8-8 モンスターは一体誰だ
「ヒール」
「おお、ありがとう。治ってく。すげーな」
俺は亮が魅惑草に弄ばれた切り傷を治してやった。魅惑草の鋭い針葉でパタンペタンと足回りを触られたら、切り傷ができて当然だ。
俺はなんとなく唱えてみたものの、ヒール、なんて初めて使う。俺がわかっていることは、魔法はイメージっていうこと。治すイメージさえできていれば魔法はそのように発動するものだ。
本当は人体の構造とかわかっていたほうが、治しやすいんだろうけど。
――ピコン!
――ピコン!
『――レベルが上がりました。
――レベルが上がりました』
「ヒールは、光属性か」
どうやらレベルが上がったようだ。ヒールが光属性なのはイメージしやすいが、逆に闇属性ってどんな魔法なんだろう。
亮は足をさすりながら、なんとなくブスッとした顔で俺を見てきた。
「な、なんだよ。そんなブスッとして」
「……なぁ、なんで創太は攻撃されないんだ?」
「多分、魅惑草には意思がある。生きてはいないけれど、特別なナニカで、【マジックバッグ】にも収納できるらしい。俺、さっき自己紹介したからかなぁ」
「俺には草に自己紹介っていう発想はねぇなぁ……」
俺はもう一度、魅惑草に語りかけてみる。
「さっきも話したけど、俺は大好きな幼馴染の女の子を生き返らせたいんだ。そのために、必要なアイテムを探してる。どうか、力になってくれないだろうか」
魅惑草は針葉をパタンと折って、お辞儀のような姿勢をとった。かと思えば、土に針葉を張り、自らズポリと土を抜け出した。
そして俺の手に、優しく針葉を添えてくれる。まるで慈しみを持って、手を重ねるように。
「ありがとう。ついてきてくれる……のか?」
魅惑草のいくつかは、自ら【マジックバッグ】の中に入って行った。
――ピコン!
――ピコン!
『――レベルが上がりました。
――レベルが上がりました』
魅惑草はモンスターではないが、テイマーのレベルが上がった。
「創太、お前すごいな」
「いや、俺はただ、本当にあるひを生き返らせたいだけなんだよ……」
「……そうだよな」
それは亮も同じ気持ち。
俺たちは、恋愛対象として、あるひが好きだから――。
――ピコン!
『探索魔法により感知。危険度イエローからグリーンへ。敵、数体。現在遭遇しています』
「はぁっ⁉︎」
「なんだ、どうしたんだ?」
「亮、おれは今まで勘違いしていたのかもしれない」
「……というと?」
「てっきり魅惑草がモンスターだと思っていたんだ」
「俺も……そうだけど……。実際攻撃されたしな」
「でも違った。今俺たちは、数体のモンスターに囲まれているらしい。危険度はグリーンだ」
「はぁっ⁉︎ 魅惑草しか、いねぇけと……」
――ザワザワザワザワ……
魅惑草は、一斉に地面から抜け出し、俺の【マジックバッグ】へと入っていく。それも、すごい数が。あっという間に森の窪地には、中央にある一本の大きい木だけになった。
「うおっ! なんだっ⁉︎」
「なんか逃げるみたいにバッグに入っていったな。ということは……。――!」
「キャワンッ」
「あれ……は……。――なぁ、創太……俺、気づいちまったんだけど、アレじゃないか?」
亮は渋い顔で窪地の中央の大きな木を指差した。よく見ると、ところどころ、大きな模様のような実が木に張り付いている。さらによく見ると、どうやら実ではなさそうだ。ぐにゃりぐにゃりと、木に張り付くナニカが動いている。
今まさに、活動し始めようとしているかのように。
「あれは、木の模様じゃなくて、まさか、モンスター⁉︎」
「鑑定!」
――ピコン!
『 ●睡眠蝶の幼虫
黄緑色の幼虫。蛹になって羽化すると蝶になる。針のような鋭い体毛には猛毒があるため、近づかない方が無難。しかし、口からは錬成に多用する木綿の糸を吐き出すことがある』
「亮の言うとおりだ。あれがモンスター、睡眠蝶の幼虫だ! 体毛には毒があるらしいから、気をつけてくれ! クソッ、MPさえあれば……!」
「体毛に毒ってことは、噛んで攻撃するポチも戦線離脱だな」
「ああ。悪いけど、亮に全てが懸かってる。俺も木のロッドでなんとかするしかない」
亮はギュッと長剣の柄を握る。
「危険度グリーンってことは、パープルのピギーウルフよりは弱いんだろ? ははっ」
「亮?」
亮は前傾姿勢になり、睡眠蝶の幼虫に照準を合わせる。
「そろそろ、試してみようと思ってたんだ。ちょうどいい。創太もできれば離れていてくれ」
「あ、あぁ。でも、大丈夫か?」
亮は盾を構えながら走り始めた。
「それは見てのお楽しみってことで! うおおおおおお!」
亮は戦闘スキル、固有スキルの敵対心と怒りを発動させた。もともと敵対心だけでも周りが赤く光るが、怒りを発動させた亮は、髪の毛や目の色まで赤くなっている。
効くのはモンスターだけではないらしい。俺やポチですら、自然と亮に目が向いてしまう。
「創太とポチにばっかり、いいところもってかれたくないんでな!」
と言うと、亮の長剣は青みと黄みを帯びて光り始めた。バチバチと、稲妻が剣の周りを迸る。
「やってやるよ! 俺だってできるってところ、あるひに見せてやる!」




