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スエット姿の召喚者  作者: こんぺき
5/7


昨夜も今朝起きてからも、バタバタしていたので

多少落ち着いたところで改めて室内を観察してみる。


扉を入るとすぐ、奥に長いリビングになっていて、

応接セットのほかに給仕用の小さなテーブルとワゴンが備えられている。

右手手前の開け放たれた小部屋には執務机が置かれ、壁に書棚が設えてある。

その隣に扉のある寝室が並んでいる。

反対側の壁には飾り棚等が取り付けられていて

入り口近くには上着を掛けておくスペースもある。


一人で滞在する来賓用向けのシンプルな造りだ。

家具は見た目はほとんど木製の様だ。

洗面台以外の水回りは共同用を使うらしく部屋の中には見当たらない。


窓はリビングの奥の一つだけ。

外に植え込みの木の枝が見えているが建物は見当たらない。

ここは二階だから人が覗き込む心配は無いだろう。


洗面台の前の壁に取り付けられた鏡をのぞく。

ここへ来て思ったが、少なくとも今まで私が出会った人たちは

髪の色も眼の色も様々だ。

自分の姿を写し見ながら頭の中にイメージを浮かべてみる。

髪色が思った通りの色に変化する。瞳の色も変えてみる。

「わ~、ファンタジー!!」


暫く色々試していると扉がノックされた。

慌てて元の黒髪、黒い瞳に戻して気配を消す。

だいぶ魔法の使い方も慣れてきた・・・今までに使った魔法だけだけど。


ゆっくりと扉が開き見知った人物と、同年代に見える青年が入ってきた。

扉を閉めて青年がジェフさんに話しかける


「で、肝心の異世界からの召喚者様はどこにいるんだ?」

「ヒナタ、さっき話した信用できるやつだ。安心して出てきてくれ。」

念のため執務室にいた様に装ってリビングに入る。


「これはまた、思っていたより幼くて・・・いや、若い子だな。

私はこの国に滞在している大使の補佐官をしているミカエルという。

ジェフェルとは王立第一学園で一緒に学んでからの腐れ縁だ。」


ジェフさんより少しだけ背が低く、ちょっとがっしりとしている。

濃い茶色の瞳に肩下まで伸びた栗色のくせ毛のイケメンだ。


「初めまして。ヒナタといいます。」


「君の事は道中で聞いたが、全く知らない所にたった一人で召喚されて

心細かっただろう?

こいつも良い奴だし、俺の事も頼ってくれていいから

安心してくれ。」


「ありがとうございます。お二人とも優しそうで親切で。

お兄さん!ていう感じで頼らせてもらいます。」

「ああ。そうしてくれ。」


ジェフさんが仕事をしている間にソファーで寛ぎながら

ミカエルさんにこの世界の事を色々と教えてもらう事にした。


「共同炊事場でお茶でも入れて来るよ。話をしていると喉が渇く。」

「あっ、一緒に行きます・・・

この世界の生活については早く覚えたいので。」

「いやいや、見つかったら不味いだろ。」


「隠蔽魔法の練習も兼ねて見つからない様にします。

万が一見つかった時は他人の振りして下さい。

知らないって押し通せば何とかなりますよ。」

「隠蔽魔法が使えるのか!

それにしても君は・・・その、何というか大胆?だな。」

「自覚あります。へへっ」


迎賓館の特使たちは時には自分で好みの飲み物などを用意する様だ。

郷に入っては郷に従えとは言うが、慣れない習慣の中で慣れない物を

滞在中ずっと、飲んだり食べたりする事は人によっては大変らしい。

ある程度自由に過ごして貰うのも、おもてなしなのかもしれない。


ミカエルさんの後ろを黙ってついて行く。

炊事場に着くと時間の所為もあるのか誰もいない。

見回すと金属と思われる鍋やフライパン、ポット

多分木製のお玉や木べら、カップや皿などの器。

弦で編んだ笊。

陶器製の食器も壁際の棚に有る。


調理台や水が常に流れ出ている流し台。

レンガを摘んだ竈の様なもの。

映画などで見る昭和初期?頃の日本の台所風景に似ている。


竈の中には火種があり、その横にはマキが積んである。

反対側には調理台の様なものの上に魔法陣?が書かれた鍋敷きの様なタイル?

が三枚置かれている。


ミカエルさんがポットに水を入れタイルの上に置き、

台の手前に取り付けられた赤くて丸い形の3個並んだ

石の一つに手をかざす。

口をもにょもにょと動かし手を離すと、白かったタイルが赤く輝いた。

「わぁ~、これって魔道具ですか?」

近くに他に人の気配が無いのを確認してから

小さな声で質問する。


「魔道具なんてよく知ってるな。君が思った通り魔力を熱に変える魔道具だよ。」

「魔道具が有るなら、あっちの竈は必要ないんじゃないですか?」

「魔力が無い者や魔法が使えない者もいるから魔道具だけでは不都合なんだよ。

その事については話が長くなるから部屋に戻ってからだな。」

「わかりました。」


他に誰もいないので、隠蔽魔法を解いて湯が沸く間に

棚から出したカップをトレーに乗せて用意する。

ミカエルさんの戸惑うような視線を感じる。

カップじゃないのかな?と思ったが何も言われないから

そのまま調理台まで持っていった。


程なくしてポットの口から湯気が上がった。

ミカエルさんが再び石に手をかざす。

するとタイルは元の白い色に戻った。


私はまた隠蔽魔法を発動させ、ミカエルさんがトレーにポットを乗せて

炊事場を後にした。

部屋に戻るとミカエルさんが自国の茶葉を出してきてポットに直接入れて蒸らす。

茶こしを通してカップに注ぐとジャスミン茶に近い香りが漂った。


いれたてのお茶を両手を添えて頂く。

正面に座ったミカエルさんがちょっと怪訝な顔をする。

「何か作法、間違えましたか?」

「いや、そうではないが・・・それよりさっき魔道具の事を知っていたが、

君の世界に魔法は無いのではなかったか?」

「実際の魔法は有りませんが、想像上のモノとして存在してます。

物語に出てきたり、お芝居になったり、最近では色々な人が

小説に書いたりしています。」

「そうか。だから君は使った事の無い魔法をすぐに使いこなす事が

可能なのか・・・」

「使いこなせているかどうか・・・

でも何も知らないよりイメージはしやすいです。」


「先ほど話題になったが、この世界の者すべてが魔力を持っているわけではない。

魔力があっても何らかの原因で魔法が使えない者も存在する。

竈の様な生活道具はそういった者の為にも必要不可欠な物なんだ。」


「魔法が使えない人はどの位いるんですか。」

「魔力は遺伝によるものが大きく、魔法を使う事は才能に依るところが大きい。

魔力を持つものは人の70パーセント、

そのうち何かしらの魔法が使えるものは80パーセント。

つまり約半分の人間しか魔法を使う事は出来ない。

しかもその中にはほとんど魔法が使えない者も含まれている。

そう言った人々の為に魔法を必要としない生活道具が発展したと言ってもいい。」


「そうなんですね。私のいた世界では魔法が使えないのが当たり前でしたから、

魔法以外の力で生活道具を動かす研究が盛んでした。」

「魔法以外の力・・・想像できないな。」


何だかんだこの世界の事を聞いていたら昼食時になった。

ミカエルさんは一旦大使館に戻って行った。

迎賓館の厨房から一人分にしては多めの昼食が運ばれてきた。


「大使館から一人連れて来るからと言って余分に頼んでおいた。

味付けが気に入った様だったから沢山食べてくれ。」

「遠慮なくいただきます。そういえばフェルさんの国の料理は

どんなものなんですか?」


「王国はここと違って海に面しているから、食材が豊富だな。

魚介類、海藻、塩も豊富だ。だから調理法もこの国より多いと言えるだろう。」


「それは楽しみです。私のいた国もぐるっと海に囲まれた島国でしたから

魚や貝、海藻なんかも豊富にありました。

魚や海藻を使った調味料もあって食べる事には拘る人が多かったですよ。」

「調味料か・・・私は詳しくはないが、塩以外に海の物を使った調味料は聞いたことはないな。

それにしても周りをぐるっと海に囲まれた・・・

大陸一つが大きな国なのか?」


「いいえ、小さな島国です。4つの主だった島と小さな島は無人島も数えると・・・沢山あります。」

「何だか想像がつかないな・・・。」


そんな会話をしながらこの世界二度目の食事を終えた。



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