眠りから覚めて
地下深くに創られた祠のような場所で彼は目覚めた。深い眠りから醒めた直後で意識はまだはっきりしていないが、眠りにつく以前の事は忘れていないようだ。
さて、私が寝ている間に世の中はどう変わっただろう。
そう思いながら身を起こす。さすがに長い時間横たわっていただけあり、身体が強張っているのが分かる。経年劣化して肉体が朽ち果てぬよう時間の経過から遮断していたため見た目はそのままだが、身体を長年動かさなかった故の違和感は拭えない。
立ち上がると久しぶりの重力に懐かしさを覚える。体を動かし違和感を確認しながら考える。
目覚めたはいいが、地上に戻って自分は何をしようというのだろうかと。
魔導を極め、森羅万象を識り、時間と空間を弄ぶ。そのような自分が一体何をしたいというのか。
そこで脳裏に奴の顔が浮かぶ。世界の命運を担い悲しい定めに翻弄されながらも、最期は自分の思う通りにして満足げに逝った彼を。
結局の所、自分は人恋しいのだ。彼を見送ってから厭世感に惹かれ、しまいにこのような空間に引きこもりながらそれでも。
今世では前よりも人の縁に、自分の人恋しさに正直に生きられるだろうかと思いながら彼は詠唱する。自分を地上へと誘う空間転移の魔法を。