8-21 久しぶりの遭遇(エンカウント)
俺たちはリリーたちに惜しまれつつ、エルーシャ村を後にした。リリーは、特に亮に懐いていて、離れる時は亮まで涙していた。
その後俺たちは、村長に勧められたカッシュ村、エードリッド村、エンリッヒ村へと赴き、エルーシャ村同様に村の再建に尽力してきた。俺たちが村へ着くよりも、噂の方が先回りしていて、どこに行っても使徒様呼びされるのは変わらなかった。
……気づけばもう、異世界にきて半年は経っているかもしれない。
合間を見て、万象の女神フレイヤからのたくさんの書き物に目を通す俺。今日見た紙のうち、あるひを生き返らせるのに最も近い文章があった。
『この国の最古の秘宝――【生命の歯車】と【アンティーク・オイル】があれば死者は再び動きだす。ただ、黄泉がえりではない』
【アンティーク・オイル】については、もともと【マジックバッグ】に入っていたので問題はない。重要なのは【生命の歯車】のほうだ。
そして、俺たちはどこまで広がっているかわからないこの異世界の中の1つの国にいることを知った。家に置いてあった手紙に『この国の』と書いてあったのだ。俺たち自身が国に存在しているという解釈で問題ないだろう。
――【生命の歯車】……。【】でくくわれているので、錬成アイテムでほぼ間違いない。俺は、万象の女神フレイヤは錬金術士ではないかと思えて仕方ない。フレイヤは俺をはじめての錬金術士と呼ぶが、それは人間に限った話ではないだろうか。そう考えると、【生命の歯車】はフレイヤが錬成したとも思えてくる。用意された【マジックバッグ】の中に、【アンティーク・オイル】が入っていたように。
◇
俺たちは今、4つの村の中心にある街に向かっている。その名は、アザレア。
道中の道をレンガで整備しながら進もうと決めたため、俺の土属性のレベルも、亮の大工のレベルもずいぶん上がった。
――しかし、不思議なことにモンスターには一度も出会っていない。俺たちがこちら側にくる時に塞いだ魔穴も少しは貢献してるのだろうか。
……と思った矢先。
――ピコン!
『探索魔法により感知。危険度パープル、ピンク。敵、1体と3体。1分後、3分後に遭遇します』
「亮、モンスターだ。2種類いるらしい。多分1体はピギーウルフ。もう3体は、初めて出会う敵だ。ピギーウルフの2分後に遭遇する」
「ピギーウルフ、2分で倒せば問題ないな」
「ポチもがんばる」
「くまは、ひっかく」
「2人は頑張らなくていいから」
なんと亮の固有スキルはテイマー見習いからテイマーへと昇格し、ポチとくまの言葉がわかるまでに成長していた。とても喜ばしく、感慨深い。
――っと、闘いに集中しねぇと。
――来た!
「グルルルルルルルル!」
ものすごい勢いで、森の中から駆けて来る。最早、亮の喉笛しか見えていないかの如く。
「うおおおおおおおお!」
亮も、盾を構えて敵対心で応戦する。ポチとくまも、その両脇へ。俺だって、負けていられない。
「――しがらみの楔!」
俺はピギーウルフ目掛けて、土属性の拘束魔法を放った。森の木々の表皮を内から突き破り、緑色の蔦がピギーウルフを網のように絡めとる。
その瞬間を、亮は見逃さなかった。
「雷鳴剣!」
「グギャアアアアアアアア!」
俺たちは、
《ドロップアイテム》
・ピギーウルフの肉
・ピギーウルフの毛
を手に入れた。
「さすがだな、亮」
「いや、創太のサポートあってこそだよ」
「亮、次が来る!」
「了解!」
俺たちは再び臨戦体制をとる。
――森の茂みから現れたのは、何かの小瓶を持ってふわりよたりと飛んでいる、蜂のようなモンスターだった。
「鑑定!」
『●ほろよいハニー
機嫌が悪いと見境なく襲ってくる蜂。
ハチミツの入った小瓶を持ってふらりふらりと飛んでいる様から、ほろよいハニーと名付けられた。出現エリアはアザレアの森』
「亮、ほろよいハニーっていうらしい。そしてそこの森は、アザレアの森だ!」
「なるほど、酔ってるみたいだもんな。――でも、ピギーウルフより全然遅いぜ!」
亮は、迫り来るほろよいハニーのお尻から突き出た針をヒラリと避け、4枚の羽根の中央、オレンジと黒の2色の背に雷鳴剣を浴びせた。
「キイエエエエエエ!」
背に受けた稲妻のような痛みに、奇声を上げるほろよいハニー。その声を聞いて残りの数体は逃げ出そうと試みるも、既にしがらみの楔による蔦の檻の中だった。
「雷鳴剣!」
亮は瞬時に残りの2体も狩ってゆく。本当に頼りになる、俺の相棒だ。
俺たちは、
《ドロップアイテム》
・ほろよいハニーの針
・ほろよいハニーの小瓶
を手に入れた。
俺はドロップアイテムを拾いながら言う。
「この小瓶に入ってるの、ハチミツだ」
甘い香りがあたりに充満する。【マジックバッグ】の中にハチミツは入っているが、こんなに大量に取り出したことはないから、いい匂いでくらっと酔いそうな気分だ。
――と、思ったら……。
紅い眼光が、鋭く光る。
「――――!」
敵かと思ったら、くまだった。
「くま、それ、ほしい。くま、ハチミツ、たべたい。ほしい、ほしい、ほしい」
いつの間にか親熊のように二足歩行で歩くようになったくまが、ゆらりゆらりと近づいて来る様はホラーのようだ。
「3つあるし、1つあげるよ、くま」
「ありがとう、そうた」
それからというもの、くまのトレードマークになったほろよいハニーの小瓶。くまはずっと、片手に抱えて持ち歩くそうだ。
「ごめんな、ポチもほしいだろうに」
「ポチは、ピギーウルフがあるから、いいの」
そうか、と言って亮はポチの頭をワシャッと撫でた。
「それで、どうする? 亮。久しぶりに遭遇したっていうことは、このアザレアの森には、魔穴があるかもしれない」
「もちろん行こう。大工は一旦休業だな」
俺たちは、いずれ脅威になり得る魔穴を探すため、アザレアの森へと入っていくことに決めた。




