8-13 抜け道の洞窟と新たな支援魔法
ーー少し前のこと。
俺たちは山陵の地層に一箇所だけ空いている空洞へ辿り着いた。
山陵の向こう側へ行きたければ、この得体の知れない空洞を踏破する必要がある。
地層に空いた大きな空洞。
白と薄茶と灰色の。
質感違う、いくつかの層。
これは岩や石、砂などで構成されているのだろうか。それらが幾重にも層状に重なって、固結した大きな地層となっている。
「なぁ、この穴あんまり奥が見えないよな」
「あぁ。松明なんてもってないし、運悪く洞窟内にガスが溜まっていたらそれこそ誘引爆発だしな。当たり障りない魔法、使ってみるか……」
――当たり障りない魔法なんて、もちろん使ったことはない。
俺は温かい陽だまりをイメージする。
辺りを明るく照らすような。
「灯し陽!」
木のロッドの先端が淡く光る。もう少しMPを込めれば、もっと明るく。けれど、明るくなったとて、この道がどこまで続いているのか、果たして一本道なのか。そこまではわからなかった。
「行くか」
「ポチがまもるわん」
「くまも、みんな、まもる」
「亮、2人が俺たちのこと守るって言ってくれてるぞ」
「可愛すぎんか? 大丈夫、俺が盾になるからさ。創太は探索魔法よろしく」
「了解!」
亮が盾を構えながら、右手には長剣を持ち、左右にポチと小熊を従えている。不謹慎だが、後ろから見るとポチと小熊の小さなしっぽが歩くたびにぷりぷりしていてとても可愛い。
今のところ探索魔法にも引っかからないし、モンスターもいないのか?
――それにしてはおかしい。
ならばどうして、俺たち以外の人間に遭わないんだろう。この洞窟には凶悪なモンスターがいる、若しくは命がいくつあっても足りないような罠がある、としか理由立てができない。だから、俺たちが住む森に誰も来られないのだと。
「なぁ、亮。おかしくないか? なんで俺たち以外の人間に遭わないんだろう。俺たちが住んでる森のほうにいないのはわかる。あの森はモンスターの巣窟だ。……それを知ってるからいないのか?」
その時だった。
――ピコン!
『探索魔法により感知。危険度パープル。敵、10体。1分後に遭遇します』
俺の不安は、悪い方へ的中した。
「亮、やばい。敵10体が1分後に遭遇する」
「はぁっ⁉︎ その速度って、ピギーウルフじゃん」
「多分……。……だから人がいないのか」
俺たちは臨戦体制をとった。
――まずい、俺たちには今、赤子のような小熊がいる。なんとか、しねぇと。
「くま、じゃまなの、わかる。はじっこで、じっとしてる」
小熊は、俺が思っている以上に聡かった。ほぅっと一息、安堵する。
「ポチ! 小熊を頼んだぞ」
「わかったわん」
「なぁ、創太。正直、10体なんて俺には倒せない。支援魔法かなんか、ないか?」
「――ない。けど、やってみる。要は魔法は」
「「イメージだ!」」
「……なんてな。創太をからかってる場合じゃねぇわ」
――俺にとっては、からかいなんかじゃない。魔法はイメージだ。せめてダメージを軽減できる魔法。……きっと、光属性。……やってみるか!
「聖女の慈愛‼︎」
透明でじんわりと暖かい保護膜が俺たちの身体を優しく包み込んだ。俺はこれを、支援魔法の1つ、保護魔法と位置付けることにした。俺のイメージどおりなら、これは、あらゆる攻撃を軽減してくれるはず!
地を駆ける複数の音が次第に近づき、モンスターが低く喉を鳴らすかのような、唸り声とも荒い息づかいともとれる狂気と共に、向こう側からモンスターがやってくる。
――これじゃあ、まだ足りない。やられてしまう……!
「ヴヴヴアヴ……!」
「ウウウウ……!」
ポチとピギーウルフの警戒する唸り声が響き合う。向こうから何体分ものピギーウルフの紅く鋭い眼光が見えてきた。
――このままじゃあまずい。
せめて、俺と亮に敵対心が向くようになれば……! 敵対心、筋力向上……いい部分、悪い部分。相反する、諸刃の剣……。
「亮、いくぞ! 剣聖の逆鱗!」
俺は亮と俺だけに更に支援魔法を付与した。俺たちの周りを炎が紅く揺らめいている。
俊敏さ、脚力、腕力が増す代わりにモンスターの敵対心を集める諸刃の剣。
「創太、これは、やっべぇやつだな。身体は軽い。身のこなしもよさそうだ。けど……」
「ああ……俺たちでなんとかしなくちゃ」
――感じる。自分たちにあのピギーウルフの敵対心が向いている。
俺は近接戦は得意ではないから、早いところ仕留めないと首を噛みちぎられて死ぬだろう。
「洞窟内だから、あんまり激しい魔法を使って崩落するのだけは気をつけてくれよな」
「……わかった!」
「グルルルルルルルルル!」
「グルルルルルルルルル!」
――ピギーウルフと、ついに遭遇した!
「ウィンドカッター!」
いくつもの風の刃が、ピギーウルフを襲う。
「ウギャオオオオオ!」
どうやら1匹は仕留められたようだ。
「創太!」
「あるじっ」
「そうたっ」
ウィンドカッターで逃したピギーウルフが、俺に迫り狂う。みんなが俺を心配する悲痛な叫びが、洞窟内にこだまする。
その刹那、亮は剣聖の逆鱗で増した脚力を活かして、タンクとして俺とピギーウルフの間に割って入った。
――ガキイィィィン!
正に、首に噛みつかんばかりのピギーウルフの牙と、万象の女神フレイヤからもらった亮の銀の盾が嫌な音を上げて競り合っている。
「――ふう。なんとか間に合った! 俺だって、やるときゃやるじゃん!」




