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魔の主  作者: 猫親爺
第一部 -邂逅編-
13/23

3章-2 家

龍王様との話も終わり、次は家捜しです。

今回は繋ぎの話になります。

「来栖様、話は付いた様だな」


ベリアルが後ろから問い掛けてくる。


「うん、僧正坊からの紹介だからね」


そう言ってベリアルを振り返ったところで、ふと思い付いたことがあった。


「あのさベリアル。ちょっとこっちに来てみてよ」

「ん?どうしたんだ来栖様」


ベリアルが近付いてくる。


「この鳥居の下に立てるかな?」


ぼくは少し脇に避ける。


「鳥居ってこの赤い門か?立つだけでいいのか?」


そう言ってベリアルが鳥居に近付くが、すぐ手前で立ち止まった。


「どうしたのベリアル?」

「うん……それが……これ以上進めない。ここに何か結界があるな」

「そうか……神域にはそもそも立ち入れないんだ」

「この国ではこんな門で結界を作ってるのか?」

「これは鳥居って言ってね、神域の始まりを示すものなんだ」

「そうか。こんな強力な結界を張れるとは、この国の神も大したもんだな」


ベリアルはそう言って、しげしげと鳥居を眺めている。


「それはそうと、龍王大神様とも話は付いたし、件の家を見に行こうか」


辺りを見回すと、道路脇のビルの裏に公園が見えていた。


「多分あれが話に出ていた公園だね」


そう行って公園に向かって歩き始めると、他の三人も着いてくる気配がした。

公園に入ると、ベリアルに聞いてみる。


「ベリアル、この辺りに妖気が漂っている家はないかな?」


ベリアルはさっと辺りを見回すと、すぐにぼくに向き直った。


「あるよ。あの家には何かが居るね」


そう言って指差す先には、一件の大きな家があった。

周りに土塀を巡らせ、塀の内には木が鬱蒼と茂っており、木の間隠れに背の高い土蔵の様な建物が見えている。

かなり広い敷地の様で、そこだけが森の様になっていた。

大阪の街のど真ん中では、不自然さが目立つ家だ。


「ううん、成る程。確かに何か曰くのありそうな家だね」


とりあえず、目指す家は判った。

次はこの家の現在の持ち主を探さないといけないか。

どうしようかと思案するぼくの視野に、公園の隅のベンチに座っているお年寄りが目に入った。

八〇歳くらいのお婆さんだ。

ぼくはベンチに近付くと、できるだけ愛想の良い笑顔を浮かべてお婆さんに話掛けてみる。


「すみません、ちょっといいですか?」

「はい?私ですか?」


お婆さんが怪訝な顔付きでぼくを見上げる。

それはそうだろう、初対面の若僧に話掛けられたら、普通は警戒する。


「はい、ちょっと伺いたいことがありまして」

「はあ……」


お婆さんの警戒は緩まない。


「あの、実はぼく、この辺りで出物の物件を探しているんです。

で、あの家なんですけどね」


そう言ってぼくは件の家を指差す。


「あの家、この辺りではタイムスリップした様な感じで建ってますけど、持ち主の方ってこの辺りにお住まいなんでしょうか?ご存知ないですかね?」

「ああ、あのお化け屋敷かいな。あそこはお化けが出るねん。やめとき、やめとき」


そう言って、お婆さんはひらひらと手を振る。


「いえ、ぼくはそんなものは全然大丈夫なんですよ。

ご存知でしたら持ち主の方を教えて頂けませんか?」

「そやかて、私が知ってるだけでも、あそこを覗いてすぐに青い顔して出てきはった人は一人や二人やないで。

バブルの頃に地上げしようとしてたやくざも、なんやらあったみたいで手引いたしな。

今時そんなあほなと思うかもしれんけど、ほんまに出るねんて」


お婆さんは真剣にぼくを思い止まらせようとしてくれている。

かなり親切な人の様だ。


「大丈夫です。お婆さんにはご迷惑をお掛けしませんから、ご存知でしたら教えてください」


一所懸命止めてくれるお婆さんを説得する。

このお婆さんは持ち主を知っている様だ。

知らないなら、最初に知らないって言うだろうし。


なんとか三〇分程掛けてお婆さんの説得に成功したけど、連絡先は家に帰らないと判らないとのことだったので、ぼく達はこの公園で待つことにした。

お婆さんを見送って立っているぼくに、ベリアルが近付いてくる。


「来栖様。あの家、かなりこの世を恨んでる奴が憑いてるね。

結構強い怨念を感じるよ」

「まあ僧正坊も龍王大神様もあのお婆さんもそう言ってたからね。

居るのは居るんだと思うよ」


そう言ってぼくもベリアルに近付く。


「でも、ぼくにはベリアルが居るし、今日は夏美さんも居るからね。全然問題ないよ」


ベリアルは満面の笑みを浮かべ、ぼくに抱き着いてきた。


「うんっ、任せて!あたしがあんなちんけなゴースト、木っ端微塵にしてやるよっ!」

「いやいや、それはだめだよ。ちゃんと話し合いをしよう」

「えぇ?先手必勝でやっつけちゃった方が早いよ?」

「そんな追い出す様なことはしたくないんだ。

龍王大神様の話だと、結構可哀想な人みたいだし。

それにベリアルと夏美さんが居るんだから、何がどうなっても大丈夫でしょ?」

「まあそりゃそうだけどね。

あたしとゾンマァのタッグに勝てる奴なんて、魔界中を探してもそうそう居ないだろうしな」

「そうだろ?それなら基本は話し合いで、向こうが手を出してきてもちょっと叱り付ける程度に抑えて欲しいな」

「面倒だなあ。でもまあ、来栖様のご命令をあればしょうがないか」

そう言いながらぼくの腕に抱き着き、その豊満な胸をぼくの腕に押しつける。


「むぅう」


いつの間にか傍に来ていた紅葉が、頬を膨らませていた。


「来栖様ぁ!ずっこいですぅ!」


そう言うと反対側の腕に抱き着いてくる。

うん、紅葉の胸もかなりの容量を誇っているけど、流石にベリアルには負けてるかな。

でも、柔らかさと張りは負けてないか。


美女と美少女に挟まれ、その魅力的な胸を押しつけられながら、ぼくは現実逃避に走ることにした。

視界の端には、横目でぼく達を見ている夏美さんが映っていた。




 お婆さんはメモを片手に戻って来るとそれをぼくに手渡し、更には自分から聞いたと言って良いと名前まで教えてくれた。

本当に親切なお年寄りだ。

お婆さんに最大限の表現で感謝を伝えて持ち主に連絡を取ると、先方も凄く乗り気で、すぐに会う運びとなった。

地理に疎いぼくが会いに行くのは至難の業であるため、こちらに来て貰うことにする。

結局一時間ばかりでぼくの携帯が鳴り、公園で落ち合った後近くの喫茶店に入った。


「いやあ、助かります。

あの家、住めんわ、売れんわ、貸せんわで、税金ばっかり取られて困っとったんですわ」


持ち主の五十代と見えるおじさんが、席に座るなり切り出した。


「なんせこの辺りでは有名な幽霊屋敷なもんで。

今更隠してもしょうがないので正直に言いますけど、うちのご先祖さんがなんかやらかしたらしゅうてね。

そっから、女の幽霊が取り憑いとるらしいですわ。

幽霊が出るようになってから色々あって、うちの先祖は引っ越したんやそうなんです。

その後に人に貸したんですけど、すぐに出てしまいはって。

幽霊屋敷やって噂が立ってもて、もうどないもこないもしょうありませんわ。

おまけに、明治の建物やっちゅうのに、えらいしっかりした造りで潰れよりませんし。

戦争中もここいら辺りは爆弾も落ちんと焼け残ってしもて。

せめて焼けてしもて更地になったら、ちょっとは違うかったんかもしれませんけどな。

バブルの頃には買うっちゅうて言うてくれるとこもあったんですけど、買う前の検査で中に入ったら、途端に青い顔して出てきはって。

もうそっからはどないもしょうがなくなって、毎年の固定資産税払うだけのもんになってまいましてん。

あっ、わしホットね」


お冷やを持って来たウエイトレスにそう告げると、またぼくに顔を戻す。


「そらもう、有名な坊さんや霊能力者ちゅうのにも頼んでお祓いもしようとしたんですけど、皆さん入ったかと思たら出て来て、口を揃えて無理やて言わはるもんで。

それで、ほんまにあんな幽霊屋敷でよろしいんでっか?

上物もかなりガタ来てまっせ?」

「はい、ぼくはそんなこと気にしませんし、この立地であの広さっていうのは良いですよね。

それにそんな物件なら、かなりお安くして貰えるんでしょう?

それなら、必要な修繕をしたところで、安上がりだと思ってます」

「そらもう、引き取って貰えるなら、こっちから払ろてもえぇくらいですわ。

まあ税務署が五月蠅いよってそういう訳にはいきませんけど、ほんま形だけ貰えたら結構です」

「そういうことなら、ぼくに譲って頂けませんか?

勿論、その前に一度、中に入らせて頂きたいんですけど」

「ああ、そら結構です。盗られて困るようなもんもありませんよってな。

なんやったら、今から行かはりますか?」


そう言うと、傍らに置いていた手提げ鞄を開き、中に手を入れて古い鍵束を摘まみ出す。


「私ここで待ってますよって、見てきてください。

そやけど、後で断るのは勘弁してくださいよ?」


そう言って、ぼくにその鍵束を手渡してくれた。

良く喋るおじさんの登場ですが、大阪のおじさんってこんな人多いですよね。

中には相手の言葉を聞いてない人とか。

困ったものです。


尚、申し訳ありませんが、明日と明後日は更新をお休みさせて頂きます。


----ご感想等々、お待ちしております!

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