38 隣に居たいという想い
屋敷に帰ってからジェフさんは忙しそうにしている。
薬草採取は往復三日だったとはいえ隣国訪問からこれまでに色々とあったので
帰国してからの仕事が相当溜まっているのかもしれない。
余り会話をする事もなく慌ただしく一週間が過ぎていった。
そして今日、ミカエルさんから薬草採取同行の為にジェフさんが
何か条件を出されていた歓迎式典の日を迎えた。
ジェフさんは朝早くから準備が有るからと出仕した。
新米側仕えの私に手伝えることが有るはずもなく屋敷で留守番・・・
のはずがジェシカさんが私を尋ねてやって来た。
幾つかの荷物が運び込まれて私は初めてここへ来た時の様に
メイドさん二人に磨き上げられている。
ジェシカさんが持って来たのはドレスと装飾品一式。
以前着た物とは違って何故か私の為に準備された物だった。
ブルーのグラデーションの、ギャザーをたっぷり寄せた素敵なドレスに
シンプルで品の良いネックレス。
髪はまだ短いので私の為に誂えたウィッグをつけて貰った。
ジェフさんの留守中にこんなに着飾ってどうするんですか
という疑問が湧く。
「ジェフェルの仕事ぶりを覗きに行くのよ。貴方も一度くらい
パティー会場というものを見てみたいでしょ?
ミカエル子爵がエスコートに来て下さる事になっているから」
「えっ、私作法とかダンスとか全く分からないです・・・」
「あら、別にダンスなんてする必要は無いわよ。それに壁の花で十分よ」
「そうなんですか?」
「舞踏会なんて昔の名残よ。今の主流は社交ダンスをするより
人脈造りの為の話術とか如何に相手の懐に入り込めるかの駆け引きとかね」
「何方にしても私には無理っぽいです」
「貴方のその貴族とは縁遠い所が疲れなくて癒されるんでしょうね」
「?」
丁度その時執事さんがミカエルさんの来訪を告げに来た。
エントランスに向かうと
「今日は歓迎式典と言っても前夜祭みたいなものだから端の方で
見学していてね」
いつもの笑顔でミカエルさんがそう告げた。
ジェシカさんと一緒に三人で馬車に乗り込む。
「ジェフェルはね女嫌いだから今まで裏方ばかりで
表舞台に立ったことが無くてね。
今回は良い取引材料があったからチャンスだったんだ。
周りの者ががせっかく女好きのする顔をしているのに接待させないなんて勿体無い
なんて煩くてね。でも女性の横に立っているジェフェルの顔を見たら
”二度と接待はしなくて良い”って言うと思うよ」
やがて馬車は立派な建物の前に到着した。
ミカエルさんにエスコートされて会場の迎賓館大広間の扉を潜ってすぐに
会場奥で接待をしているジェフさんが目に留まった。
横に並んだ綺麗に着飾ったお年頃の女性が笑顔で彼と話している。
それを目にした途端何とも言えない感情が込み上げてきた。
ジェフさんがどんな顔をしているかなんて事を気にする余裕は全く無かった。
ジェシカさんが隣で呆れた様に
「ほら、どう?あのジェフェルの愛想の無い顔。
国賓相手なのだからもっとにこやかに出来ないのかしら」
とため息混じりに溢した言葉に我に返る。
改めてジェフさんを見て心臓が跳ねる。
あのカフェで目があった時の様に睨まれた。
「今まで裏方一筋で頑として表舞台である接待からは逃れて来ましたからね。
今回は良い経験になったんじゃないですか。
最初で最後という事になるだろうしね」
そう言うとミカエルさんは私をエスコートしたまま
ジェフさんの元へと歩き出す。
「お仕事ご苦労様、そろそろ交代するよ」
「遅れて来るまでの接待は引き受けたが
ヒナタを連れて来る事までは聞いていない」
「以前から思っていたが君のそれは過保護と言うのではなくて
独占欲と言うモノだよ」
思わず何時ものニコニコ顔で答えたミカエルさんを見上げる。
「慣れない事で疲れただろう?後は引き受けるから
落ち着ける場所で一息つくと良い」
取っていた私の手をジェフさんに引き渡し後ろへ回ったミカエルさんが
ジェフさんの肩をそっと押した。
ミカエルさんの気遣いに二人で顔を見合わせバルコニーへとやって来た。
ここへ来てから決心した事を口にする。
「私やっぱり医薬部でお仕事したい。いつまでも甘えていられないから」
「そうか」
「でも、ジェフェルさんとはずっと一緒に居たい」
「!」
「ここへ来てすぐジェフさんを見た時、私じゃない女性が隣にいるのを見て
凄く寂しくてそして嫉妬している自分に気付いた。
でもただ隣りにいるだけじゃダメだって思う。
ちゃんとここで生活できるようになって一人の女性としてジェフェルさんに
認めて貰いたい」
私の告白を受けてジェフェルさんが私を見つめながら心の内を語った。
「私もヒナタと同じだ。今日だってカフェで見つけた時だって
何で他の男が傍に居るんだという怒りと寂しい気持ちが湧き上がってくる。
ヒナタが女の子だって分かった時から心の底で好意を抱いていた。
君の無邪気な所に惹かれたんだと思う。
例えばイケメンよりケーキに目を輝かせるとか・・・
でも14歳の子供に相手にそれを認める事は出来なかった。」
「成人してる私に子供っぽいと思われてるのはちょっとショックかも」
「本当に14才だったらただの好意だけで終わっていたかもしれない。
ヒナタが18歳で成人してるって知った時
自分の気持ちを抑えなくて良いって分かったからすごく気持ちが楽になった。」
バルコニーの手すりに手を掛けて話している私たちの後ろが
ちょっと騒々しい。
こちらを見てクスクス話している。視線の先のジェフさんの背中に目をやれば
”この度女嫌いを卒業しました”という張り紙が目についた。
剥がした紙を見つめてジェフさんが
「好きになったヒナタが偶々女性だっただけで女嫌いを返上する気はない。」
と溢した。
「私も好きになった人が偶々超イケメンだっただけだよ。
ミカエルさんやエディさんは見ていてるだけで鬱陶しかったし。
内緒だけどね」
そうは言ってみたけれど腹黒策士にはとても感謝しているという心の内は
そのうち本人に伝えよう。
完結です。
最後までお付き合いいただき
ありがとうございました。
(人''▽`) ♪




