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エデンの向こうへ  作者: 懸時哀斗
1-3 流転
11/65

流転1

「菜摘さん、僕は菜摘さんが好きなんです。だからっ―――」


彼方はそこまで言ったところで言いよどむ。

そもそも自分が菜摘と釣り合うのだろうか。二人で歩いていたところでカップルに見られるのではなく姉と弟として見られているのではないのだろうか。自分なんかが菜摘という存在を幸せにしてあげることができるのだろうか。

そんな問いを自分に課し、言葉を継ぐことができなくなる。


だが、言いたいことは菜摘に伝わった。

言えないことも菜摘には伝わった。

菜摘はそれを愛しいと思った。

それは真剣に菜摘のことを想ったうえでのことだったから。自分よがりの言葉ではないということが彼方の性格を知ってきた菜摘にはわかっていたから。

それでも、それでも。

菜摘にはすぐに答えを返すことができなかった。

決して応えを返すことができなかった。


だから、とりあえず保留することにした。

それが彼方の誠意を踏みにじることになるのは分かっていた。

それでも少し時間がほしかった。

どう答えるにせよ。その答えに自分自身が納得するだけの時間がほしかった。自分自身を納得させるだけの時間がほしかった。


「明日でもいいですか? その答えは」


彼方はぎこちなく微笑み、頷く。

そして生徒会室を静かに出ていく。



ちっ。

近くでそれを聞いていた彼はそれを聞き舌打ちをする。

どうやら計画を前倒しで進めなければならないようだ。

不確定要素が多すぎるがやらないよりマシだろう。

彼はどこかに連絡を取った―――




一人―――生徒会室に残った菜摘はそっと胸を押さえる。想いが溢れ出してしまいそうだった。

どうしたらいいのだろう。

すごく、嬉しかった。

告白されたこと自体は何度もある。「あの事件」の前も、後も。そのどれもが嬉しかった。自分の存在を肯定してくれる、それが嬉しかった。自分を認めてくれている、それが嬉しかった。今回はなぜかそれら以上に嬉しかった。しかし、それがなぜなのか、理解することを、菜摘は拒んだ。

現実、菜摘は彼方の想いを受けるわけにはいかない。自分の使命が、今の目的が、任務が。菜摘に自分を赦させはしない。

と、タイミングを計ったかのように電話が鳴る。ディスプレイに表示された名前を菜摘は見つめ、少し硬直し、それでも何事もなかったかのように出た。


「はい、菜摘です」

「本日をもって彼方の〈監視任務〉は終わりだ。お疲れ」


突然告げられた最後通牒。しかし、菜摘は、


「………………」


黙って問う。監視だけで終わるのはおかしい。前例がない。護衛なり、排除なり、通常は次に何らかのアクションを要求される。


「いや、そんなに構えなくていいよ。ついでに菜摘はしばらく休暇をあげよう。もう少し学生生活を楽しんでいってほしいね」


今の菜摘にとって。

十分ほど前の出来事を経験した今の菜摘には。

これ以上の理想はないだろう。これ以上の希望はないだろう。

もしかしたら、受け取れないと諦めていた彼方の想い。それを受け取ることができるのかもしれない。いや、違う。彼方の想い、ではない。彼方への想い、それを伝えることができるのかもしれない。幼い少女と交わした言葉がよみがえる。

「わたしのしあわせなとき」は―――


そこまで思考が廻ったところで現実に帰り、疑問を抱く。


「…本当に?」

「嘘じゃないさ。これでこの話は終わりさ」

「この、話は……?」




そこで告げられた話は、菜摘の想像を飛び越え、直前までの逡巡をなかったことにした。してしまった。



ここでついに新キャラ登場。

名前は次回。もう出てるけど

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