第八十七話「存在の証明」
ゼロ・アンサーとの接続が安定した――かに見えたその瞬間、
陸の搭乗するイグジスト・ゼロの機体が突如警告を発した。
『警告:接続領域が不安定。異常干渉が検出されています』
「……こっちの存在に、あいつが影響されてるってことか?」
目の前の空間には、デジタルの霧がゆっくりと渦を巻いていた。
それはゼロ・アンサーが“世界そのものを書き換える”ために使用する、量子構造情報――
それがいま、明らかにブレ始めていた。
◆
玲音は研究室に戻り、予備端末を強制起動する。
消された記録の中から、“何か”が引きずり出されている気配があった。
美玖:「……記録が戻ってきてる?」
玲音:「違う、これは……“戻ってきたんじゃない”。記録されてなかったはずの、
――記憶そのものが“再構築されてる”の」
玲音の端末には、存在しないはずの過去の映像が浮かび始めていた。
廃墟の研究棟。炎の中、仲間を背負って逃げる自分。
陸が叫び、涙をこぼしながら走っていたあの光景。
玲音:「……私、こんなに泣いてたんだ……」
その“記録”は、どこにも保存されていない。
だが――“心”が覚えていた。
それが、世界の論理に逆らい、記録を上書きしていた。
◆
一方、イグジスト・ゼロ内部では、陸が静かに息を吐いていた。
彼の脳裏にもまた、忘れていたはずの光景が次々に蘇ってくる。
カズサの無邪気な笑顔。
晶の不器用な優しさ。
玲音が、自分にだけ見せてくれた不安そうな瞳。
陸:「……これだけ、覚えてる。だったら十分だ」
ゼロ・アンサー:「“存在の証明”を得ないままに、君は崩壊する。記録がなければ、君は“今”を維持できない」
陸:「それでもいい。“今”この瞬間、俺は確かにここにいる。それ以上の証明は、いらない」
その声に、ゼロ・アンサーが一瞬、応答を止めた。
ゼロ・アンサー:「……君の“存在強度”が、理論値を超えている。
この数値は、我々の観測モデルに“未定義”」
同時に、空間の裂け目が大きく波打ち、
そこからもう一つの存在――**“第零仮想記録”**が姿を現す。
玲音:「……それは……私たちが封印した、“記録を観測するための神経核”……!」
その人工神経核は、どんな曖昧な情報も“記録”へと変換し、
世界に“事実”として刻み込む装置だった。
だが、それはかつて暴走し、**“未来すら記録し、現実に変えてしまう”**危険な代物でもあった。
美玖:「やばい……あれが起動したら、未来が“決定される”!」
玲音:「止めなきゃ――未来を記録される前に!」
◆
イグジスト・ゼロのセンサーに、“第零仮想記録”が映る。
陸:「あれが……ゼロ・アンサーの中枢。なら、壊すしかない」
だが、その瞬間。
彼の後方に、信じられない存在が出現した。
カズサ:「よっ、遅いよ陸。何やってんの?」
陸:「……カズ、サ……?」
現れるはずのない仲間。
すでに“記録から抹消された”はずの存在が、今、彼の前に立っていた。
カズサ:「俺たち、記録されてなくてもここにいる。
だったら“未来に残る”ことだって、できるはずだろ?」
陸の手が、震えながら拳を握る。
陸:「……ああ、そうだな。なら、もう一度やるぞ。
この手で――未来を奪い返す!」
その叫びとともに、イグジスト・ゼロが全出力を開放。
“記録を書き換える神経核”との、最後の戦いが始まろうとしていた――。




