2章-4 日常の始動
今回は特に動きはありません。
ちょっとまったりしてます。
次に向けた繋ぎ的なものです。
仕事をお願いした三人と細かな打ち合わせをしていると、いつの間にか時間が経過していた。
「みなさぁん、お昼ですよぉ!」
紅葉が客間の扉を開け、中に呼び掛ける。
夏美さんは暫く拗ねていたけど、すぐに立ち直って紅葉の元に行っており、今も紅葉の隣で所在なさげにしていた。
「もうそんな時間か。じゃ、休憩してお昼にしましょうか」
ベリアルを始めとする四人にそう伝える。
「そうだな、あたし達は悪魔だから別に人間界の食事なんて摂らなくてもいいけど、紅葉の飯は美味いしな」
「あれ?食事摂らなくてもいいんだ?」
「そうだよ来栖様。あたし達の魔力は魔界から供給されてるからね。
人間が食べる食事は不要だよ」
そうか、悪魔って結構小食なんだ。
食堂に入ると、テーブルの殆どを占拠する様に大皿が乗っており、皿の上には美味しそうなペペロンチーノが山盛りになって湯気を立てている。
紅葉のペペロンチーノはニンニク、鷹の爪、ベーコンをオリーブオイルで和えただけのシンプルなものだけど、抜群に美味い。
ぼくを含めた六人が、テーブルに着いて先を争う様に自分の皿に取り分けると、あっという間に大皿は空になった。
「いただきます!」
ぼくが自分の皿に取り掛かっていると、紅葉が溜息を吐く。
「はぁ。あれだけ作っても足りませんでしたかぁ。わたしが甘かったようですねぇ」
「あれ?紅葉は食べないの?」
「それが……ちょっと少な過ぎた様ですねぇ。わたしは後で別に作りますぅ」
満面の笑みで、嬉しそうに笑う紅葉。
「……ごめんな、紅葉」
そう言って紅葉の頭を撫でると、紅葉は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
食事を終えると仕事を頼んだ三人は各々の作業に取り掛かり、夏美さんは楓とキッチンに。
ぼくとベリアルは手持ち無沙汰になり、とりあえず客間に向かう。
ぼくの今後の身の振り方を考えなきゃいけない。
ぼくは去年の春からK大学に通っている。
K大学は左京区にあり、この屋敷からだと車でも一時間以上掛かってしまうので、市内にアパートを借りていた。
でもこうなった以上は、流石にこの屋敷に住まないといけないだろうし、そうなると大学への通学もちょっと考えないといけない。
そもそもこういう状況になった時点で、大学生を続けるのかという根本的な問題もある。
またベリアルの方も、幾らぼくの傍に居ると言っても、人間界に居っ放しという訳にもいかないだろう。
そんなあれこれを二人で話し込んでいると、あっという間に外は暗くなり夜がやってきた。
「まぁ些細なことは後でその都度考えるとして、基本的にはこういう感じでいこうよ?」
「そうだな来栖様。あたしはそれでいいよ」
結局ぼくは暫く大学を休学することにし、ベリアルは週の半分程度は魔界に帰るということになった。
ベリアルの副官である四人については、人間界に常駐することになる。
「でもベリアルはぼくを主人にしちゃって大丈夫なの?
サタンやルシファーなんかは、ベリアルの上位なんだよね?」
「まぁあいつ等は確かにあたしより上位だけど、あくまで悪魔としての格付けが上位ってだけで、あたしの主人でもなんでもないから。
天界に対しては序列に応じた組織で対抗するけど、魔界内では結構勢力争いなんかもしてるしね。
それに来栖様があたしの力を底上げしてくれたから、ひょっとするとあたしの力は魔界一になってるかもしれないな」
「ふぅん、そんなもんなんだ?
てっきりぼくは、普段から序列順の組織体系で動いてるもんだとばかり思ってたよ」
「悪魔なんて、所詮は個人主義者の集まりだからね。
特に上位の悪魔は結構仲が悪いよ」
ベリアルとの打ち合わせも一段落し、お腹が空いたぼくはキッチンを覗いてみることにした。
普通の家と比べれば格段に広いキッチンの中では紅葉が所狭しと動き回り、夕食の準備が調いつつあった。
「あっ、来栖様ぁ。
もうすぐできますからね」
紅葉はひまわりの様な笑顔でぼくを迎えてくれる。
「うん、ぼくが手伝えることもないだろうから、食堂で待ってるね」
「はぁい。少しお待ち下さいねぇ」
ぼくと会話をしている間も紅葉の手は止まらない。
七人分の食事の支度となると結構な量になるけど、元々家事スキルの高い紅葉にとってはなんてことはないらしい。
ぼくとベリアルがキッチンを出ようとすると、その背に紅葉からの声が掛かる。
「あっ来栖様ぁ。食材が品切れなんで、明日にでもお買い物に連れて行って貰えませんかぁ?」
「いいよ。朝から・・・」
と言い掛けてあることに気付いた。
「あっ駄目だ。紅葉は行けないな」
「なんでですかぁ?」
「見た目は楓そのままだから、ぼくと紅葉が連れ立って歩く訳にはいかないよ。
何年か経ってほとぼりが冷めればいいんだろうけど、今はまだ無理だね」
「ぶぅ。それじゃわたしは外に出られないんですかぁ?」
可愛らしく頬を膨らませた紅葉がぼくを責める。
「そうだね……この屋敷の近所くらないなら問題ないと思うけど、市内まで出るのはちょっとまずいかな」
「でもそれじゃお買い物ができないですぅ」
「必要な物を書き出してくれたら、ぼくとベリアルが行ってくるよ」
そう伝えると、紅葉の頬が更に膨らんだ。
「ベリアルさんずるぅいっ!」
「しょうがないじゃない、聞き分けてよ」
「そうそう、ちゃんと来栖様とあたしで行ってくるよ」
ベリアルが見せつける様にぼくの腕にしがみつく。
「ふんっ。いいですよぉだ。来栖様なんかベリアルさんといちゃいちゃしてればいいんだっ!}
紅葉はそっぽを向き怒った様に言うと、夕食の支度に戻って行った。
その日の夕食はクリームシチューとパゲット、ワインというものだったけど、ぼくとベリアルの席には何も置かれていなかったことは言うまでもない。
結局、ぼくとベリアルが食事に有り付けたのは、30分ほど紅葉を宥め賺した後だった。
今回はキリが良いところで切りましたので、ちょっと短めです。
次からは少し話が動くかも。
---感想、お待ちしております!




