8-7 森の窪地と魅惑草
翌朝、俺たちは亮とポチが見つけたという抜け道を目指して出発することにした。
――その前に。俺にはやらなきゃいけないことがある。なんとなく、できるんじゃないか、と推測はついているんだ。
「おーい、創太、行こうぜ」
「ワンワンッ」
「ちょっと待ってくれ」
俺は、俺に出せる最大級の魔力を、両手そして両足に集中させる。
「うおおおおおおお!」
そして、家を持ち上げて【マジックバッグ】の中に収納した。
「はあぁ? 嘘……だろ?」
亮は後退りし、ポチは腰を抜かした。
犬なのに腰を抜かすとは、可愛いポチめ。
……と思ったら、俺の視界は急に歪んで……。
「あ……倒れる、かも……」
俺は両足の力が抜けて、その場へ倒れ込んだ。
収納できたはいいとして、その対価に相応のMPを使うようだ。上限値6200ある俺のMPは枯渇寸前。たった300しかない。
「大丈夫かよ、創太」
「いや、収納するのにこのMPだろ、多分出す時も同じくらい消費するはずだ。だから今日は野宿だし、戦闘は亮とポチだけになるな。木のロッドで殴るくらいはできるけど」
「……あー。やめとくか? 今日行くの」
「いや、行こう。どの道ここにいても野宿だ。頼りにしてるぜ、相棒たち」
亮とポチは目を合わせる。
お互い、「コイツ頼りない……」っていう顔をしているのが面白い。
……ていうかポチ、だんだん人の言葉がわかるようになってきてないか? 俺の気のせいか?
かくして、冒険に出発することになった俺たち。どうか、戦闘が起こりませんように……というのは、ただの甘い願望で。
早速ピギーウルフに遭った。
亮は万象の女神フレイヤからもらった長剣と俊足を活かし、駆け抜けざまに一太刀、また、一太刀と浴びせていく。ちなみに、他にフレイヤからもらったアイテム、革の胸当てと盾は亮が。ローブはなんだか錬金術士っぽいので俺が着ている。
ポチもすごい。ポチは攻撃が基本的に噛み付くことだから、ピギーウルフのように首元へ噛みついていく。その度にものすごい返り血を浴びて、毛が赤黒く固まり始めていた。まるで見た目は毛が赤黒いピギーウルフみたいだ。
俺はというと、すっかり戦闘を放棄して、錬金素材アイテムのミール草やら、しずく草を集めている。しずく草は特に採集が難しい。外気温が低い朝に、魔力操作を意識しながら手にMPを循環させるように抜かなければあっという間に霧散してしまう。これは錬成も骨が折れそうだ。
名前から察するに、これが【しずく草の原液】になるんだろう。例の如く、フレイヤの本では大雑把にしか書いていないので、爆発に気をつけながら自分でいい塩梅の分量を探っていかなければならない。
いいように捉えれば、初めから人に頼らず生きていけ、というフレイヤの思いやりなんだろう。
――いいように捉えれば。
◇
俺は途中で他にもアイテムを摘んで行った。火薬草だろ、あと、水とかも。入れ物がないから、仕方なくバッグを水につけて採集したさ。
中がぐちゃぐちゃになりそうな気がするだろ?
ところがすごいんだ。
さすが最高品質のバッグだ。
水×15とか、火薬草(大)×4とか、ジャンルごとにまとまってる。
……もちろん……あるひも。
北村あるひ×1
だってさ。
生きていないってことを実感させて俺の精神力を削るのにはピッタリだった。もちろん亮には言っていないけれど。こんな思いするのは、俺一人で充分だ。
「おーい! 来てみろよ! 創太!」
「待ってくれ。――何か、いる」
「――!」
探索魔法によると、色はグリーン。危険度は少ないから、大丈夫か……。
俺は亮に呼ばれるがまま、茂みを抜けて大きな木が一本真ん中へ聳え立つ窪地へとやってきた。
次に目に入ったのは、緩やかな窪地に広がる、色彩豊かなテトラ型の鞘を実らせた草だった。
その窪地の中央に、先ほどの大きな木が一本。
……どうやら、テトラ型の鞘が色鮮やかというよりは、鞘の表皮が薄いからなのか、白い半透明の鞘から中身の種なのか実なのかわからないものの多様な色が透けて見えているだけのようだ。
赤に黄にオレンジに。もっと色があるかもしれない。
風通りがあまり良くなさそうな窪地の底の草へも、風が揺らいだのかテトラ型の鞘が鈴なりに揺れる。
カタカタ、カサカサ、サラサラ……。
鞘の中身の形状で奏でる音が違うのか。
小気味いいほど耳障りのいい音が聞こえて、危険な森の中にいるということすら忘れてしまうほどだった。
「鑑定!」
――ピコン!
『◯魅惑草、魅惑草の苗木
魅惑のスパイスが入った鞘をカラカラと鳴らして素敵なダンスをする動く草。モンスターではない。レアな魅惑草の実は、虹色。特殊な生命体なので【マジックバッグ】へ収納可能』
「亮、これかなりレアアイテムみたいだ」
「じゃあ、抜いていかないとな」
――パシン!
「痛てっ。なにかで足を切ったみたいだ」
――パシンッ! ――パシンッ!
「痛ッ! 創太! こいつら攻撃してくるぞ!」
「ええっ? 草なのに?」
俺はまじまじと草を見た。どうやら亮は本当に攻撃されているらしい。
――もしかして、意思がある?
俺は腰を下ろして、草に話しかけてみる。
「俺は、鈴木創太。日本からやってきたんだけど……、日本って知らないよな。俺はさ、いわゆる異世界転移ってやつをしたんだけど、その時に大好きな女の子が死んじゃってさ。生き返らせたいんだ。……やり方、知ってるか?」
――カラカラ、サラサラサラサラ……。
風も凪いでいないというのに、一斉に草が揺れた。テトラ型の中に入っている実に個体差があるのか、異なる音が響き渡り小気味いい音が耳を楽しませる。
「亮、この子たち、意思疎通できるぞ」
――パシンッ! ――パシンッ!
「じゃあ俺はなんなんだよ……痛えよぉ」
亮はずっと叩かれていた。小さな切り傷でそろそろ救助が必要そうだ。
「キュウウウン」
ポチは哀れそうに亮を見ていた。




