8-12 錬成アイテムと命名式
俺たちは、小熊を新たな仲間に加え、この地の抜け道を目指して旅を続けた。
その抜け道は、亮がポチと何日か帰ってこなかった日に見つけてくれたらしく、道中時間がかかる。
道すがら、睡眠蝶とも闘い、新たな錬金素材アイテムを手に入れた俺は、不老不死をいいことに寝る間を惜しんで錬成を続けている。
「あるじ、ねないのか?」
――?
気がつけば練金釜の影に隠れて、ポチがこちらを見ていた。
「ポチ、お前喋れるのか?」
「ポチは、ずっとしゃべってた。あるじ、わかってくれるようになっただけ。ポチ、かわってない」
「ポチ〜!」
俺は愛しさのあまりポチをむんぎゅうっと抱きしめる。
「あるじ、いたい」
「あぁ、ごめんごめん」
小熊を仲間に入れて、いつの間にかテイマーのレベルが25に上がったからだろうか。大好きなポチの言葉が聞けるなんて、夢にも思わなかった。
「あるじ、だいすき」
「俺もだよ、ポチ」
「いいよなぁ、創太は」
ため息混じりに呟いた亮。亮にはテイマーの固有スキルがないから、ポチや小熊の言葉がわからないのだ。
「あのさ、レベルアップしたついでに、新たな固有スキルを手に入れたこともあったんだ。このまま旅を続けていれば、亮もテイマーのスキルが手に入るんじゃないかと俺は思ってる」
「……だといいな……」
亮の落ち込みが気になったポチは、座り込む亮に鼻頭を擦り付けて身体を寄せた。――やっぱりそうだ。意思疎通ができているあたり、亮にはテイマーの素質がある。
亮はポチを撫でながら、俺にからかい混じりにヤジを飛ばす。
「それで? うちの錬金術士は、なにやら錬成に夢中だけど、できたのか? 爆発するパイは」
「ああ、もう少しでできそうなんだけど、先に爆弾を作ろうと思って」
次の瞬間、亮はポチを抱っこして遠くへ座り直した。小熊も亮の側にいる。
「そんなにこわいのか? 夢があるじゃないか、爆弾だなんて。いずれはパイに仕込んで、モンスターが食べた瞬間にドカン! したいよな」
「「「…………………………」」」
――――――――――一同、沈黙――――。
――あれ? 俺、おかしなこと言ったか?
「コホン! それで、今は何作ってたんだよ? 何かできたんだろ?」
「よくぞ聞いてくれましたッ! 見てくれよ、コレ!」
俺は、白くて柔らかい長方形の錬成アイテムをずずいっと亮に見せる。もちろん俺は、口布をして。
「えーと。口布をしてるってことは、致死系?」
「失礼な! 俺の作品=致死系とかやめてくれよなっ! 聞いてくれ! これは、【メリーさんの枕】だ(ドヤァ)」
「枕でどうやって敵倒すん?」
【メリーさんの枕 睡眠(小)】
モンスターにふかふかの枕を提供して眠りを誘うヤツだな。モンスターだって眠るだろ? 寝てる間にグサリッてやつだ。もちろん、叩けば起きるからな?あ、そうそう。採集作業は要注意な。溶けないようにしろよ。
・木綿の糸 ×1
・メリーさんの毛 ×5
・【睡眠薬】×1
「もちろんあれだ。これで眠らせて、寝てる間にグサリッてヤツだ」
「こわっ! 容赦なっ!」
「まあまあ。あと回復アイテムも作ったぞ! 本に綴ったから、見てみてくれよ」
『やさしい錬金術〜錬金術のいろは〜
【ひだまりの薬湯 HP・MP回復(小)】
飲むと身体がぽかぽかして、HP•MPを回復してくれるぞ。さらに香りのいい香草だったりお酒を入れてみるのもアリ。でも【魅惑の香辛料】は入れない方がいいな。飲めたもんじゃなかった。罰ゲームレベルだぞあれは。
・【しずく草の原液】 ×1
・すりおろししょうが ×1(ひと匙)
・はちみつ ×1
・白湯 ×1
【しずく草の原液】
しずく草は気を抜くとすぐ蒸発しちゃうからな。高圧力の魔力で蓋をして煮詰めるんだぞ。錬成は午前中か寒い部屋で行うこと。ってことは俺が苦手な分野。あったかい部屋でぬくぬくしながら作業したいよなぁ。誰だってそうだろ?
・しずく草 ×3
【火薬草の結晶】
火力を増したり着火材にしたり、万能な結晶だな。結晶化させるのにはMPをかなり持ってかれるし、魔力操作も必要だから錬金術の反復練習にもオススメ。
ただ、MPの込めすぎには注意すること。爆発して、三途の川を渡りかけることもあるかもな。余所見錬成、ダメ、ゼッタイ。(体験談)。
・火薬草 ×5
あ、そうそう。この本を手に取ってくれてるってことは、錬金術の基本を身に付けようとしてるところだろ?
錬金術の反復練習はとっても大切だ。魔力の上限値上げないと錬成できないアイテムもあるからな。
でもな。ひきこもって、釜と向き合って錬成ばっかりしてちゃダメだぞ。
錬金術士たるもの、目指すところは文武両道!
好きな採集場所、モンスターに気後れしないで行ってみたいだろ? 自分が錬成したアイテム使ってモンスターと渡り合うのってめちゃくちゃ楽しいぜ!
あと、モンスターがドロップするアイテムで錬成する楽しさったらないな。
見知らぬ君にも、是非共感してほしい。
願わくば、錬金術の知識が後世へ語り継がれることを祈って。
著者:スズツリー=ソウタ』
「あのさ……本はすごい。本当に、すごい。それに昨日爆発して気を失った理由もわかった」
「ははは、三途の川渡りかけたやつな」
亮は最後の一文を指差して言った。
「この、著者:スズツリー=ソウタって何?」
「あ、あー。気づいちまったか。さすが亮だな。俺、鈴木じゃん」
「うん」
「お前、加賀じゃん」
「うん」
「インパクト欲しいじゃん」
「うん?」
「俺なりに、捻ってみたんだよ〜、俺なりに! カッコいいじゃん、横文字の方が! 異世界っぽいじゃん」
「んー。捻ってるっつーか、そのままっつーか、安直っつーか。その基準でいくとじゃあ俺はなんになるわけ?」
「決まってる。カガリョーだよ」
「……そのまんまじゃん」
「加賀ってずるいよな。元からセンスあるじゃん」
「お前、全国の鈴木さんに謝れ」
1対3。
俺対カガリョー、ポチ、小熊の図。
距離感からしても。
心の距離からしても。
溝が生まれた気がするのは、俺だけ、だよな?




