②
いつもよりフカフカした布団の中で目を覚ます。
真っ白い天井を見て飛び起きる。
病院!?
「気が付かれましたか。」
声のする方へゆっくりと頭を向ける。
若い女の人だ。
看護師のように白い衣装を纏っているが、違和感がある。
明らかに見知った白衣の天使とは違っている。
「えっと、ここはどこでしたっけ?」
「神殿の客室でございます。」
ニコッと親切に答えてくれる。
「神殿…なのは大体分かるのですが、どこの神殿でしたっけ?」
「王都のカルディス神殿にございます。」
当たり前とばかりに無表情になった。
「どこの王都でしたっけ?」
「・・・カルディス王国、カルディス王都のカルディス神殿にございます!!」
ちょっと自棄になって答えちゃったよ。
私が悪いのか?否である。
いきなり誘拐?したあんたらが悪い!
「此処の責任者か代表の人っていますか?」
「神殿長は先ほどお休みになられました。
副神殿長は三日前から遠征にご同行されています。」
お休みになったって・・・もう夜なのか?
「私が此処にいる経緯の分かる人っていませんかね?」
「魔術師団長は国王陛下にご報告の為、登城されたまま戻ってはおりません。」
えー朝まで何の説明も聞けないまま?
不安しかないんですけど。
「貴方は私が此処にいる事について何か聞いてますか?」
「いいえ、急に倒れたから目を覚ますまで見ていてくれとしか・・・」
何それ!!
カルディス王国とか、魔術師とか、国王とか、この人の出立・・・
異世界からの召喚に成功したとか言ってたし・・・
ここは私にとっては異世界なのか?
召喚されたって事は勇者とか聖女の素質あり?
「お目覚めになられたので私は部屋に戻ります。
明日の朝、また参ります。」
女の人はそっけなくそう言って部屋から出ていった。
あらためて部屋の中を見回す。
凄い高そうなでっかい壺が目に入った。
あんなのあったら結構な財産なんじゃないか、
と思ったところで頭の中に声?が響く。
『ホントに収納する?』
えっ?
『うん!』
反射的に頭の中で返事をした。
・・・子供が入れそうな位大きな壺が忽然と消えた。
???!!!・・・
ちょっと待てえぇぇい!
でっかい壺、どこいったぁ~?
『空間魔法で収納完了!』
空間魔法?私が使った?
思っただけで?
一応確認されて「うん」って答えたけど、これって窃盗?
『元に戻さないとヤバいかなぁ』
ちょっと待てよ。扉の前に目をやる。
『思った所に出せたりするかも。あそこに出しちゃえ!』
頭の中で念じる。
間髪おかず思った所に壺が現れた。
凄い!魔法なのか?
『他に何ができる?』
頭の中で誰とはなしに聞いてみた。
・・・返事は無い。
頭の中のもう一人の自分と会話してる気分だ。
自分で試した事にしか返事がこない?
『このベッド収納』
へっ!?
「痛い!!」
ベッドが忽然と消え、床に落下して腰を打った。
頭で全体をイメージしたからか布団も一緒に収納したようだ。
「つうっ、痛いの痛いの飛んでけ~」
余りの痛さに腰を摩りながら呟く。
驚いたことに淡い光に包まれ痛みが消えていく。
回復魔法・・・使えちゃうんだ。
よしっ、誰もいないうちにもう少し様子を探っておこう。
扉に近づきそっと押してみる。カギはかかっていない様だ。
そりゃトイレもない個室だ。
中でされるわけにはいかないだろう。
それに右も左も分からない。
自分でも一人でこっそり逃走できるとは思わない。
そっと部屋の外に出て様子を伺う。
柱に取り付けられた石?が薄く光を放って通路を照らしている。
マジでトイレはどこだろう。
頭の中に建物の簡単な見取り図がうかぶ。
便利!
狭くなっている区画を探す。こっちかな。
簡単に目的のものを探し用を足す。
手を洗う水は管の先から陶器の受け皿の上に流れ落ちっている。
ハンカチ持ってない・・・スエットでしれっと拭いておく。
さてどうしたものか。部屋に戻って大人しくしているか
ちょっと探検してみるか。
トイレを探しに出て思ったが、ここに来てから体の調子がすこぶる良い気がする。
いつも気怠げに動いていたが、足取りが軽い。
あそこの階段だって一番上まで一気に駆け上がれそうな気がする。
試しに『今の私ならできる』と念じて駆けだした。
階段手前で思いっきり「エイッ」と
片足ジャンプして何段飛ばせるか試してみた…つもりが二階の天井に頭をぶつけて
『ゴチッ!』
という鈍い音と共に撃沈した・・・
声も出せない。
頭を抱えて悶絶する。
「っ、ううっ~・・・痛いの痛いの飛んでけ~っ」
本日二度目のおまじない。
どうなってるの?
私の身体能力、半端なく凄い事になってるんですけど?
そこでちょと考える。
身体能力上がってるなら強化は出来ないの?
頭の痛さに瞑っていた目を開けると二階は真っ暗だ。
とりあえず『身体強化』と念じてみた。
すると周りの見え方が明らかに違う。
けして目が慣れてきた所為ではない。
そんな事をしていたら廊下の奥の扉が開き始め明かりが漏れた。
不味い。騒ぎ過ぎたか?
慌てて気配を消そうと、物陰を探し息をひそめる。
しかし扉は少し開いただけで、誰かがそっと顔だけ覗かせた。
きょろきょろとこちらの様子を伺った後、少し空いた隙間から
体を滑らせるようにこちら側に移動して静かに扉を閉めた。
・・・怪しい。
気配を消すように静かにこちらへと進んでくる。
私も気配を消すように息を潜め柱の陰から見守る。
私に気づく事なく、前を通り過ぎて更に奥へと歩いていく。
召喚直後、ローブ姿の老人たちに囲まれた時の様な
怪しく危険な感じは無い。
少し距離をとってその後をついて行く。
すると暫くして一つの扉の前で立ち止まった。
あたりの様子を伺ってから、先ほどと同じように扉の中へと消えていった。
扉が閉まるのを確認してから私も扉に近づき耳をつけて中の様子を伺った。
引き出しを開け閉めするような音が聞こえる・・・はっきりと。
次に紙をめくるような音が聞こえる。
「やはり召喚に成功していたか」
誰と無しに呟く声が聞こえてきた。




