幕間3 住職の苦労
幕間、少し短いですがなんとか書けました!
今回は山寺の住職視点です。
心の声だけで構成されていますので、台詞はありません。
苦手な方は回避ください。
京都市内、出町柳では賀茂川と高野川が合流し鴨川となる。
このデルタ地帯から賀茂川を北に遡って行くと、人家が疎らになった頃合いで、右手にK産大の広大なグランドが拡がっている。
ここから更に川沿いの道を北に辿っていくと、時々集落が現れるものの、人家も稀な谷間の道を進むことになる。
舗装はされているものの、人と擦れ違うよりは猿や鹿や、時には猪や熊とさえ出くわすことがある、そんな道だ。
この道をどんどん進んでいくと、少し開けた三叉路に出くわすことになる。
左手の川向こうには広壮な屋敷が建っており、橋を渡って屋敷の前を道が通っている。
この道を終点まで辿ると、突然壮大な山門が見えることだろう。
冬には深い雪に埋もれ、晩春には石楠花で埋まるこの寺は、役小角が開き弘法大師空海が再興したという古刹である。
歌舞伎の題材になり、国民的歴史小説家が愛し、大ヒットしたアニメ映画の構想の基にもなった。
そういう寺だ。
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儂はこの寺で住職をしている。
今年で……幾つになったんだか。忘れてしもうた。
元々は高野山で得度し真言密教を修めたのだが、どうもそういう才があったらしく、法力僧として各地の物の怪どもと丁々発止の遣り取りをしていた時期もある。
だがそれも過ぎた昔の話だ。
そんな荒んだ生活に疲れた儂に手を差し伸べてくれたのは、旧友の勝軍だった。
勝軍は学者の癖に高野山で修行を積んでおった変わり者で、その修業時代に儂と知り合い、意気投合して莫逆の友となった。
その勝軍の家が代々持つ屋敷の奥に建つこの古寺の住職にと、斡旋してくれたのだ。
思えば奴とは、結局終生の友となった様だ。
法力僧として明日をも知れぬ生活をしていた儂よりも、奴の方が先に逝ってしまうなどとは、考えもせんかったわ。
まあ尤も、奴は歳を誤魔化しておったが、100は余裕で越えておった筈じゃから、これもしょうがないのかもしれんの。
そんな奴の孫である来栖は、小さい頃からこの寺で預かる事が多く、儂にとっても可愛い孫の様なものだった。
しかし、その来栖の様子が近頃どうもおかしい。
勝軍の葬儀のときにはおかしな様子はなかったが……。
それに最近、あ奴の屋敷から妙な妖気を感じる。
これは様子を見て、必要ならば手を打たねばならんか。
来栖に何かあったら、あの世で勝軍に申し訳が立たんしな……。
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儂が覗く前に来栖の方から来よったが……あの連れていた女人は間違いなく物の怪じゃな。
それもかなり高位の物の怪と見た。
あの様子では何故か来栖に従属しておる様じゃが、どうしたものか。
しかし、今の儂の法力ではあの物の怪に勝てる気もせんな。
これは困った……。
ん?境内に途方も無い力を感じるの。
来栖やあの物の怪のものでもなさそうじゃが……。
現役の頃でもここまでの力を感じたことはなかったが、一体何が顕現したというのじゃ?
しかし邪悪な感じもせんし、そんなことを考えて居る間に消えた様じゃしな……。
ここのところ、どうも妙な事が多過ぎるな。
困ったもんじゃ。
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来栖が連れて居った物の怪が、まさかあの大悪魔ベリアルじゃったとは……。
流石の儂も驚いたわい。
悪魔召喚と伏魔真言を使ったと言っておったが、そんな簡単に従属させられる者でもない。
来栖は幼いときから凄まじい力を持っておったが、ここまでとはな。
しかもその眷属やら地縛霊やらと一緒に住むと、あっけらかんと言いおる。
本当にあ奴は、抜けておるのか大物なのか……。
まあ、勝軍の孫ということか。
とりあえず、僧正坊と逢って話をせずばなるまいな。
あの天狗め、近頃は大人しくしておると思ったのに、来栖にあんな話を持って行くとはな……。
少しとっちめてやらずばなるまいて。
しかし、大阪か……。
龍王大神の社の近くと言うておったな。
あんな大悪魔が傍に居って、これから何事もないとは思えんしな。
ちょくちょく様子を見に行かねばなるまいて。
となると、寺の留守番が要るの。
弟子の何人かを呼び寄せるしかないか。
ほんに、難儀なことじゃの。
まあしかし、こんな胸が躍る様な気分は久し振りじゃ。
老骨に鞭打って、暫し見守ってやろうかの。
これで第一部は全て終了です。
しかし、こういう書き方をすると、住職と僧正坊の口調は同じですね。
台詞になると京都弁なのですが。(笑
蛇足ですが、住職が境内に感じた強い力は、役行者のものです。
爺ちゃんの歳が、1章冒頭の来栖の言っていた享年と違うのは、間違いではありません。
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第二部は開始するにしても、来週以降になると思いますので、ご容赦下さい。
尚、打ち切りの場合は活動報告でその旨を報告させて頂きます。
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