第八十八話「記録されない未来へ」
「全システム、リンク開放。記録圧力、解除開始」
玲音の声が、ゼロ・アンサーの中枢へと届く。
イグジスト・ゼロにリンクする形で、彼女たちの端末が“記録神経核”へのハッキングを試みていた。
玲音:「いける……“観測領域”が歪み始めてる……!」
美玖:「でもこれ、逆に言えば“世界の軸”が崩れかけてるってことじゃ……!」
玲音:「構わない。私たちの存在は、もはや“記録の中”じゃない。
記憶と意志、それだけで――未来を掴み取るの!」
◆
陸の操るイグジスト・ゼロが、“第零仮想記録”へと肉薄する。
量子波が弾け、空間がねじれる。
そこに浮かび上がるのは、未来の断片。
だが、その未来の映像は――どれも“死”を告げるものばかりだった。
カズサの散る姿。
玲音が銃口を向けられる。
陸自身の絶叫と、崩壊する都市。
陸:「……ふざけんな。こんなのが未来なもんかよッ!」
映像を貫くように、イグジスト・ゼロの右腕が突き出される。
その拳が、“未来を記録する装置”に届いた瞬間――
ゼロ・アンサー:「観測不能領域への接続が確認されました。
警告:因果律に矛盾が発生しています」
世界の根幹が悲鳴を上げる。
しかし同時に、その“矛盾”が、可能性の扉を開いた。
玲音:「観測できない未来……それって、私たちが“これから作る”ってことじゃない!」
◆
そのときだった。
『記録から消えた者たち』が、次々にイグジスト・ゼロの背後に集結していた。
晶。結人。深月。そして――美玖のかつての兄。
陸:「みんな……!」
カズサ:「お前の拳、預かったぜ。あとは任せろ。ぶっ壊せ、“決まってる未来”なんか!」
彼らはすでに“記録されない存在”となっていた。
だからこそ、観測不能領域でのみ、真価を発揮できる。
イグジスト・ゼロの機体が、仲間たちの意志と同期する。
陸の背に、複数の残光のような武装アームが展開されていく。
――これは、“存在しない未来”の武装。
誰にも観測されていない、未確定の可能性。
ゼロ・アンサー:「存在不確定因子、収束不能。
システムダウンまで、あと……」
だがその言葉を最後に、ゼロ・アンサーの音声は切れた。
陸:「これが――俺たちの未来だッ!!」
そして、イグジスト・ゼロの拳が、
記録神経核の中心部に叩き込まれた。
◆
次の瞬間――全てが静止した。
光も音も、時間すらも。
すべてが“記録されなかった状態”へと還元された。
玲音たちの端末が、一斉に再起動する。
だが、画面には“記録なし”とだけ表示された。
玲音:「……そうか。何も、残ってない。けど……」
彼女の手は、震えていなかった。
玲音:「私は覚えてる。陸の声も、カズサの笑顔も、みんなの姿も――全部、心に残ってる」
美玖:「うん……私も……忘れないよ。きっと」
◆
目を覚ました陸は、どこかの丘の上に立っていた。
空は晴れ渡り、風が穏やかに吹いている。
だが――そこに誰もいない。
陸:「……ここが、“記録されなかった未来”か」
彼の手には、誰かのペンダントが握られていた。
何の記録もない。
けれど確かにそこにあった“想い”だけが、彼の胸の中で輝いていた。
陸:「……行こう。誰も知らない、未来の先へ」
彼の背に、風が吹く。
それはまるで――誰かの「よくやった」とでも言うように、優しく背中を押していた。




