8-25 アザレアの付加価値
「何と素晴らしい! こんなにたくさんのレンガを生成できるなんて。これも神の御技ですか? ソウタ様ではなく、やはり使徒様とお呼びしたほうが……」
「や、やめてください。創太、で充分です」
「なんと謙虚な……」
驚く町長。俺からすれば随分腰の低い町長だと思う。一方でガウアさんたちは、一部始終を見ていたから俺に大分慣れたようだ。
「おーい! 創太〜!」
たくさんの案内人とポチ、くまを引き連れて亮が帰ってきた。
「家、どんな感じだった?」
「ああ、エルーシャ村と同じ感じだな。畑や家畜も見てきたけれど、それも一緒だな。ただ、範囲が広いから大変そうではある」
「なるほどなぁ。じゃあ、結構な木材がいるな」
「そうだな……。……って、うおっ! レンガめっちゃ用意したな。まぁ、さすがにこの規模の外壁を造るとなると、これでも心許ないくらいか」
「そうそう」
俺は【マジックバッグ】から、これまで貯めてきた木材をせっせと出していく。ここからは、大工の固有スキルがある亮の出番だ。
「この中に大工の心得がある人はいますか?」
「――ないけど手伝えます!」
「じゃあ木を運んで………………」
うん。あちらは亮に任せよう。
俺は俺のできることを。
「町長さんは門番さんたちと街の範囲を決めていただいて、その間に俺はもう少しレンガを生成します。あと、門番さんたちは持ち場を離れて大丈夫ですよ。この範囲でしたら、モンスターと遭遇する前にわかりますから」
「姿を見なくてもモンスターが来るか来ないかわかるのか?」
「ええ、一応」
「ガハハハ。本当にすげえな、兄ちゃんは」
「恐縮です」
さて、レンガはあとで追加分を生成するとして、俺も街の中を見に行こう。何が必要かを押さえておかなければ。
アザレアの街は、人と人とが行き交う街と言われているだけあって、会ったことのある他の村人と露店で交流することがあった。口々に、感謝の言葉を述べられるとさすがにむず痒い。途中から、下心ありきになってしまったし。
他の村と一緒で、まずは枯れた地面や畑に手を加えるべきだろうと思い畑に向かう途中で、開けた広場へ出た。
随分大きな建物がある、と思ったらここは町役場らしい。2階は冒険者ギルドと書いてある。
「――冒険者ギルドか」
いわゆるザ・異世界っていう雰囲気がする。きっと等級によって受けるクエストが違ったりするんだろう。俺は図らずとも自然と胸が躍ってしまう。
「ふーむ。ここには噴水を造るのもいいかもしれないな。そして美しい歩道を造る、と。他の村と差別化するために、歩きやすい石畳の道にするのもいいかもしれない。そうなればレンガではなく石で堅牢な外壁を造って統一感を出すのもいいかもな」
そうすれば、尚更アザレアが美しい街になる気がする。
広場から続くのは、3本の道。
その真ん中、3本の道の真ん中には、『英気の道』と書かれた立て札があった。
「なるほどな……」
人と人とが行き交う街アザレアは交易の街としても名高いのは、他の村にいても聞こえてきた。それはこの、細やかな配慮が築き上げてきたものでもあるのかもしれない。
おそらく、立ち寄る冒険者や商人が一通りの用事が済むように、英気を養ってもらえるようにと、需要のある店をこの道に集中して配置しているようだ。武器屋に宿屋、飯店に道具屋……。俺でも目移りしてしまう。
「――ああああ、困った」
――見間違いだろうか。先程街の範囲を決めるようにと依頼したはずの、ガウアさんが飯店の前で頭を抱えている。坊主頭に口髭、逞しい身体。どう見てもガウアさんかガウイさんだ。
「ど、どうしたんですか? ガウア……さん?」
俺は視察中だというのに思わず声を掛けてしまった。
「おう、兄ちゃん。惜しいが俺はガウウだ。ガウアとガウイの弟だ」
「なる……ほど……」
ガウアにガウイにガウウ……。これはもしかすると、もしかするかもしれない。ガウエさんとガウオさんがひょっこり現れる可能性が出てきたぞ。
「何に困っているんですか?」
「どうやら最近、女神フロレンス様の使徒様っていうのが村を巡って再建してるじゃないらしいか」
「そう……みたいですね……」
このタイミングで、それは俺です、とはなかなか言いづらい俺は、とりあえず話を聞いてみることにした。
「アザレアの売りは人と人とが行き交うことだろ? うちは立地がいいだけで特色がない。何か他の売りがないと、他の村に負けちまう」
「売りですか」
「例えばとんでもなく飯が美味いとか、とんでもねぇ武器があるとか……美味い酒があるとか……いろいろあんだろ?」
「……酒……」
「ああん?」
「お酒でしたら、役に立てるかもしれませんよ。アザレアの森に、『湧き出る酒泉』があるのはご存知ですか?」
「いいや。あそこはモンスターの巣窟だろ?」
「意外とそうでもなかったですよ。ほろよいハニーには遭いましたけどね」
「なんだ兄ちゃん、森通ってきたのか?」
「ええ、一応」
ガウウさんは腕を組んで俺を上から下まで見て値踏みしているかのようだ。確かに見た目はただの高校生……じゃなかった、一介の冒険者に見えるだろうな。
「兄ちゃん、すげえんだな」
「よかったら、お裾分けしましょうか? 『湧き出る酒泉』で汲んできたんですよ、酒の名水を」
「何だっテェ!」
――何だっテェ!
――――何だっテェ!
――――――何だっテェ!
響く怒声……じゃなかった、大声。
耳をつんざくそのボリュームに、思わず耳を塞いでしまった俺。これは生身で受けるとかなりHPというか鼓膜がやられるヤツだ。
「どうした」
「なんだなんだ」
予想どおり、観客が集まってきた。大っぴらにするつもりはなかったが、こうなっては仕方ない。
「何か入れ物ありますか? 酒瓶とか」
「ちょ、ちょっと待っててくれえ!」
――ガタン、バタン!
動揺っぷりが見て取れる、いや、聞いて取れるガウウさんに何故か親近感がわく。一生懸命さに惹かれるというヤツだ。
ガウウさんは、『居酒屋食堂ねこまる』という看板がある飯店から、寸胴を持ってきた。
「じゃあ、お裾分けしますね」
「ああ、頼むよ。でも、どうやって?」
俺が【マジックバッグ】を寸胴の中に入れ傾けると、酒の名水が寸胴の中へジャバジャバと入っていく。その様に、ガウウさんも観客も大いに驚いていた。
「す、すげえな兄ちゃん。何者――」
「どうでしょう?」
「え?」
俺は自信を持って提案する。
「人と人とが行き交う街アザレアに、『酒好きの聖地』という付加価値を与えてみるのはいかがですか?」




