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スエット姿の召喚者  作者: こんぺき
3/7


「カルディス王国はやはり召喚に成功していたのか・・・」

その呟きを聞いて思わず部屋に飛び込んだ。


「誰だ!!?」


驚いた相手が思わず手に持った紙束を執務机の上に落とす、

と同時に横に置いてあった光を放っている石?を隠した。

部屋の中が真っ暗になった・・・

ように見えたが、私にはハッキリとその姿が見えている。

この人は大丈夫。私の冴えてる感がそう言っている。


「私は召喚された者です。」

正直に答えた。

「まさか・・・」


「本当です。困っています。事情だけでも聞いてください。

他に頼れる人がいないんです。」

このチャンスを逃すわけにはいかない。


「時間稼ぎをして仲間を待っているのか?

上手い事を言って私を捕縛するつもりだろう。」

「そんなことしても私に得な事は一つもありません。

どうすれば私が召喚された人間だと信じて貰えますか?」

必死に食い下がる。


「カルディス王国のもので無いのならどこの国からきた?」

「異世界・・・です。信じられないでしょうけど。」

「・・・異世界から来たという証拠は?」


ぎゅるるる~


絶妙なタイミングでお腹の虫が鳴った。

今日はポテチを食べ損ねてから何も食べていない事を思い出した。


「あのー、何か食べるもの持ってませんか?

今日、ほとんど何も食べてなくって。」

「いや、危険な敵地に忍び込むのに証拠になるような

余計な物は持ってきていない。」

あきれ顔で相手が答える。


緊張が解けた所為か今まで気付かなかった匂いが鼻を刺激した。

「ちょっとそこを退いてください。」

相手は驚きながらも後退った。

私は机の向こう側に回り込み、クンクンと鼻をきかせる。

そして一つの引き出しを開けた。

にんまりと笑ってガサゴソと引き出しの中を探る。


暗闇で相手が警戒しているが、構わず中のものを取り出した。

「これは私が異世界から持ってきた『ポテトチップ』という

食べ物です。

とりあえず、明かりをつけて確認して貰えませんか?」


「変わったにおいがするのは確かだが・・・」

先ほど仕舞った薄っすらと光る石を取り出して近づける。


「貴方も如何ですか?」

訪ねながら躊躇なくポテチを頬張る。

んん~、湿気ってる…。


「そんな得体のしれないモノを躊躇いもせず・・・

身につけている衣装も、何というか見た事もない代物だ。

本当に召喚された者なのだな?」


得体のしれない物って・・・

相手は袋を手に取りまじまじと観察している。


「信じられないでしょうが本当です。

これは薄く切った芋を油で揚げてから味をつけたモノですよ。

揚げたてはパリパリしていて食感も楽しめるんです・・・」


そこまで答えて思いついた。

火魔法で湿気を飛ばせる?

頭の中で念じてみた。

「あっ!!」


「何をやってる!?」

火加減が難しい?一瞬で炭と化した。

「いや、揚げたてを再現できないかと…」


もう一度、今度は直接ポテチに炎が触れないよう、

包み込むように意識して魔法を使う。

よっしゃ、成功! 思わず笑みがこぼれた。

パリパリとポテチを頬張る。


「・・・本当に異世界のモノらしいな。見た事もない入れ物だ。」

言いながら袋を返してくれた。


「此処にいては何時見つかるかも分からない。安全な所で話を聞こう。」

「信じて頂けたようで良かったです。私はヒナタと言います。

こちらの世界の事、全く分らないのでお任せします。」

「私はジェフェル。ジェフと呼んでくれ。」


部屋から出て静かに移動を始める。

後ろを付いて歩いて観察する。

身長は大体180センチくらい?腰に帯剣している。


彼が入ってきた扉の外へ出ると渡り廊下になっていて

隣の立派な建物へと繋がっている。


そっと扉を開けて中の様子を伺う。

安全が確認できたようで建物の中に滑り込む。

静かに廊下を進み階段を下りる。まるでスパイになった気分だ。

暫く進んで別の階段を上った所で一つの扉の前に立ち止まった。


「私の滞在している部屋だ。入ってくれ。」

一応危険が無いか部屋の中の気配を探ってみる。

大丈夫。


部屋に入るとリビングになっていて、テーブルを挟んで

3人掛けのソファーが2つ配置されている。

勧められたソファーに腰掛ける。


向かいに座った彼と目が合った。

はっきりと顔を見るのは初めてだ。


ダークブルーの瞳に程よい彫りの整った顔立ち。

肩に届く長さにレイヤーカットされたシルバーブロンドの髪。

はっきり言ってドストライクだ。


「しかし、神殿長の執務室に入ってきて声を掛けられるまで

全く気配を感じなかったぞ。

私を見て後をつけて来たのではないのか?」


「建物に入って階段の近くを通った所から少し後ろを付いてきましたよ。」

「隠蔽魔法か・・・」


えっ、知らないうちに…いや、気配を消そうと意識していたからか?

隠蔽魔法発動してたんだ。

ここへ来るまでも息を潜めながら移動した。

しかし一緒にいる事を意識している所為か、私の事ずっと認識してた気がする。

一緒にいた彼にまで効果が有るかは分からない。


「そういえば、敵地ってあなたこそ何処から来たんですか?」

「ああ、私は隣国スタニア王国から来た。

表向きは友好国なんて言ってるが、常にお互い腹の探り合いをしている。

今回、私は表向きは使節団を率いる代表として

この迎賓館に滞在している。

他の国の者も集まって対談していたラウンジで

魔術師団長が国王に緊急の謁見を申し込んだと聞いたので

いろいろと探っていたんだ。

食堂で魔術師団の下っ端が召喚がどうのこうのと囁き合っているのを耳にした。

夜になって神殿長執務室に忍び込んで公務日誌を調べて

召喚が行われたという記述を見ていた。そこに君が現れた。」


何処の世界でも表向きは仲良くしてるようで実は腹の探り合い、なんていうのは当たり前なのかな。


「私は今日召喚されてすぐに意識を失ってしまって。

気付いたら夜になってたみたいで、世話係の女の人は意識が戻ったのを

確認しただけで自室に下がってしまったし。

何も聞けなかったので、夜のうちにちょっと様子を探っておこうと

ウロウロしてました。」

まあ、私も人の事は言えない。


「そうか。私も召喚魔法が行われた、としか情報を得ていない。

私たちは明後日には帰国の途に就くが、ヒナタ自身はこれからどうしたい?」


「私はここへ来たばかりで何も分からないですけど、

この国に留まる事には不安しかありません。

今日会ったばかりで図々しいお願いですが、

出来たらジェフさんに暫く同行させて頂きたいです。

その間にこの世界の事を教えて頂けるとありがたいです。」

召喚されて何も分からなくて不安な私を放っておく人達には不満しかない。


「なるほど。よその国が召喚した者を黙って連れ歩く事に

罪悪感が無いわけではないが、

同意なく召喚された本人が望むならその限りでは無いな。

分かった。一緒にこの国を出る事にしよう。」

「よかった・・・・。よろしくお願いします。」

少なくともここの神殿長達よりは頼ってもよさそうだ。


「ああ。お互い緊張で疲れたから今日はいったん休んで

朝になったら先の細かい事を考えよう。

私はソファーで休むからヒナタは奥の寝室のベッドで寝ると良い。」

「私はどこでも寝れるからお気遣いなく。」

「召喚なんてされて疲れただろう?」


「あっ!私、ベッド持ってます。」

試しで収納したまま持ってきてしまった事を思い出した。


今いるリビングはそれなりに広いのでベッドを余裕で置ける。

移動させるのも面倒なのでソファーを一つ収納してベッドを出した。


「???!!!・・・」


「あれっ、収納魔法って見た事ないですか?」

「魔法袋から出したわけではないのだろ?

それにしたってこんな大きなもの収納できないな。」

「今持ってるのはポテチの空袋だけですね。」


ごみ箱が分からないのでポケットにしまってある。

スマホも入っているが話がややこしくなるのでそれは黙っておく。


「・・・改めてヒナタが異世界人だと認識したよ。」

「私のいた世界には魔法はなかったです。」

「そうなのか!?使い慣れているようにみえるぞ?」

「はい。此処へ来てから使えるようになって・・・

私自身が驚いています。」

「・・・」


気を失うのと睡眠は別物だ。

区切られた空間とはいえ、同じ部屋の中で他人が寝ているのは気になるけど

ここは異世界。仕方ないと割り切って眠りについた。




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