8-15 魔穴(まけつ)
「俺にはやっぱり声が聞こえなかったんだけど、フレイヤは何だって?」
「ここが重要な場所となるから、鍛錬を積んで創世の錬金術士として、空間を創れって。その意味がわからないんだけど、鍛錬を積めば空間を弄れるようになるらしい」
亮は腕組みをしながら、あー、と言う。
「あれか? ゲームであるじゃん。RPGメーカーみたいなさ。自分だけの街を造ろう! みたいな」
「うん、そんな感じなのかもしれない」
「で、結局また説明不足でいなくなる、と。どうやって鍛錬積むんだか」
「今はとりあえず鍛錬を促されただけだから、先へ進もう。明かり、点けるな。――灯し陽!」
「おお、明るい」
「俺もフレイヤがくれたアイテム全てに目を通せていないし、何か書いてあるかもしれない。時間をみつけて見るようにするよ」
「わかった、そうしよう」
――俺には気がかりなことがある。異世界転移した時には、ただ声が聞こえただけだったのに、なぜ今回は身体に圧力をかけてまであの場で言ってきたんだ? そんなにこの洞窟が大事なのか?
――ピコン!
『新しいスキルを覚えました』
「重力魔法か……。正に身をもって学んだってヤツだな」
考え事をしている間に、分かれ道へ来た。
どちらも、同じく先は見えない。
右へ行くか、左へ行くか。
――これは……。
「どっちがいい? 創太」
「言いづらいこと言うけど、一つはモンスターハウスだな。湧き出るように新しいモンスターが生まれている気がする」
「それって、とりあえずそこの穴だか部屋だかを塞げ的なヤツだったのかな。さっき地面に創太をめり込ませたフレイヤの意図って」
「そうかもしれない。……口で言って欲しいけどな」
俺はため息混じりに言う。
ため息もつきたくなるさ。
錬金術士の覚書には分量は書いてないし。
今もこんなだし。
千尋の谷に突き落とされた気分がする。
「創太、行きたくないけど、モンスターハウスに行くか。潰しておかないと、どの道俺たちの住む森へやって来るんだろうから」
「そうだな。じゃあ、右へ。亮、わからなくならないように、地面に矢印書いておいてくれ」
「了解」
亮は進行方向に向かって、長剣で地面に矢印をガリガリと書いた。
「モンスターハウスか。危険度がパープルなんだ。もしかしたらまたピギーウルフかもしれない。どうする? ポチ、小熊」
ポチはさみしそうにキュウンと鳴く。
「おいていかないで、あるじ。ポチ、くままもるから」
「くまいいこにしてるから、つれてって、そうた」
「わかったよ」
俺は2匹の頭をくしゃくしゃっと撫でた。
◇
圧倒的な量のモンスター。
足が震えるほどの殺気。
さっきのピギーウルフ戦より苦戦するだろう。
タンク兼剣士1人と、錬金術士兼魔法使い。ペットが2匹。
――勝算は、ない。
これまでならば。
「創太、俺でも感じる。この殺気は、マジでやばい」
――そうだよな、俺だってそう思う。
だけど。……悔しいけど。
「俺、さっきのフレイヤの意図が読めた気がする。重力魔法を最大限にかけて、その間に狩れってことなのかもしれない」
「――なるほど、な……。フレイヤって口下手にも程があるだろ」
「間違いないな。よし、行こう!」
◇
俺たちは気づかれるかどうかギリギリのところまで来た。
今はまだ、気づかれていない。最大限に殺気を殺しているから。ただ、あちらの殺気は隠す気もなく首を締め付けられるかのようにジワリ、ねっとりと感じる。それに、肌を無数の針で突き刺すかのような感覚。
圧倒的な量と力の差。このままだとただ、嬲り殺されるだけだ。
俺は、作戦どおりに覚えたての重量魔法を展開する。
――さっきの感覚を思い出せ。肩にずしんとくる重力。自然と四肢をついてしまい、地にめり込む感覚。そう。それこそ身体だけでなく精神的にも圧力を感じる、そんなイメージ!
「いくぞ、亮」
「ああ」
「今回はポチたちも参戦だ。頼むぞ」
「がんばる、あるじ」
「くまも、ひっかく」
――イメージはバッチリだ。勝算は、我が手に。
「――闘神の重責!」
「グオオオオオオオオオオオ!」
「グギャオオオオオオオオオ!」
洞窟内に響き渡るピギーウルフの呻き声。
10や20じゃきかない。
何体いるのか、もはやわからない。
俺は広範囲かつ、逃すことなく、重力魔法をかけていく。
「ありったけのMPを込めてやるさ……! うおおおおおおお! みんな、やってくれ!」
「よし、行くぞ! ポチ、小熊! ――雷鳴剣!」
「ガルルルル」
「グルルルル」
1匹、また1匹と探索魔法から消えていく。
――正直キツイ。でも、力は抜けない。
力を抜いたら、みんなが死ぬ……!
「うおおおおおおおおおお!」
――俺の総てを、MPに懸ける!
◇
おびただしい量のピギーウルフ掃討戦は、幕を閉じた。成功できたのは、夜陰に乗じ、不意をつけたからであって俺たちが強いわけでもなんでもない。
――だけど、勝てた。
今回ばかりは、終わりよければ全て良し、ということでいいだろう。
ポチと小熊は、ピギーウルフの肉に大興奮している。気を張ってばかりいないで、はしゃげる環境だって、たまにはあっていいはずだ。
「ここみたいだな。今も常に、重力で押さえつけてるんだろ?」
「ああ」
俺たちはモンスターが湧き出る穴を見つけた。素人の俺でもわかる。洞窟の壁面に空いた、歪んだ穴。黒いキャンバスに、混沌とした紫と底が見えない漆黒と病んだ青を常にかき混ぜているような色が渦巻いている、殺気しか感じない穴。
「――魔穴……」
「……え?」
「そう呼ぶのが、ふさわしい気がする」




