8-24 アザレアの街の再建と下心
「うん! やっぱりピギーウルフの焼肉はうまいな。MP全快したから小屋出せるわ」
「マジか、安心したよ。創太の調子が戻ってくれて」
ここはアザレアの街の前の広場。街内、街外に明確な区切りはないが、一応街外ってことになっている。
食事もひと段落したので、【マジックバッグ】にダイニングテーブルなどをしまい、焚き火セットだけ残して小屋を出す。
「よいしょーっと」
――ズシィィン!
「圧巻だな、創太」
「ありがとう。でもやっぱりある程度のMPは持ってかれるわ」
「そりゃそうだろ、じゃなきゃ……」
「…………」
「「………………………………」」
――視線を感じる……。
気がつけば、アザレアの街の人々が俺たちを見に広場までやって来ていた。
すごく。
とても。
やりづらい。
「ねえ、あの方々が女神フロレンス様の使徒様?」
「そうだよ、絶対! 今の見ただろ? 神の御技だよ」
ガウアさんとガウイさん、といったか。
2人の門番の静止も聞かず、広場にはワラワラと人が群がってしまった。その集団の中から、トコトコと歩いてくる子どもが1人。
「コラッ! 使徒様に近づいちゃダメよ!」
母親の静止も聞かずに俺のところまで来て、男の子は俺のローブをちょんっと引っ張った。
「使徒様、アザレアの街を直してください。家はたくさんあるけれど穴ボコが開いたりして雨の日はお家の中も雨が降るし、畑も家畜も元気がないんです。だからみんなお腹が減っています。……僕も」
俺は亮と顔を見合わせ、ニコリと微笑む。
「もちろん、俺たちはそのために来たんだから」
「「「「エッ」」」」
「使徒様がアザレアを再建してくださると」
「万歳! 使徒様万歳!」
アザレアの街民は大変喜んだ。まるで、崇め奉られる俺たちは――良心が傷んで、若干苦笑い。
――そう、俺たちには「下心」がある。
俺たちのプランはこうだ。
今まで巡ってきた村は全て再建し終わった。
道中の道もレンガで歩道を造り整備してきた。
残るはここ、アザレアの街のみ。
アザレアの街も再建すれば……俺たちの噂は国王に伝わり、きっと招聘されるだろう。そして、これまでの対価に望みを言うのだ。
「この国最古の秘宝――【生命の歯車】をください」、と。
最初のエルーシャ村では下心なんか全然なかった。だが、この国に最古の秘宝【生命の歯車】があるとわかってからは話は違う。あるひのために、俺たちは開き直ることに決めた。
尽くして尽くして尽くしまくって、ありがたく秘宝をいただこう、と。
「さぁ、早速始めるか、亮。家の補修は頼むな」
「ああ、任せてくれ。まずはどんな状況か下見してくる。その間に、木材を頼むよ。あとレンガもな」
「了解!」
「俺の名前は、亮です。すみません、誰か街を案内してください!」
亮は自己紹介しながら案内人を募る。
我も我もと、競うように案内人が現れ、亮は半ば引っ張られるように街の中へと入っていった。ポチやくまも連れて。
「なぁ、使徒様。俺にもできることはあるか?」
「兄さん、口の利き方が」
「ああ、いいんですよ。だって俺たちの方が年下なんですから。それに、使徒様ではなく、俺は創太。さっきのは亮です。名前で呼んでもらえると嬉しいです。敬語もいりません」
「だってよ、ガウイ! 気立てのいい若造じゃねぇか! ガハハハ」
ガウアさんを見て、ガウイさんは若干頭を抱えている。豪快なのがガウアさんで、常識的(失礼)なのがガウイさんだと俺は覚えた。
「門番さんたちには、やってもらいたいことがあるんですよ」
「何だ?」
「街内、街外の境目は明確にはなくとも、門番としての立ち位置がありますよね? そこを起点とし、どこまでが街でどこからがそうでないのか、地面に印をつけてほしいんです。街を広げたいのであれば、そのつもりで」
「悪いが兄ちゃん、それは俺らには決められねぇ。俺たちはしがない一門番でしかないからよ、ちょっくら町長呼んでこねえと。――オイ! 誰か町長呼んできてくれ!」
ガウアさんの一言で、街人が動いた。
ガウアさんはある程度の権力者なんだろう、と思う。それかよほど、門番としての地位を確立して頼られているのかのどちらかだ。でなければ一声で街人が動くはずがない。
しばらくして、町長がやってきた。
「貴方が使徒様ですか。私はニューム=アザレア。この街の町長を務める者です」
「初めまして。スズツリー=ソウタと申します」
俺は恭しく胸に手を当て、頭を下げた。
そういえば、異世界に来て初めてフルネームを名乗った気がする。
うん。なかなか世界観に合っていていいじゃないか。亮もカガ=リョーと名乗ればいいのに。
「スズツリー様、ですか。この度は街を再建してくださると伺いました。何とお礼を申し上げたら良いか」
――ズキン、とまたもや良心が。
でも、いいんだ。あるひのためなんだから。
「お礼だなんて。代わりに決めて欲しいことがあります」
「何でしょう」
「アザレアの街の、範囲をです」
「ええと、それは何故でしょうか」
町長さんは、ハンカチで汗を拭きながら喋っているが、特段今日は暑くはないので、緊張しがちな人なんだろう。隣に立つ凛々しい女性は秘書だろうか。黒縁メガネがよく似合う美しい女性が、サラサラとメモをとっている。
「それはですね、ちょっと見ていてください」
俺は渇いた地面に手を当てる。
――イメージするんだ。たくさんの土レンガを。家と家をつなぐ、道になるように。村を囲う、礎となるように……。
「――土地神の工作!」
――ガラガラガラッ……!
土レンガは思った以上に出来上がった。土属性のレベルもだいぶ上がってくれたからかもしれない。
「おお、なんと……!」
「すげえや、兄ちゃん」
俺は大量のレンガを背に街を指差し言う。
「これで外壁を作ろうと思います。ピギーウルフにも慌てないで済む、堅牢で高さのある外壁を!」




