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スエット姿の召喚者  作者: こんぺき
4/7


朝、飛び起きる。

私が消えたって気付いたら建物内が大騒ぎになる!?


いや、逃げ出したならいつまでも同じ敷地内に留まるわけがないと思うか。

いやいや、態々召喚した者に監視もつけず放っておく連中だ。

間が抜けていてそんな事考えつかないか?


ベッドの上で唸っているとジェフさんが目を覚ました様で寝室から出てきた。

「良く寝られたか?」


「おはようございます。ぐっすり寝ましたよ。起きてすぐに思ったんですけど

私とベッドが部屋から消えている事が分ったらたら大騒ぎになりますよね?」

「いや、公には騒げないだろうな。

召喚魔法は表向きには国家間で禁止されている。」


「そうなんですか?」

国家間で禁止されているのに他国に知れたら不味いんじゃないの・・・

って、もうバレてるけど。


「ああ。古い書物によって異世界人は特異な力を持つと伝えられている。

事の真偽は分からないが、本当だとすれば国同士の力関係の

バランスが崩れかねない。

偶々使節団として滞在している時で情報を得られたが、

本来は極秘事項にすべき事案だ。

今は他の国の大使も迎賓館に集まっている。

騒ぎにするわけにはいかないだろう。」


極秘事項なのに各国大使が集まっている時に

それも外部に漏らすって危機管理無さすぎる・・・


「それで、どうやって君を此処から連れ出そうか。

その衣装も目立つな。素材が変わっているようだ。」


私が着ているのはフード付きのグレーのスエット上下。

「この世界にニットは無いんですか?」

「ニット?初めて聞くな。」

「糸を編んで布状にしたものです。糸を織った生地と違って

伸縮性があるので動くのに楽ですよ。」

「糸を編む・・・よく解らんな。とりあえず少し丈は長いが

私のローブを上から羽織るか?」


思案してくれている間にベッドを収納してソファーを戻して腰掛ける。


やはりベッドごと消えていたら騒ぎになるのかな。

面白そうで現場を見ていたい気もする。


「ジェフさん、今私見えてますか?」

気配を消して声を掛ける。

「いや、急に姿が見えなくなったが声は聞こえる・・・」

「本当に見えてません?気配は感じますか?」

「いや、声だけが聞こえて変な感じだ・・・」

姿を現す意識をして話しかける。


「ちょっと様子を見てきます。」

「だいじょうぶか?」

「多分。ベッドを持ってきちゃったので、返してくる序に様子を見てきます。」


「そうか。その間に私は何か食べるものを調達してこよう。

くれぐれも迷子になって他の部屋へ飛び込まない様に

気をつけて行動してくれ。」


「大丈夫ですよ。万が一見つかっても何とか言い訳しますから。」

そう言って再び気配を消して部屋を出た。


渡り廊下を通って神殿に入る。

廊下を歩いている者はいない様だ。一階奥の大広間に人の気配が集まっている。

探査魔法?で人の気配を探りながら階段を下りて

昨日寝かされていた部屋の扉をそっと開く。


誰だ?こんな所にでっかい壺を・・・と一瞬思ったが、犯人を知っている。

面白そうなのでそのままにしておく。

ベッドを元に戻して念のためカーテンの陰で身を潜める。


朝の祈りが終わったのか集まっていた気配が散り始めた。

少しして二つの気配が部屋の前で止まった。


カーテンの陰から覗き見る。

ノックも無しにいきなりドアが勢いよく開いた。

「起きているか、異世界人・・・」

二人の人物、(おそらく神殿長と昨日の女の人だ)が

壺を睨んで扉の向こうで固まった。

名前が分からないからって異世界人て言っちゃって良いの?


「扉が開かない様に置いたのか?!」


いや、外に出る時点で外開きの扉って解るし。

自分達だって扉開け放っちゃってるじゃん。

立て籠もる気もないのに態々重い物移動させるなんて

無駄な労力を使わないでしょ。


やっぱりどこか抜けている。


「用を足しにでも行ったのか?」

「それ以外は無いでしょう。そのうち戻ってくるでしょう。」


えー、逃走するって考えは無いの?

どうして他の可能性を考えられないか聞きたい気分。

声が出そうなのをぐっと堪えて見守る。


「では戻ったら知らせるように。私は先に朝食を済ませておく。」

「私もご一緒して食事を済ませたいです。」


私、召喚されてから今まで何も食べさせて貰ってないんですけど!!!

この国の人って自分本位?!それともこの二人だけ特別?

神殿関係者だけ大らかな性格?

ご飯も貰えず何のために召喚された?


突っ込みどころは満載だがこれ以上様子を見ているのも

馬鹿らしくなってきたので二人の間をすり抜けて廊下に出た。


すると向こうから、昨日召喚の場にいた人物がこちらへと歩いてきた。

念のため物陰に隠れて様子を見る。


「神殿長、異世界の者はどうしておる?」

「ルドルフ魔術師団長様、おはようございます。

あ奴は今、用を足しに行っているようです。」

「『ようです』とはどういう事だ。監視の者が一緒なのであろう?」

「いえ、監視はつけておりませんが・・・」

「なに?一人で行動させているのか?!」


「はい。私が昨晩目を覚ますのを確認してから退出いたしました。

それからは見張ってはおりません。」

女性がさも当たり前のように答えた。


「何故見張っておかなかった!逃げ出すとは考えなかったのか!!」


「異世界から来て右も左も分からないのに逃げ出したりはしないでしょう。」

右も左も分からないから迷子になっているとは考えないの?


「そうです。一人では食べ物も手に入れられないでしょう。」

捕まっていても食べ物貰えななかったけどね。


「もういい!本当に用を足しに行っているのか確認して来い。

いや、私が確認してすぐ国王に報告せねば・・・」


まともな人もいるんだ。魔術師団長は慌てて走り去った。

それを陰ながら見送った私はジェフさんの部屋に戻った。


「ただいま戻りました。」

静かにノックして部屋に入るといい匂いが漂っている。

ソファー前のテーブルに食べ物が並んでいる。


「口に合うものがあれば良いが・・・持ち運びしやすい物を貰って来た。」

「ありがとうございます。いい匂いです。

初めての異世界料理なのでちょと不思議。」


紙にくるんで持ってきてくれたのだろう。

広げた紙の上にパン?に野菜やソーセージを挟んだものが乗っている。

丸めた何かを焼いたもの、茹でた芋の様なもの、くだもの?なども有る。


此処に来て初めてのまともな食事・・・

ソファーに座って「いただきます。」と呟く。

向かい側に腰掛けたジェフさんも一緒に食べる。


「執務が溜まっているから今日から食事は部屋で摂る、と言ってもらってきた。

昼食からは皿に乗ったものが届けられるはずだ。

それより神殿の様子はどうだった?」


「これ美味しいです。良かったぁ、味付けとか全然口に合わなかったら

飢え死にするしかないと思っちゃいました。

神殿の様子は・・・神殿関係者と魔術師団では

召喚に関する認識のズレがあるようでした。

神殿関係者は呑気に構えていましたが、魔術師団は私がいないと知って、

国王に報告すると慌てていました。」


「しかし傍で見ていても気配さえ気づかれなかったのだろう?」

「はい。魔術師団長も全く気付かなかったようです。」

「ならば此処からの脱出も容易ではないか。」

「はい。たぶん気配隠蔽で行けると思います。」

「あっさり解決したな。」

「まだ未知な事が多くて油断はできないですが。」


そうなのだ。自分ではうまく魔法が使えているようでも

相手からはどう見られているのかは分からない。

早い段階で見方が出来た事は幸運だったと思う。

たった一人、知らない世界で悩み事ばかり抱えるなんて

孤独すぎてそれだけで死にそうだ。


「そういえば気分が落ち着いてきて気づいたんですけど

履物を調達して貰えませんか。

建物内は静かに歩けて良いんですけど、

外に出た時、靴下だけだと痛そうで歩きづらそうです。」

「靴下?・・・それは気付かなかった。何とかしよう。」


「後は私がいなくなっての騒ぎがどの程度になるかでしょうか。」

どんな必要があって召喚されたかは分からないが

しつこく追い回されるのは敵わない。


「そちらは様子見するしかないな。」

「そうですね。気を揉んでも仕方ないので

明日まではここでゆっくりさせて貰います。」

ベッドは返してしまったのでソファーで寛ぐことにする。


「それなら、私に同行して来た中で一番信用のおける者を連れてこよう。

私は明日までに色々とやっておかなければならない事が有るからな。

この世界の事を何も知らないまま外に出て旅をするのは危険でしかない。

分からない事や常識というものを学んでくれ。」


「ありがとうございます。聞きたい事や知っておきたい事ばかりなので助かります。」

「ああ、積極的にこの世界の事を知ろうという意欲があっていい傾向だ。暫く待っていてくれ。」


ジェフさんが信用している人なら安心だ。

一人ではする事も無いので、改めて部屋の中を観察する事にした。



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