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8-20 それは偶然か幸運か


 エルーシャ村で迎えた朝。

 俺たちは外に出てぐいーっと身体を伸ばす。


「おはよ、亮」

「おはよー、創太」


 家を出ると、また村人が土下座をして待っていた。


「あの……いい加減に土下座はやめませんか? お気持ちだけで結構ですので……。本当に。年下なんですし、創太と亮って呼んでもらえれば」

「使徒様がそう仰るのなら」


 と言いつつも、かしこまった姿勢は変わらない村長。それを助長してしまったのは、間違いなくこの()だ。

 昨日、【マジックバッグ】の中から家を出した瞬間、村人全員が固唾を呑み、腰を抜かした人もいた。たしかに、それは必然かもしれない。いつも一緒にいる亮だって、初めてバッグに家を収納した時は驚いたものだ。

 俺はまた驚かせてしまうかもしれないと思いつつ、バッグの中に家を収納する。


「創太、出し入れ素早くなったな。またレベル上がったんじゃないか?」

「そうかもしれない。前ほどはMP使わなくてよくなったわ」


 遅れたが、朝の挨拶をしなければ。


「おはようございます。みなさん。昨日はお疲れだったでしょう。眠れましたか?」

「はい、ソウタ様たちのおかげです」

「ソウタさん、リョウさんが直してくれたお家、とっても快適なの。寒くないし、虫もあんまり入ってこなくなったんだよ!」


 と言うのはリリーだ。やはりこれくらいの距離感の方がありがたい。


「これ! リリー! ソウタ様になんて言葉遣いするの」

「いいんですよ、お母さん。俺はリリーくらいのほうが気楽です」


 それを聞いたリリーはニコッと俺に微笑みかける。


 話のキリがついたところで、村長はスッと手を挙げた。


「それで、ソウタ様、一緒に畑を見ていただきたいんです!」

「畑の土、良くなりましたか?」

「それが……! 成ったんです。食物が!」

「エッ?」


 村長の言うとおりだった。

 畑の(うね)を彩るのは、たくさんの葉や実。俺たちが昨日最後にやったことといえば、畑を耕し、(うね)を作って、種を蒔いただけだ。もともとこの地にあった種や、俺たちが持ってきた種を。そして、畑の斜向かい同士にりんごの木とメシュメルの実の木を植えただけ。それがこんなにも成長が早いなんて。

 これは、偶然なのか、幸運か――。どちらにしてもありがたいことだが、今後のためにも秘訣が知りたい。

 

「畑の土に秘密があるのか?」


 俺は土を触ってみる。


「鑑定!」

【栄養のある土(最高品質) 特徴:この土に蒔いた種は、一晩にして実をつける】


 確かに、俺も畑を耕すのに参加して、しかも木のロッドで掻き回すようにしていたけれど……それがまさか錬成したことになっていたなんて。


「村長、余っている畝から土をとって家に撒きましょう。ちょうど、りんごとメシュメルの実を植えるあたりに。……でも、その前に。――水神の恵み!」


 俺は村全体の土を潤わせるべく、村に雨をもたらした。村人たちは、嬉々として身体を擦っている。身体中の汚れを落とすかのように。

 

 ――井戸が枯れていたんだ。身体も洗えなかっただろうな。


「さぁ、みなさん、余った畝から土を持って行って、家の外に種を植えてください。成長した姿を想像して、家とはちゃんと距離をとって」


「俺たちはどうする? 創太」

「今日はレンガを作ろうと思うんだ。それで亮に、道を作ってほしい。頼んだよ」

「また大掛かりなことをするんだな。でも、任せとけ!」


 俺は村から出て、渇いた土に手を当てる。


 ――イメージするんだ。たくさんの土レンガを。家と家をつなぐ、道になるように。村を囲う、礎となるように……。


「――土地神の工作!」


 ――ガラガラガラッ……!

 

 思い描いた以上に、たくさんの土レンガができた。それも几帳面すぎるA型の俺が気に入るほどに、同じ立方体の形をしたレンガが。


「相変わらず、規格外だわ。創太は」

「でも俺には大工のスキルはない。村人の指揮を頼んだよ。できれば、家と家を繋ぐ道と、この村をモンスターの脅威から守る外壁にしたいと思ってる」

「なるほどな。そしたら外壁のほうの()()も頼むよ。練ったコンクリみたいなさ。積み上げる時にあったほうがいいと思うから」

「了解!」


 ◇


 そうして何日か滞在するうちに、エルーシャ村は立派な村へと蘇った。


 立派な外壁は約2メートルほど。

 木の門扉は開閉可能で施錠もできる。

 一度門を潜れば、一軒あたり一本ずつあるりんごの木とメシュメルの実の木。

 立派な畑に、立派な土壌。乾ききった地面は適度に潤いを保ち、家から家へはレンガを敷き詰めオシャレな外観、通路へと早変わり。

 枯れきった井戸からは再び水が出るようになった。

 これで食糧難で困ることもなく、日本の大昔でもあった娘さんを売る、ということもしなくて済むようになるだろう。


「やったな亮」

「おう! 創太!」


 俺たちは予想以上の出来にハイタッチをした。ポチや小熊も、楽しそうに子どもたちと戯れている。

 噂が広まれば、次第に男手も帰ってくるだろう。


「で、これからどうする? 創太」

「もちろん! 近隣の村も制覇していこう。じゃないと、争いが起きるから」

「だよな、俺も同じこと考えてた」


「何から何まで、ありがとうございます、創太様、亮様」


 村の人々は口々にお礼を言った。

 けれど、これは偶然でも幸運でもない。

 ――錬金術士と大工と、村人の努力の結果だ。



 


 

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