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8-23 ある街の門番を務める男の話


 俺の名前はガウア。

 アザレアの門番を務めている20歳の男だ。


 アザレアは、この近辺の村、エルーシャ村、カッシュ村、エードリッド村、エンリッヒ村のちょうど中央に位置しており、自然と冒険者や村人が集まってくるので、人と人とが行き交う街と言われている。


「視界は良好、モンスターはいないな」

「ああ」


 俺は相方の双子の弟、ガウイに話しかける。

 俺たちは二人とも坊主で、口髭があるのが特徴だ。図体がデカイところも似ているから、よく間違われるんだ。


 それはそうと、最近面白い噂話を聞く。なんでも、女神フロレンス様の使徒様が、近隣の村を再建して廻っているとかなんとか。

 流行病はたちまち治り、農作物は潤い、住居は修繕されて、まさに神の所業と言われているんだが、面白いことに、人を襲わないピギーウルフと、ワイルドベアの子どもを連れ歩いているらしい。なんとも変わった使徒様である。

 他の村よりはマシだが、アザレアもぜひ再建して欲しいものだ。というのも、アザレアの森が近いせいで、よくモンスターの被害に遭う。

 先日は、ある門番がピギーウルフにあと一歩のところで喉笛を噛みちぎられるところだった。ピギーウルフが出現すると、大人数で闘わなければならないことから、警報器が鳴る。そうして集められた俺とガウイでなんとか倒せたものの、本当に間一髪だった。

 アザレアはほぼ無防備だ。街と街外に区別はなく、外壁もなければ門番も少ない。結局のところ、外壁がないため等間隔で門番を配置しなければいけないわけだ。せめて堅牢で高い外壁があれば、門番の配置は1箇所で済むだろう。

 まぁ、偶然にも使徒様が救ってくださる、なんて夢物語は信じちゃあいねえが、他の村で起こした奇跡を、アザレアにも分けて欲しいものだ。


 と考えていたら、遠くから人間とモンスターがやってきた。色は茶色っぽいが、ピギーウルフの可能性が高い。それに子どもだがワイルドベアもいる。


「おいっ! 警報を鳴らせ!」


 ――ウウウウーウウウウウー!


 俺は他の門番に指示し、大楯を構える。ピギーウルフとなれば、タンクの俺が食い止めねぇと。その隙をついて、アタッカーのガウイがトドメをさす戦法だ。


「うおおおおおおおお!」


 俺は敵の敵対心(ヘイト)を集めるため、大声を張り上げ、大楯を構える。ガウイも、隙を狙うべく長剣を構えている。


「――?」


 ――ピギーウルフの割には遅い。手負いかなんかか? タラタラと歩いて来る。


 だとしたら尚のこと都合がいい。今応援がこちらに向かっているだろうが、運が良ければ2人で倒せるかもしれない。


 ――来た!


「あの〜。どこかで休ませてもらえる場所ありませんかね」

「――は?」


 そうだ、おかしいと思ったんだ。モンスターのくせに、人間と連れ立っているから。歳の頃が16、17くらいの男2人のうち、黒髪の男が手負いらしい。話しかけてきた茶髪の男の肩を借りて歩いている。


「ここはアザレアですよね? 中で休ませてもらうことはできませんかね? 無理ならここの広場でもいいんですけど」


 茶髪の男が言う。どうやら俺の聞き間違いではないようだ。それに、よく見てみればワイルドベアはハチミツの小瓶を抱えているし、ピギーウルフかと思えば犬だ。何かがおかしい。


「――! まさか、噂の……」


 俺とガウイは顔を合わせた。


「「女神フロレンス様の使徒様⁉︎」」


「あー、ここでもそう呼ばれてますか……。いや、本当は違うんですけどね。人の噂って本当に早く広まるもんだな。な、ポチ、くま」

「ワン」

「ガウ」


 ――意思疎通ができる、だと……⁉︎


 間違いない。女神フロレンス様の使徒様だ。


「そちらの方は?」

「ああ、魔穴(まけつ)って言ってもわかんねえよな……ええと、ほろよいハニーと戦闘しすぎて、ちょっと疲れてるだけです。休ませてもらえればなんとか」


 茶髪の男の声に反応し、黒髪の男が顔を上げた。


「大丈夫だ、亮。肩貸してもらえたから、ちょっと回復してきた。……すみません、突然訪問して。街外でいいんでちょっと場所貸してください」

「ああ、はい」


 俺は上の許可を取るのも忘れ、勝手に返事してしまった。ガウイがオイ、と俺をせっつく。

 調子が狂うぜ、全く。普段の俺ならこんなミスはしねぇのに。使徒様らしいといっても街人でないことは確かだ。そんなに気を許すもんじゃない。


「あの、やっぱり……」


 と言いかけたところで、黒髪の男が不審な行動を始めた。

 革製のバッグにありえないくらい手を突っ込みはじめた。この男は軟体か? と思えばどんどんとアイテムを出していくではないか。

 ダイニングテーブルに椅子、簡易テントに焚き火セット……。とてもバッグに納まる量ではない。

 そしてあろうことか、テーブルに熱々そうな肉が乗った皿を並べていき、犬とワイルドベアにもエサをやっている。なんと、コップに入った飲み水まで出しやがった。


「じゃあ、すいませんけど、ここお借りしますね」


 と言って喫食を始めた。


 ――あぁ、そうか。これは夢か。


「なぁ、ガウイ、俺の頬を殴ってくれ」

「あ? いいのか本当に」

「ああ」


 ――ボコッ!


「痛えな、何すんだ!」

「お前が殴れって言っただろうが」


 ――ああ、そうだった。


「いい匂いがするな」

「本当だな。あぁ、腹減った」


 ――そうして俺は、考えるのをやめた。



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