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魔の主  作者: 猫親爺
第一部 -邂逅編-
12/23

3章-1 拠点

3章の始まりです。

ここから舞台は大阪に移ります。

 翌日、ベリアル、紅葉、夏美さんの三人を連れたぼくは、車で大阪に向かった。


紅葉は京都では出歩かせられないので、転生してからずっと屋敷から出ておらず、折角のこの機会に外出させてやることにした。

そうなると、護衛役の夏美さんも当然同行することになる。

本当ならぼくとベリアルの二人で十分用は足りるんだけど、そういう訳で大人数になってしまった。


昨晩のうちにネットで確認したところ、太融寺というのは大阪の梅田近くにある、平安時代から続くかなり由緒正しいお寺の様だ。

なんでも、源氏物語の主人公である光源氏のモデルとなった源融という公家縁のお寺だそうで、豊臣秀吉の側室だった淀君のお墓なんかもあるらしい。

ネットの地図では龍王大神社は見つからなかったけど、幾つかのブログでは取り上げられていた。


これだけ有名な社なら、太融寺で聞けば判るだろう。

そう考え、まずは太融寺に向かった。


屋敷から川沿いに南下して京都市内に入り、更に十条まで出て高速道路に乗る。

夏美さんは辺りの風景が珍しいのか、ずっと車窓にへばりついたままだ。


「なあなあ来栖様!なんか凄く高い塔があるぞ!あれは王の住まいか?」

「あれは京都タワー。王様のお城じゃなくって観光用の塔だよ」

「なんと、あれは王の住まいじゃないのか?

では、この国の王はもっと高い塔に住んでいるのか?」


夏美さんって、ベリアルと違って下界は初めてなのかもしれない。


「おお!この道は橋になってるんだな!辺りが見渡せるぞ!」

「うるさいぞ、ゾンマァ!少しは黙れ!」


助手席に座っていたベリアルが後ろを振り向き(たしな)める。

因みに、後部座席で夏美と並んで座っている紅葉は、京都市内に入る前に寝息を立てている。


「ベリアル様!人間界というのは面白いなっ!」

「はしゃぐなと言ってるんだ!あたしが恥ずかしいよ!」


はしゃぐ夏美さんはベリアルに任せラジオのスイッチを入れると、古いポップナンバーが流れ出した。


 'Cause there's a place in the sun

 Where there's hope for ev'ryone

 Where my poor restless heart's gotta run


ちょっとアップテンポな曲に、哀切を感じさせる黒人シンガーの声が車内を満たす。

ぼくが産まれる前の古びた曲だけど、ぼくはこの曲が大好きだ。


 There's a place in the sun

 And before my life is done

 Got to find me a place in the sun


人はそれぞれ、『陽の当たる場所』を探し求める。

だけど大部分の人は、老いとともに諦めていく。

それでもそれに続く人々は、また探し求めて彷徨い歩く。

それが人間の営みっていうものなのかもしれない。


そんなことを考え、ラジオに合わせて歌詞を口ずさみながら、ぼくは車を進めた。




 大阪に着いたぼくは、地図を見ながら散々迷うことになった。

京都から殆ど出たことのないぼくには、一方通行の多い大阪の道は難し過ぎる。


何度も同じ様な道路をぐるぐると回り、なんとか太融寺に辿り着くと、その寺は歓楽街が広がる大通りの傍にあった。

多分、歓楽街は後からできたんだろうけど、由緒正しい大寺の周りに歓楽街を作るっていうのは、大阪の人は凄い神経をしてるよね。

寺社が多く、大切にされている京都で生まれ育ったぼくは、少し面食らっていた。


とりあえず、寺の脇に車を停める。


「ちょっとお寺で話を聞いてくるから、ベリアル達はここで待っててよ」


その時、ぐっすりと寝ていた筈の紅葉が、突然目を覚ました。


「んふゅ。みゅ。ん?あっ、着いたんだ」

「うん、もう着いたよ。三人とも車で待っててね」

「えぇっ!わたしも行きたいです!」

「すぐに戻ってくるよ」

「やだ!やだ!やだ!わたしも行く!」


紅葉が凄い勢いで駄々をこねる。

ベリアルも夏美さんも、呆気にとられている様だ。

ぼくが困っていると、紅葉は素早くドアを開けて出てきた。

すぐにぼくの腕に自分の腕を絡ませる。


「んふふ」


ひまわりが咲いた様な、満面の笑みでぼくを見ている。

車の中から突き刺さる、ベリアルの視線が痛い。


「しょうがないな紅葉は。……それじゃ行こうか」

「はぁい」

「ベリアル、悪いけど夏美さんと少し待っててね」

「……」


車の中からは何の返事もない。

ベリアルは露骨に顔を背けてる。


拗ねてるなあ。


ベリアルってば、最近よく拗ねるよね。

まあ後でフォローしておこう。


車を下りたぼくと紅葉の目の前に、太融寺の門がある。

門の脇にはぼくの背丈より高い石碑があり、「源融公之旧跡」と刻まれている。

門柱には「太融寺西門」と掲げられていた。

門を潜ると正面に大きな建物がある。

恐らく本堂なんだろう。

その手前で、竹箒を持った老人が境内を掃いていた。


「すみません、ちょっとお聞きしたいんですが」


老人が顔を上げ、ぼくを見た。


「この近くに、龍王大神のお社があると聞いたんですが、ご存知ですか?」

「ああ、それやったらすぐ近くや。この前の大通り、扇町通りちゅうんやけど、それをこっちに真っ直ぐ行ったら三叉路の交差点があるから、右に曲がるねん。

曲がってからちょっと行ったら、道路が社を挟んで分かれてるとこがあるわ。

そのお社が龍王大神さんや」


身振り手振りを交えて教えてくれる。


「へえ、お社を挟んで道路が分岐しているんですか?」

「そうや。元々はあの辺りまでこの太融寺の境内やったらしいんやけどな、戦前のいつの頃かの再開発のときに、あそこへ道路を作ることになって境内を削ったらしいわ。

そのときに龍王大神さんはこの境内に移す予定やったんやけど、社の脇に立つ銀杏の大木を切ろうとしたら色々とあったらしいてな。

結局お社も銀杏の木もそのままの場所に残して、道路の方が避けることになったんやな」


「へえ、霊験(あらた)かなお社なんですね」

「そうやで。せやから、あの神さんには悪さしたらあかんで」

「い、いえ、そんなことはしませんよ。この辺りに龍王大神の社があるって聞いたもので、お参りに来ただけです」

「ほぉか。それやったらええわ。それで、さっきの説明で解ったか?」

「はい、ありがとうございます」


ぼくがぺこりと頭を下げてお礼を言うと、隣の紅葉も合わせて頭を下げていた。


車に戻ると、ベリアルが暇を持て余したのか、後部座席に身を乗り出して、夏美さんを苛めて遊んでいる。


「くくく、ゾンマァよ。変な顔だぞ」

「へ、へりあふふぁまぁ……」


いつも強面の夏美さんが、ベリアルに頬を引っ張られて涙目になっている。

これは貴重な一瞬かもしれない……。

ぼくが無言でドアを開けると、ベリアルが慌てて手を離して振り向いた。


「おお、来栖様。どうだった?」

「うん、ちゃんと教えて貰ったよ。

それはそうとベリアル。夏美さんをあんまり苛めちゃだめだよ」

「かっかっかっ。

いや、暇だったもんでね。

それにゾンマァはM気質だから、わたしに苛められて内心は喜んでるんだよ」

「ち、違うぞベリアル様!来栖様も!あたいは別にそんなんじゃない!}

「まあまあそう誤魔化すなゾンマァよ。

お前のことは主のあたしが一番良く解っている」

「うう……。ち、違うのに……」


益々涙目になって落ち込んでいる夏美さん。

元々の造りはかなりの美人なだけに、こうやってしおらしくしていると結構良いかも。


「……来栖様、何やら良からぬことを考えてないか?」

「……来栖様ぁ。目付きがエッチですぅ」


ベリアルと紅葉に、ハモって突っ込まれた。


 気を取り直して車のエンジンを掛け、太融寺の塀沿いにぐるっと回って大通りに出る。

扇町通りと呼ばれている通りだ。

大通りの信号を右に曲がると、すぐにまた信号のある大きな交差点があった。

左側の道路は何故か封鎖されているので、三叉路になっている。

さっき聞いた三叉路は、多分これだろう。

信号が変わって右折すると、左前方に突然こんもりと大きな銀杏の木が立っていた。

幹の向こうに玉垣が見え隠れしている。


「あれが龍王大神のお社みたいだね」

「ほお、あれか。成る程、何か力を感じるな」


ベリアルが目を細める。


一度社を通り過ぎて道路脇に車を停め、四人で車を下りた。

正面から見ると、銀杏の大木を背後に従え、朱塗りの鳥居に朱塗りの灯籠を立てて玉垣を巡らせた姿は、小なりといえども立派な神社の風格があった。


「確かに、道路の上に立派な神社があるね。ちょっと驚いたよ」


鳥居の向こう側には小さな祠が鎮座している。

すべてが綺麗に掃除されていて、この社が土地の人に愛されていることが実感できる。


「ベリアル、ここに立っててなんともない?」

「うん、その木と手前の変な門からは力を感じるけど、あたし自身はなんともないよ」

「夏美さんも大丈夫ですか?」

「おう、大丈夫だ」


彼女たちの答えを確認すると、一礼して鳥居の下に立つ。

とりあえずはお参りしないとね。

鈴を鳴らし二拝二拍手一拝すると、祠の辺りが妙に歪んできた。


「ん?」


いつの間にか、祠の上に黒い大蛇がとぐろを巻いている。


――主が来栖とかいう人間かの。


突然頭の中に声が響いた。


――僧正坊が言うておった通りの若僧じゃの。


かっかっかっという豪快な笑い声が続く。

頭の中では笑っているけど、当然のことながら目の前の蛇はにこりともしない。

妙な感覚だ。


「お初にお目に掛かります。小角来栖です」


とりあえず、目の前の蛇に挨拶をしてみた。


――主があの行者殿ののぉ……。

――儂が龍王大神じゃ。話は僧正坊から聞いておる。

――主、都に住めん様になったそうじゃが、成る程、後ろに居る奴輩と一緒ではそうなるかの。


「はい。僧正坊にも迷惑を掛けたくありませんので、こちらに住まわせて頂こうかと思っています」


――うむ、それが良いじゃろ。この地は妖かしも少ないし、土地の神も少ない。

――少し向こうに天神様と恵比寿様のご在所があるが、どちらも滅多に来られんしの。


「はい、そう伺っています」


――それで住む場所じゃが、これも僧正坊に聞いておるかの?


「近くの公園の傍に、地縛霊が取り憑いている家があると伺っています」


――そうなんじゃ。そのせいであの家には誰も近付かん。主らには丁度いいじゃろ。


そう言ってまた、かっかっかっと笑う。


――しかしの、あれも可哀想なおなごでの。何かを切欠(きっかけ)にあそこから出られればいいんじゃが。


「本当に地縛霊なんですね」


――そうじゃ。色々あって縛られてしもうとる。

――今のままでは、どんどん悪霊になっていくわいの。

――尤も、もう手遅れかもしれんがの。


「解りました。ぼく達もそこに住めないと困っちゃいますので、行って話してみます」


――気を付けての。あのおなご、近頃では人間が近付かんもんで、益々荒れておる様じゃしの。

――まあ、後ろに居る奴輩が一緒なら、心配することもないかの。

――主もかなりの力を持っておるようじゃし。


「そうですね、ぼくのことは兎も角、おっしゃる通り何が出て来ても遅れを取る様なことはないと思います」


――うむ、では頼むぞ。


最後にまた、かっかっかっと豪快な笑い声を響かせると、ふっと大蛇は消えた。

今回は神様が登場です。

蛇の癖に龍王様です。

因みに、このお社は実在します。


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