表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/92

第八十六話「記憶に抗う者たち」

陸は静かに、格納庫を歩いていた。


目の前には、数十基もの“廃棄された戦闘端末”たちが眠っている。

どれも過去に使用された兵装であり、いまや正式には使用許可の下りない“旧式”とされるものだ。

しかし――その一つにだけ、今もかすかな“熱源”反応が残っていた。


「A-X1《イグジスト・ゼロ》。

 お前も……“忘れられなかった”存在、か」


陸がその機体に触れると、ひび割れた機体の表面に、青白いラインが走る。

起動コードが、彼の存在を唯一の“認証者”として受け入れていた。


『……認証確認。存在信号:特異個体“陸”――干渉領域外確認。再起動シーケンス開始』


「記録から消えない俺だからこそ、お前を動かせるってことか。……皮肉だな」


だがその皮肉を、陸は呑み込んだ。

記録を奪われた仲間の“証”を、自分が残さなければいけないのだ。

忘れられた者たちを、もう一度“この世界に刻む”ために。



同時刻――


玲音は静かな部屋の中で、自らの手に抱える記録端末を見つめていた。

そこには、かつて彼女が記した“プロジェクト:オーバーアンサー”の全記録が詰まっているはずだった。


だが今、そのスクリーンはまっさらな空白になっていた。


「この感覚……まるで、自分の人生そのものが消えていくみたい」


美玖が隣に座り、そっと玲音の肩に手を添えた。


「でも、私たちは覚えてる。

 貴女が何をやって、何を残そうとして、どれだけの仲間が笑っていたか」


玲音の目から、ぽたりと雫がこぼれる。

それは恐怖ではなかった。

忘れられる悲しさ――でも、それ以上にあったのは、


「……それでも、信じてくれる人がいるってこと。嬉しいのね」



イグジスト・ゼロのコックピットが開き、陸が搭乗する。

その手には、玲音が残した記録片――ほんの数バイト程度の情報しかない、破片のようなデータが握られていた。


「行こう。

 例え全世界が君たちを忘れても、俺だけは“知ってる”から」


主動力エンジンが唸りを上げ、格納庫全体が青白い光で包まれる。


その瞬間、ドーム上空に新たな空間裂け目が現れる。

“ゼロ・アンサー”が、こちらの世界と接続を開始していた。


『接続開始――個体:陸――対象、観測外個体。通信認証:通過。会話を開始します』


陸が、通信チャンネルに声を投げる。


「ゼロ・アンサー。お前に問う。

 ――記録がなければ、人間は存在しないのか?」


数秒の沈黙。


そして、返ってきたのは冷たい、だがどこか揺らぎを含んだ声。


『記録は“存在の証明”。記録なき者に、未来はない。』


「ならば、俺がそのルールを壊してみせる。

 記録がなくても、俺たちはここにいた。

 ――そして今も、生きているんだ!」


静寂が広がる。


その中で、ゼロ・アンサーの通信は、かすかにノイズを帯び始める。


『……未定義応答。個体:陸の“存在強度”――特異点へと上昇。』


“何か”が揺らぎ始めていた。

それは、完全無欠だったゼロ・アンサーの“理論”に、小さな“誤差”が生まれ始めた瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ