菜摘4
長い、夢をみていた
遊園地
―――お化け屋敷―――
「ひゃっ」
私は驚いて急に声を漏らす。周囲に何もいないことを不思議に思った彼方に、私はくびすじに触れたそれを差し出す。
「これは?」
「こんにゃくです」
私は憮然として二本の指でそれをつまんだまま。
「…こわかったんですか?」
「これって、使いまわし…ですよね?」
二人で想像するのを躊躇い、急ぎ足で出る。
―――ジェットコースター―――
「これって速いんですか?」
「さぁ? 速いとは書いてありましたよ。あと、」
「あと…?」
「高いって」
次の瞬間二人の身体は急降下し始める。
「わぁー………」
「…………?」
彼方の様子が何かおかしい。
「あの……まだ、ですか?」
「だから高いって」
―――ゴーカート―――
「彼方、負けたほうが勝ったほうにジュースで」
「へーい」
二台同時スタートができ、コースもなかなか長くてうねうねしていて面白そうな…
ということでいつの間にかレースをすることになっていた。おあつらえ向きにスタートの信号もある、けど。
「位置について―――」
「え? 菜摘さん…あそこに信号が―――」
「あれは偽物だから。ゴー」
信号を待っていたであろう彼方に差をつけることができ、
「えーーーっ」
勿論勝ったのは言うまでもない。
―――観覧車―――
とんとんとん―――
「つまらないの?」
「いや……」
彼方はすぐに返答をする…が、
とんとんとん―――
「じゃあなに?」
「観覧車って景色を見るためのものですよね?」
「はぁ……つまり―――」
「飽きた」
肩をすくめる―――と、
ちょうどてっぺんにつき、海が―――見えた。
「あっ、海ですよ。菜摘さん、海が見えますよっ」
子供のような反応に苦笑する。
水族館
「わぁっ、彼方。あれはなんですかっ?」
「…その、いかにも自分が知らないお嬢様みたいな展開をどうしろと? 一応言っとくけど、あれはサメです」
「それは知ってる」
「さっき、何を聞きました?」
「あれはなんですか?」
彼方は私の指さす先を追い―――
「もしかしてあの海藻?」
「そう、その海藻」
「何を聞きたいんでしたっけ?」
「あの海藻の名前」
「知ってるとでも?」
「欠片たりとも」
「菜摘さん…」
―――みやげ―――
「やっぱり水族館といえばお土産はセットですね」
「わからなくもないですけど、そんなこと誰が決めたんですか?」
「今私が」
「…………」
「あっ、これにしましよう。ペンギンのキーホルダー」
「……。……? ペンギンなんていましたっけ?」
「いました」
必死で思い出そうとする彼方に、私はにやにやしながら告げる。
「ほら、これっ」
「いや、これは……」
とは言いつつも、彼方も笑っている。
正直、くだらないやりとりばかりだった。そう思う。なんでこんなことで笑う自分がいたのか今でも全く分からない。
それでも暖かかった。
と―――夢が醒めた。
少しぼんやりとする。そういえば、彼方と二人でいる時はたまに敬語が抜けてるときもあったっけな。ついそうなっちゃうんだろうな。次はどこに―――
思い出す
「あ……」
私は、殺そうとした。
彼方を。
そして、死んだ。
それでよかった。
殺さずにすんだ。
終わった。
はずだったのに。
「なんで……」
「気がついたか。といっても半分くらいは無理やり覚醒させたようなもんだが」
声のしたほうを見る。
と、そこには
「蓬莱……興世」
「正解。久しぶりなのによく覚えてんなぁ。正直俺はお前のことがよくわからん。というか、確信が持てん。この数年で変わりすぎだろ」
菜摘が追い求めていた復讐の根源。その男がそこに。
「あなたの…あなたのせいで……」
「んー。多分だがそれは勘違いだ。とりあえず、その話をする前にしなくちゃなんねぇことがある」
「………?」
「お前の命は残りわずかだ。わかっているとは思うが、槍で身体貫かれてんだ。急所は外れていたが、とはいえ出血多量。今生きてんのも奇跡に近い状態だ。機械つなげて無理やり生かしているとはいえな」
その言葉に菜摘は自分の身体を眺める。
道理で首しか動かないはずだ。
全身が動かず、変なチューブが何本も自分の身体に挿してあるのが見える。
「で、聞きたいことがあるからその状態にしてある」
「聞きたいこと? あんたを殺したいのなら答えはイエス」
「おいおい。もうちっと丁寧な言葉遣いしてくれよ。救世主かもしれないだろ」
「何が聞きたいの?」
「ずばり、生きたいかどうか」
「っ!!」
さっき意識が戻った時、自分はなぜ生き返ってしまったのだろう、そう思った。
でも、また、あの日々に戻れるのなら戻りたい。そう思った。
沈黙を続ける菜摘に興世は、
「時間がないぞ。お前の命はあくまで繋ぎ止めてるだけだ。いつまでもつかはわからん。もちろん遅れるほど死ぬ可能性が高くなるだけだ」
「……望みは?」
「あ? なにもねぇよ。強いて言うなら、そうだな。息子の惚れた女を見てみたかっただけだ」
「…思い出したわ。そういえば、あんたそんな感じだった。親子で似てるとこがあるわね………生かせるものなら生かしてみなさい。その後あなたがどうなるのか保証できないわよ」
それを聞き、興世は笑う。
「さっきは死ぬ可能性が高くなるとかいっちまったが、大丈夫だ。俺はお前が死ぬ瞬間を想像できないな。これからやる『実験』にお前は成功するだろうよ」
「好きにしたら?」
菜摘は目を閉じる。次に目を開ける時に何をすべきか、それを考えながら。
「恐ろしい女だ。彼方は大丈夫かよ。まぁ、あいつはあいつで心配だが」
ピクリと菜摘が反応したが、それでもそれ以上は動く様子を見せない。
「菜摘、今からお前を『最強』にしてやるよ」
そして、興世は―――
忘れてた。
多分言ってないですが、
未知の能力は
炎や火ではなく、熱になります。
菜摘、生きてたんだね。びっくり