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8-28 舞い込んだ直接依頼


「品質が落ちてるって、酒の名水のですか?」

「ああ、そうなんだ。昨日兄ちゃんに貰ったやつは、もっと新鮮だったのに」

「検証してみる必要がありますね」


 俺は【マジックバッグ】の中からコップに酒の名水を注ぐ。


「鑑定!」

『◯酒の名水(新鮮) 湧き出す酒泉で採集できる、酒の素。【マジックバッグ】にて運搬するのがオススメ。経時劣化する』


 続いて、ガウウさんの酒の名水を鑑定してみる。

『◯酒の名水(普通)経時劣化により、品質の高さが逓減(ていげん)中。ただちに加工すればその時点の状態の酒が出来上がる』


「なるほど、わかりました」

「なんだって?」

「この酒の名水は、汲んだ時点から劣化が始まるみたいです。経時劣化ですね。今加工に入れば、今の状態でのお酒ができるみたいですよ」

「でも、なんで兄ちゃんのは……」

「この【マジックバッグ】のおかげです。俺も貰ったものなので作り方はわからないんですよ。すみません」

「いや、いいんだ! 急いで汲んで急いで帰って素早く加工しろってことだろ? 任せとけ!」


 と言ってガウウさんは自分のお店に走って行った。パワフルな人だ。


 俺は今一度、仕切り直す。


「町長さんもいることですし、始めましょうか」

「これ以上、何をするんですか?」

「街の復興の続きを、です」


 手順はエルーシャ村と同じだ。

 街中に雨を降らせ、りんごの木かメシュメルの木の実を各家庭に配り、余った畑の畝の土を土台に、家の裏に木を植える。エルーシャ村で錬成した【栄養のある土】よりも品質が良いため、すぐに芽吹くかもしれない。

 家の修繕、石畳の舗装、堅牢な外壁、畑の改善、そうして、酒の聖地の付加価値。

 時間はかかったが、半月程度で全てを終えた。


「さすが亮だよ! 石畳なんか花柄みたいなアートが施されていて可愛いし、外壁の高さも充分だ」

「ま、まぁな! 俺、大工だし!」


 亮は照れ隠しに鼻を擦る。


「でも、どれもこれも、創太のおかげだよ。お酒も結局、品質が少し落ちるくらいで美味しいことは美味しいんだろ?」


 俺はクスリと笑いながら頷く。

 ()()酒豪の秘書さんによれば、美味しいことは間違いないらしく、街おこしになるそうだ。


「なんで笑ってるんだ?」

「実はさ、見た目は綺麗なんだけど、酒豪の……」



「ソウタ様〜! リョウ様〜! 大変です!」


 使いも出さず、町長が大手を振って駆けてきた。決して痩せているとは言い難いお腹の贅肉をたぷたぷと揺らして、大汗をかいて。


「どうしたんですか?」

「――はあっはあっ、それが……」


 酒豪の秘書さんはサッとハンカチを町長に差し出し、バッグから袋に入った飲料水を手渡した。


「ありがとう。すまないね……、ルイーゼ」

「問題ありません。それより、町長」

「そうでした、ソウタ様、リョウ様に国王から手紙が届いております!」


「「エッ!」」


 と言いながらも、喜ぶ俺たち。

 下心の狙いどおり、国王に会うチャンスができたんだ! 【生命の歯車】を貰わなければ! ……と思うのはまだ気が早い。手紙を読んでみないと。


「失礼します」


 俺は町長から手紙を預かった。手紙は赤いロウで封がされていた。

 俺は亮と頷き合い、封を開ける。


『女神フロレンス様の使者殿


 貴殿らの最近の活躍については、余の耳にも入っておる。礼を申そう。

 ついては、直接依頼したいことがあるゆえ、明日遣いを出そうと思う。王城へ参られたし。


        アースフェイス国王 

        クルーガ=アースフェイス』


「思ったとおりにならないのが世の常か」

「まぁ、そうだよな。でも会うチャンスができたんだし、交渉してみようぜ、創太」

「ああ」


「失礼ですが、ソウタ様もリョウ様もやはり字がお読みになれるのですね」

「「――!」」


 ――そういえば、読めないという選択肢が頭から除外されていた。今までも読めたし、普通に読めるものなのかと思ってた。


「……といいますと?」

「恥ずかしながら、幼いものまで教育が行き届いておらず、読み書きできないまま成人する者も多いんですよ。せっかくソウタ様たちが街を再建してくださったので、今後はそちらの方へも尽力していけたらと思います」

「ぜひ、そうしてください」


 ――異世界転移の特典だろうか。よく考えれば、衣食住はおろか、話す、聞く、読むことに困ったことは一度もなかった。これも、万象の女神フレイヤの計らいなんだろう。


「一体、依頼ってなんなんだろうな」

「想像つきますか? 町長さん」

「いいえ、私にはとても……」

「行ってみないとわからないということですね」

「そうですね、すみません。明日、馬車までお見送りいたしますので、どうか今日は休まれてください」


 俺と亮は、顔を見合わせる。


「いえ、まだまだ元気ですよ! やれるところまで、頑張りましょう。門扉欲しいよな、亮?」

「ああ、俺もあった方がいいと思う。門扉があれば、警備もより強固になるし」

「早速作るか!」


 こうして俺たちは堅牢な外壁に門扉を作ることにした。……本当は、緊張を紛らわすためでもあったけれど。


 国王が直接依頼するって、一体何なんだろう。

 今の俺たちには、想像すらつかなかった。


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