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8-26 酒好きの聖地アザレア


「『酒好きの聖地』、かぁ。そりゃいい! ……問題はもらったこの酒の名水の味だな。どれ、一口」


 ガウウさんの体格に似つかない小さなスプーンで酒の名水を一口呑んだガウウさん。その瞬間、目が見開く。


「うおおおおおお! これはウメェ!」

「ははは。それは良かったです。俺は未成年だから、まだ試飲もできないんで。ただ何かに使えるかなと思って汲んできたんですけど、役に立てて良かったです」

「役に立つも何も、大助かりだ! 早速試行錯誤して美味い酒を作ってやるぜ!」

「はい、よろしくお願いします」


 酒の名水が上手く客引きしてくれたら、こちらとしても好都合だ。噂が広まれば、功労者として国王から招聘(しょうへい)される可能性が高くなる。



「――さぁ、畑を何とかするか! 誰か道案内お願いできますか?」


 俺が募ると、我も我もと志願してくれた。その中には、先程俺のローブをちょんっとつまんだ男の子もいた。あまりの可愛さに、自然と顔が綻ぶ。


「こちらです、使徒様」

「ありがとうございます。でも俺は年下なので、創太、と呼んでくれたら嬉しいです」

「わかりました、ソウタ様」


 街のはずれのほうに、畑があった。

 エルーシャ村同様、畑の規模が小さく畑と歩道の区別もないので村長の許可を得て畑を大きくしてしまおうと考えた。どう考えても、この規模で街人を養えるほどの作物は採れない。

 そして大事なのは堆肥(たいひ)だ。畑の近くに家畜の小屋があった。エルーシャ村のように、家畜の(ふん)が1箇所にまとめられていたので手を加えやすそうだ。

 あとは、ここまで来る間に通った道に石畳で歩道を、冒険者ギルドのあった広場には噴水を造ってみよう。

 今まで他の村を再建してきた経験を活かして、アイディアがポンポンとわいてくるようになったのはいい傾向に思えた。あるひを生き返らせるいい案に通ずるかもしれない。


 

「ソウタ様、街の範囲は決まりました」


 いいところに町長が来てくれた。今度は畑の範囲を決めなければ。


「町長さん、せっかくなので畑を拡張しようと思います。よろしいですか?」

「願ってもないことです。ありがとうございます」


 ――良かった。どうせ再建するなら、徹底的にやりたいもんな。

 と、俺のA型らしいところが顔を出す。


「枯れた畑に、まずは潤いを。水を撒きましょう。その後肉体労働がありますが、手伝ってくれますね?」

「「「もちろんです」」」

「……それはもちろん構いませんが、恥ずかしながら井戸の水に余裕はありません」

「大丈夫です。――水神の恵み!」


 俺が呪文を唱えると畑の上が曇天となり、畑を潤わすに充分の雨が降ってくる。


 ――ワアァァァ!


 観客は大いに沸いた。さすが使徒様、と口々に褒め言葉が贈られる。


 雨が止んだところで、俺は【マジックバッグ】から腐葉土と【栄養のある土】を出した。


「これらを混ぜて良い土壌を作る必要があります。皆さん、畑を耕してください」

「「「はいっ」」」


 その間俺は町長の同意を得て、町長に作り方を見てもらいながら堆肥(たいひ)を作成し、それも併せて畑に混ぜる。


 ここからは俺も参加だ。木のロッドで掻き回すように畑を耕せば、何故か練金釜なしでも錬成できてしまうのだ。今持っている【栄養のある土】も最高品質だが、更なる高みを目指して、更に錬成を試みる。


 ――そうだ、MPを込めてみよう。もっとアイテム錬成ぽくなるだろう。


「耕し終わったら(うね)を作ってください。今ある種や作物を植え直すのと、俺が持ってきた野菜の種を植えてもらいます。でも2畝くらいは残しておいてくださいね!」

「ソウタ様、残った畝で何をするんですか?」

「ああ、皆さんのお家の裏手に、りんごの木かメシュメルの実の木を植えてもらおうと思いまして。その時の土台の土にしようかと。アザレアは家同士が隣接しているので、植えられるのは一本分ですけれどね」


 町長は、開いた口が塞がらない。


「何とお礼を申せばよろしいのか」

「そんな。まだまだこれからですよ。街の再建は。枯れた地面に潤いを持たせ、歩道は石畳に。そして、町長さんたちが街の範囲を決めてくださった場所へは、レンガではなくサイズを揃えた石を積み上げて堅牢な外壁を作る予定です。……そうですね、あと広場には噴水も」


 町長は涙を浮かべながら、深々と腰を折った。秘書の黒縁メガネの女性は、ポケットからサッとハンカチを取り出して町長に渡す。そのさり気なさから優秀さが醸し出されている。

 俺も、こんなに喜んでくれるのであれば、下心はあるにしてもとても嬉しい。



「おおーい! 兄ちゃ〜ん! できたぜ、新しい酒が!」

「なんですって」

「⁉︎」


 ――なんですって、と声を張りながら、凛々しく黒縁メガネをクイッと持ち上げた秘書さんは俺の見間違いだろうか。


「いや、残念ながら未成年なので試飲できないんですよ。すみません」


「――コホン。ん、んんっ、コホン」


 秘書さんは、あからさまに咳払いをしている。

 すると、ガウウさんの顔からサーッと血の気が引いていく……。


「?」


「僭越ながら、(わたくし)が試飲をしても? 町長」


 ――ガウウさんじゃなく一番の権力者に同意を求めた――! これは何か臭うぞ。


「あ、ああ。いいかい? ガウウ」

「ま、まぁそりゃあ、町長に言われちゃあ」


 秘書さんは、メガネをクイっと持ち上げた。


「では、試飲させていただきます」


「??????」


 秘書さんが受け取ったのは、コップではなく酒瓶だった。そしてあろうことか、ラッパ呑みを始めたではないか。


 ――ゴクゴクゴクゴク……。


 呑むたびに、ガウウさんが可哀想な顔になっていく……。そうか……。そういうことか……。


「プハァッ! とても美味しかったです。町長、これはアザレアの街おこしにも繋がるかと」


 ――なんて酒豪なんだ……! ほろよいハニーのほうが酔っているというか、秘書さんは1ミリたりとも酔ってない。


 ――酒豪……! ――酒豪秘書……!


「ガウウ、悪かったね。また、造ってくれるかい?」

「兄ちゃん、悪いがまた分けてもらえるか? 酒の名水」


 ガウウさんが、気の毒でならない。

 ――しかし――。


「俺の残りも少ないんですよ。良かったら一緒に採集に行きますか? 場所、知りたいですよね」

「ああ! 是非!」


 ガウウさんが元気になってくれて、俺も一安心だ。


 それにしてもこんなに凛々しく綺麗な女性が酒豪とは。女性は見た目どおりではないということか。俺はいい社会勉強になった。

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