流転3
胸に、小さな棘が刺さっているんだ
今回は公園だった。
二人でベンチに座り、子供が走り回って遊んでいるのをただ眺める。
一時間も。黙ったまま。
彼方は菜摘に話しかけようとした。
この間の返事がほしかったのだが、それ以上に、ただ菜摘と会話したかったから。
だから何度も話しかけた。
しかし菜摘は返事をせずにただ黙って目の前の子供たちを見つめているだけ。そのために彼方の視線も子供たちが遊んでいるその風景を眺めるだけになる。
――――――と、ふいに菜摘が口を開いた。
「彼方は―――、彼方の父親はどんな人でしたか?」
彼方は菜摘の言うことがわからなかった。菜摘は知っているはずなのだから。だから彼方は前言ったことを繰り返す。
「覚えてないよ。物心つく前には今の家にいた。父親に対する印象はないね」
「そう……」
それきり。
菜摘はふたたび黙り込む。
彼方はしばらくためらったのち、無邪気に遊ぶ子供たちを見つめたまま、意を決して呟く。
「僕らは…あそこにいる子供たちみたいに…幸せになれるかな?」
「…………無理ね」
数秒ののちに放たれたのは、彼方の予想し、期待し、望む言葉とは真逆のもの。強い否定の言葉。
そのあと、菜摘は立ち去り、それでも
日が暮れ、遊んでいる子供たちが彼方の様子をいぶかしみつつもいなくなり、それでも。彼方はその場を動けなかった。