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カルディス王国の王都を出て、隣国スタニア王国を目指して始まったばかりの
ヒナタとジェフェルの二人旅。
ミカエルから見れば問題だらけの前途多難にも思えるが
国のこれからを一番に考えて、王都でもう少しカルディス王国や
他の国の動向を探る事を優先した。
まあ二人の事は放っておいても大丈夫だろう。
成るようにしか成らない。
その頃、街の警備隊詰め所で起こったいざこざは王城の騎士団をも巻き込む騒ぎとなっていた。
正体不明の者が落としていった未知の物体である。
物体自体は取りあえずは危険が無いであろうが、
落としていった者の目的もどこに潜んでいるかも、何人?いるかも分らない。
国の危機かもしれないという事で王国騎士団まで連絡がきたのである。
騎士団長はすぐさま国王に緊急の謁見を申し込み、緊急事態という事もあり
時を置かずしてお目通りが叶った。
謁見の間には、他の問題を抱えて国王に報告を終えたばかりの
魔術師団長と神殿長が同席していた。
騎士団長が街での出来事の報告を終え、おもむろに取り出した物を見て
神殿長と魔術師団長が固まった。
「そ、それが街中に落ちていたのか?!」
「目に見えない何かが落としていった、というのは確かな事なのか?!」
「警備隊からはそう報告が上がってきております。」
『・・・』
「どうした?何か心当たりでもあるのか?」
「はい、国王様・・・
この品は件の異世界から召喚した者が持っていた物に間違いございません。」
「なに?先ほどの報告では異世界人の所持していた物は神殿長自らが預かっている
と申しておったではないか」
「はい。確かに執務室の机の引き出しに保管しておりました・・・が、異世界人が
行方知れずになった後、確認いたしましたところ紛失しておりまして・・・」
「何故それを言わぬ。異世界人が縦横無尽に神殿の中をうろついておったに違いない。
おそらくは隠蔽魔法が使えるのであろう・・・」
「しかし国王様、隠蔽魔法が使えたとしてそう長くは姿を隠しておくことは出来ますまい。
魔術師団の隠蔽に長けた者でも
姿を隠したまま建物内を端から端まで移動する事は無理です。
神殿の中でうろついている間に姿が見えてしまう危険性があります。」
「やはり神殿か城内のどこかに潜んでいると考えた方がよいのではないですか?」
「しかし神殿長、街中に落ちていたその物体と姿の見えぬ何かの事は
どう説明がつくのじゃ」
「街中でこれを落としたものと異世界人は別の者という事は考えられませんか?
何処かの間者が忍び込んで召喚の行われた証拠に盗み出したとか・・・」
「そうであるとすれば、それはまたそれで大事ではあるな。
街中に現れたモノが何者であるにせよ異世界人の行方が分からない事に変わりない。
詳細は伏せて尋ね人として王都周辺に手配書を張り出すのはどうじゃ?」
「流石国王様。それは良い考えです。
手間をかけ召喚したのに逃げられてしまっては
元も子もない上に他国の手に落ちたとなれば一大事です。」
「では、取り急ぎ黒髪に黒い瞳で年の頃は10代半ばという事で手配書を頼む。
しかし名前も聞かぬうちに逃げ出されるとは・・・。
街中の賊は…見つけようもないが
念の為、門兵には怪しい者がいなかったか確認しておくように。
取りあえずは今後の成り行きを見て何かあればその都度報告を上げよ。
各国の使徒が集まっておるから出来るだけ内密に行動するように」
まあ、本人の意思に関係なく召喚されたのだから
王城内の騒ぎはヒナタの預り知らない事である。
「ねえジェフさん、歩きだけで行くとスタニア王国迄どのくらいかかるの?」
「私も歩きだけというのは良く分からないが、ひと月近くはかかるのではないか?
馬車では2週間といったところだな。
馬だともっと早いが慣れない物は体が辛い。
辛さの程度は違うが慣れない者にとっては、歩きも馬車も同じだ。」
「僕、歩き旅なんて初めてだから、楽しみのワクワクと
不安のドキドキで不思議な気分」
「ヒナタの世界では移動は馬車とか馬しか使わないのか?」
「寧ろ馬車とか馬を使う方が珍しいというか特別な時だけだよ。
普通は自動車という燃料で動く車とか、
大勢を一度に運べる電車っていう乗り物とか。
個人での短い距離の移動は自転車って言って
自分の足の力で車輪を回す乗り物だよ」
「・・・想像するのが難しいな」
「その気持ち、わかる!
後、長距離移動は空を飛ぶ乗り物が速いんだけど
これは説明しても、もっと想像が難しいと思うよ」
「そのうちどこかに落ち着いたらまた詳しく教えて貰う事にするよ。
取りあえず歩き疲れたら教えてくれ。最初は休み休み進む事にしよう」
「はい。景色も楽しめるので嬉しいです。」
和気藹々と異世界での二人旅が始まった。
新年の挨拶にはぎりぎり遅れてしまいましたが
これからもよろしくお願いします。




