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温泉に浸かってもう少し巷の常識の情報収集をしたいところだけど
のんびりしていてジェフさんが先に宿に戻ってしまうと不味いので
名残惜しいけど早めに上がる事にする。衣服を整え脱衣所から顔だけ出して
ジェフさんがいない事を確認して大急ぎで外に出た。
人目を忍んで隠蔽魔法で宿を目指すと前方にジェフさん発見!
慌てて追い越し宿の部屋に飛び込んだ。
程なくしてノックの音と
「ヒナタ、具合はどうだ?寝ているだけで大丈夫そうか?」
と気遣ってくれる声がした。
「うん。大丈夫。念のために大人しくしてるだけだから」
うーんなんか罪悪感・・・
「そうか、明日になっても調子が悪ければ一度医者に診て貰った方が安心だな」
と更に思いやる言葉を掛けてくれたが
いやいやそれは絶対無理!
「本当に大丈夫。明日になったらけろっと直ってると思うから心配しないで」
「そうか?じゃあ大人しく寝るんだぞ。」
「ありがとう。おやすみなさい。」
「ああ。おやすみ。」
ジェフさんが遠ざかっていくのを感じホッと胸を撫で下ろしたが
風呂上がりで走ったのと、嘘をつくジレンマでぐっしょりと汗をかいてしまった。
クリーン魔法を使って綺麗にしたが何のために苦労して温泉に行ったんだろう。
ゆっくり浸かる事も出来なかったし・・・
ジェフさんへの罪悪感だけが残った気がした。
次の朝は早起きして昨日見かけて買っておいた
厚めの生地のチュニック風のストンとした上着に同じく
少し厚地のボトムスに着替えた。
廊下に出てジェフさんの部屋の扉をノックする。
「おはよう兄さん、元気全開になったから朝ごはん食べに行こう」
「ちょっと待て居てくれ。」
と返事があり程なくジェフさんが部屋から出てきた。
「昨日は心配かけてごめんなさい。もう大丈夫だからご飯食べて出発しよう。」
「本当に大丈夫か?無理してないだろうな?」
「もう平気。早くスタニア王国に行ってみたいし
無理して倒れるような無茶はしないから」
「そうか。ヒナタがそう言うなら私は構わないが
具合が悪くなったらすぐに言うんだぞ。」
「はい。ちゃんと頼らせて貰います。」
という事で食事を済ませ出発した。
今までスエットだったので人目のあるところはローブを羽織っていたが
この世界の服に着替えた事でなんとなく解放感が増した気がする。
相も変わらず歩きながら薬草をせっせと収納して旅を続け
何事もなく数日が過ぎて今晩の野営の為の場所に着いた。
王都を離れてからは町から町までが離れている所では旅人たちの為に
簡易的ではあるが雨風が凌げる宿泊小屋が建っている。
そのほとんどが近くに綺麗な水の流れる小川もあり
自炊する人たちがちらほらと水を汲んでいる。
ジェフさんと自炊の為に他の人が残していった石で作った簡易竈の傍に陣取る。
ジェフさんは林に薪拾い、私は川に水汲みに・・・
私が小川に近づくと近くの茂みから「グヒッ~」という唸り声と共に何か毛むくじゃらな物が飛び出した。
「いやー!」と突然の事に驚きながらも目を瞑って
手にしていた鍋を取り落とし、とっさに両手を払うように風魔法を行使した。
ドガッ!
という音に目を開けると風魔法で吹き飛ばされた何かが
近くの大きな岩にぶつけられ動かなくなっていた。
自炊の準備をしていた人達が驚いて集まって来た。
「ヒナタ、大丈夫か?!」
大きな声がしてジェフさんが駆け寄ってきた。
私はというと大きな動かなくなった物体を見てへなへなと座り込んでしまった。
ジェフさんがしゃがんで顔を覗き込んで心配そうにしている。
「大丈夫。びっくりしただけ。何か大きなものが飛び出して来て
咄嗟に払ったんだけど・・・」
そういって横に目を移す。
ジェフさんも同じ方を見て二人で固まった。
そこには角の生えた茶色の子牛ほどの何かが転がっている。
集まって来た人の中にいた如何にも体力勝負風の厳ついおじさんが
「ワイルドゴウトじゃないか。それにしても見事に仕留めたな。
岩に叩きつけるとは・・・」
感心して見ているがこっちは突然の出来事過ぎて腰が抜けている。
「これ仕留めたのあんただろ?どうする?
ここから次の街までは大分有るしこのままじゃ運べないだろ?」
だんだん正気に戻って心配しているジェフさんの顔がはっきりしてきた。
「大きな悲鳴がしたから慌てて飛んで来たんだが大丈夫だったか?」
悲鳴、上げてたんだ・・・女の子みたい、って女だけど。
「兄さん、びっくりしただけで大丈夫だから。心配してくれてありがとう。
それよりこれ町まで運ぶってどういう事?」
ジェフさんに聞いたがジェフさんも良く分からない様で
おじさんに聞いてみる。
「すみませんが此処にこのまま置いておくとやはり不味いですか?」
厳ついおじさんが笑って答えた。
「いや、このまま置いとくって、あんたら何にも知らないんだな。
俺はこの先の街を拠点に冒険者をやっているんだが
この獲物は食用としてなかなか人気がある。それに角も毛皮も
素材として売れるんだ。仕留めた兄ちゃんに権利が有るからな。
しかしこんな大きな獲物マジックバッグでもない限り町までは運べないだろ?
俺が代わりに解体してやるから・・・
そうだな手数料として売値の二割でどうだ?」
「えっ、ここで解体するんですか?」
「ああ処理は出来るだけ早い方が良いからな」
「・・・」
「どうした?ヒナタ」
「いや、ちょっとそれは何というか・・・」
「ああ、解体するところを見た事ないのか?
じゃあ見えない所で済ませるからどうだ?」
「ヒナタ、このまま置いておくわけにはいかないから任せたらどうだ?」
「解体した物も見るのはちょっと・・・」
「なんだ、坊主そんなんじゃ肉も食えないんじゃないか?」
ああ、そうだお肉なんだ。焼肉、ステーキ好きだけど・・・
「じゃあ、お願いします。それで、売値の2割って良く分からないから
現物で支払いで良いですか?」
「ああ、俺は構わないぜ。
明日には町に着くからギルドで現金に変えられるからな」
「それじゃあ、角と毛皮と・・・足らない分は肉でお願いします。」
「いやいや、角と毛皮だけで十分だ・・・が晩飯用に少し肉を分けて貰えないか?
移動中はなかなか新鮮な肉は食えないんでな」
「それは勿論構いません。どうせこんなに運べませんから
今日ここで一緒になったのも何かの縁という事で他の皆さんにも
お裾分けしますよ。いいよね?兄さん」
「これはヒナタの獲物だからヒナタが好きにすれば良いさ」
「という事なので解体よろしくお願いします。」
「ああ、任せとけ。」
「あの、僕らにも分けて貰えるなら何か手伝いますよ」
という事で周りで事の次第を見守っていた人々の中から
有志が集まってワイルドゴウトを運んで行った。




