言われていた庭石は乱雑に散らばり、池の水は干上がったかのようになくなり、そこにいる鯉が時折思い出したかのようにビチリと全身を震わせる。

そこにはなにもなかった。

朝、家を出るときに見送ってくれたお父さんお母さん。

そして使用人の人たち。

二度と笑うことなくその場所に横たわっている。

そして菜摘は見た。

ヒトやモノが散乱したその中心に一人の男が立っているのを。

その男が空を見あげて雄叫びをあげているのを。


「私は忘れない」


誓うように、自分に刻みつけるように。

あの男のことは忘れない。

いつか必ず見つけ出す。

この身が滅ぼされることになろうとも、あの日のことを忘れてはならない。

そう思った。


そして、

あの男は殺した。

でもまだ終わっていない。

真相は闇に葬られたままだ。

あの事件を起こした真犯人はどこかでのうのうとしているのに違いない。

いつか必ず見つけ出す。


「でも、そんなの悲しすぎるよ」

「それでもいい。私は家族の敵を討つ。それだけ」

「もうおわった。それじゃあだめなの?」

「駄目。まだ終わってなんかいない」

「それが…どんな結果をもたらすとしても?」

「ええ…………って?」


この子が言いたいことは、つまり…


「もしかして未来が?」

「しらない」


少女は不意に表情を消す。


「私はなにもしらない。だからもうこれいじょう、なにかをしないといけないっておもうのはやめよう? じゃないと…」


それでもすがりつくように。

その言葉から、態度から、菜摘は少女の視た未来が解る気がした。

おそらく

菜摘がこのまま復讐に囚われていたら、きっと死ぬことになるのだろう。

そうに違いない。

だけど、そうだとしても―――


「それはできない」


もしそれが、どんな結果をもたらすとしても、今この意志を消してしまうことは菜摘がこれまでしてきたこと全てを否定することだから。

今ここで話すことさえ無意味になるということだから。

だから否定する。

否定し続ける。


「それが私の身を滅ぼすことになったとしても、私は今この私を殺すことは赦せないと思うから。だからやめることはあり得ない」


菜摘の意志を再確認させられ、少女は黙って首を振った。


「私は…私はかならずこうかいするね。いま、なっちゃんを止められなかったことを。私はなっちゃんがすきだから。なっちゃんがわかるから。だから止めることができない。だからいまの私にできることはいのることだけ。未来はほんのささいなことで変わるものだから。その『ささいなこと』がおきるのをきたいするだけ。だから最後に一つだけ。一つだけ聞かせて?」


少女はすがりつくように菜摘を見つめた。


「なっちゃんは今しあわせなの? しあわせなのはどっち? ここにいる時か……学校にいる時か……どっちにいる時がしあわせなの?」




少し間があき、

菜摘は小さく零した。

その声は小さすぎて少女に聞こえたとは思えなかった。

ただ聞こえなくとも、少女には届いたようだった。



「じゃあ、なんで―――」


その言葉に菜摘は、


菜摘は。


菜摘はその言葉を聞かなかった。


聞きたくなかった。


だから聞こえないふりをした。

そして答えなかった。




でも、本当は聞こえていた。










菜摘の居なくなったその部屋で、ひとり呟く。


「でも、なっちゃんの思うより、世界はざんこくだよ」


















少女の名を出さず・・・


引っ張るつもりもないんですが、

なんとなく引っ張ってみた。


・・・この子、次でてくんのは――

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