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通りを挟んだカフェに入ると窓際の明るい席に案内された。
青年と向かい合って座り名前も知らないのでは会話も出来ないと
名前を聞く事にする。
「失礼ですけどお名前は?」
「私はアルフレッドと申します。アルと呼び捨てにして頂いて構いません。」
「ありがとう。私の事はナタリーと呼んでね。」
ここに来るまでの馬車の中で知らない人に聞かれたら
ナタリーと名乗りなさいとお二人に指示されている。
ウエイトレスに紅茶とケーキのセットを頼んで他愛のない会話をしながら
何気なく宝飾店の方へと目をやった。
ジェフェルさんが数人の団体に混ざり前の通りを歩いて行くのが目に留まった。
一瞬目が合って睨み返されたような気がしたがすぐに前に向き直り歩いて行った。
まさかこんな処にいるとも思わないだろうし
何といってもこの姿で分かるわけがない。
きっとミーハーな女子に見つめられたと気を悪くしたに違いない。
そう思っているとウエイトレスが注文の品を運んできた。
置かれたケーキにテンションが上がり目が釘付けになる。
と、テーブルの上に影が差した。はて?と見上げて固まった・・・
視線の先には物凄い形相のジェフさんが二人を交互に見やっている。
「ヒナタ、ここで何をしている!?」
「あの、人違いでは?私はナタリーと申します。」
「・・・ナタリー、姉上たちは何処にいる?」
「・・・向かいの宝飾店で時間がかかると言われたので待ってる間
私だけ店員さんに案内をお願いしてお茶を飲もうと思って・・・」
ジェフさんが溜息をつきながら強面を解除した。
「君、後は私が引き受けるから店に戻って姉たちに
ナタリーは弟が連れて帰ったと伝えてくれ。」
可愛そうにアルさんは青い顔で何度もコクコクと頷いて伝票を掴んだ。
「支払いも私がするからそれは置いて行って良い。」
ジェフさんにそう言われたが店の方針なのかそうはいかないらしい。
そのまま会計へと飛んで行ってしまった。見上げた商人魂だ。
ジェフさんはすぐに私に向き直り「さあ、帰ろうか。」
と手を差し出した。
何で分かった?という疑問と、ケーキ食べたかったなという気持ちと
ジェフさん怒ってるよねという気持ちが入り交ざり複雑な思いで立ち上がった。
前を歩くジェフさんに手を引かれながら下を向いて石畳の道の上をついて歩く。
沈黙に耐え切れず口を開いた。
「ジェフさん仕事中じゃないの?」
「街中にヒナタが知らない男と二人でいるのを見たら仕事どころでは無いだろう。
この国は治安はしっかりしている。王都となればなおさらだ。
しかし何も知らない者にとっては何処にいても危険は付き物だ。
もう少しこの国の事を知ってから出歩くようにしてくれ。」
「・・・ごめんなさい。」
ジェフさんは本当に良い人だ。そして優しい。
しばらく歩いてジェフさんの仕事場である外務省館に着いた。
待機している馬車に乗り込み帰途につく。
向かい合って座った馬車の中で疑問に思った事を聞いてみる。
「さっきなんで僕だって分かったの?」
「ルッツ侯爵家の馬車が宝飾店の前に停まっていた・・・」
「それにしてもまさかこの姿で気付かれるとは思わなかったんだけれど。」
「ヒナタ、これでも私は周りの者が思っているほど鈍感ではない。
まして一か月も一緒に旅をすれば気付かない方がおかしいと思わないか?」
「 ! ・・・いつ気付いたの?」
「最初は悲鳴を聞いた時だ。少年は先ずあんな悲鳴は上げない。
その後、倒した獣を見た時の態度や周りにいた人達への気配りを見ていて
次第におかしいと思い始めた。」
「なんで気付かない振りしてたの?」
「道中は長い。お互い気まずくなるのは避けたい。でもまさか
ヒナタがミカエルから私の事情を聴いてるとは思ってもみなかった。」
「私が女だって気付いたのに知らない振りをしてここまで連れて来てくれて
ありがとう。」
「途中で気付いても14歳の子供を見ず知らずの土地に置き去りにするほど
私は薄情者ではないよ。」
・・・女だって早々に気付いたのに14歳って事は疑ってないんだ。
でも腹黒ミカエルさんが知ってるのにジェフさんに黙ったままなのは気が引ける。
ここはちゃんと告白しておこう。
「ジェフさん、とっても言いづらいんだけど・・・」
「なんだ、兄さんて呼ぶのはやめるのか?」
ちょっと淋しそうだから迷うけど今言っておかないとずっと言いそびれる気がする。
「だますつもりは無かったんだけど誤解されてるならそのままで良いと思って
言わなかったんだけど・・・」
「?」
「私これでも成人してて…18歳・・・」
「・・・」
ジェフさんが口元を抑え斜め下を見たまま固まってしまった。
何か思うところがあるのかウォルツ邸迄無言の状態が続いた。
年齢的に大人の女性という位置付けでジェフさんのアウトゾーンに
引っ掛かってしまったのかもしれない。
馬車が停まるとジェフさんは
「戻ってやり残した仕事を片付けてくる。戻るまで決して屋敷から出ない様に。」
とだけ言い残して引き返していった。




