中編 仕方なくないか?
ソイツは俺の家の車庫の前にいた。
自転車を停めたその横で、何をするでもなくブラブラ同じ所をいったり来たりしている。
・・・俺を待っているのだろうか・・・。
まぁ、それ以外考えられない。
が、ハッキリ言って、俺はもはやアイツとは関わりたくないのだ。
かの有名(?)な、彼女事件とバレンタイン事件の容疑者だ。というか首謀者だ。
アイツと関わって、この短い期間で良い事は何一つ無かった。むしろ俺の心身がボロボロになるだけである。
とはいえ、ヤツは俺の家の前にいるのだ。
あんなのが家の前をうろついていたら、明日ご近所にどんな噂を流されるか解らない。
俺は意を決して歩を進めた。
「あ」
と、向こうでヤマダ(仮)はこっちに気付いて小さく手を振った。
俺もそれに答えて手を振り、
「何のようだ?」
ヤマダの前に自転車を停めて、ため息混じりに尋ねる。
が、
「あ・・・、いや・・・、色々・・・」
と何やら暗い顔で俯いている。
何か凄い影を帯びているし。
今までのコイツとはテンションが全然違う。
あと何が違うかと言えば、今まではコイツの付録みたいについてきていた彼女の姿が、辺りを見回しても見当たらない事だ。
まぁ、別にそんな日もあるか。
その程度に考えて、今までのコイツとは明らかに違う低いテンションに若干不気味さを覚えながら、
「まあ、入れよ・・・」
人の良い俺はやはり家に入れてしまうのだった。
床に正座しそうになったヤマダをベッドに座らせて、俺は椅子に座る。
ヤマダは座るなり頭を深く垂れて、何を言うでもなく微動だにしない。
何か、「どうした?」と聞き辛い。
まぁ、別に向こうが話を聞いてくれ、と言ったわけでもなし。
俺は漫画を一冊手にとって、それに目を落とした。
ヤマダが話し出したら聞こう。
そんな事を考えて、俺は漫画に意識を集中させた。
「・・・んだ」
「・・・は?」
俺は漫画から目を外した。
ヤマダが何かを言ったからだ。と、言っても何を言ったかは聞こえず、“何かを言った”程度にしか聞こえなかった。
「何だ?」
俺は漫画を置いて、ヤマダの声に耳を傾ける。
「・・・たんだ」
ダメだ聞こえない。
何か、蚊が死に掛けてるような声がヤマダの口から漏れている。が、生憎それを聞き取れるほど、俺の耳はよくないのだ。
「何だって?もっと声張――――」
「彼女と別れたんだ」
・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・・・・。
あ〜・・・、ゴメン・・・。
別に俺が衝撃を受ける事ではないが、何か心に何かがのしかかってくる。
別れた。
コイツの様子から見る限り、フッたわけじゃなくて“フられた”っぽいな。
何だろう。
コイツを哀れむ心の端っこで、どこか
『仕方ないだろ』
と思ってしまう俺が居る。
だってなぁ・・・。
バレンタインの件も然り、初めて彼女を連れてきた時も然り。
寧ろよく持ったほうだと思うのは俺だけでしょうか?
ともあれ、ヤマダのテンション急降下の理由は判明したわけだった。
仕方ないです。
それだけです。




