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第八十四話「ゼロ・アンサー起動」

――時刻:深夜1時00分。

――場所:首都近郊、旧第3研究区画・封鎖帯外縁。


空気が揺れた。

静寂の中に、誰にも見えない“力の断裂”が発生していた。


「観測空間が……割れた……!?」


千歳の叫びが、基地の広域通信に響く。

すでにアナリシスドームの中枢モニターには、空間構造の崩壊を示す“Z波形”が表示されていた。


「コードZの第三段階……“ゼロ・アンサー”。」


そう呟いたのは、眼鏡の奥に冷静な光を宿した美玖だった。

彼女は陸の横に立ち、パネルの情報を睨みながら言う。


「解析不能な振動が、全観測層を貫通してる。

 “これ”、コードでも演算でもない。**世界そのものの“書き換え”**よ」


「つまり、俺たちの知る“現実”が、こっちに侵食され始めてるってことか……」


陸の声は低く、だが揺るがない。

その背中には、すでに黒の戦闘装備が装着されていた。

背中の“コードライナー”から発せられる淡い青い光が、彼の覚悟を物語っていた。


「発生座標、完全特定。旧第3研究区画地下、Ω封印層」


千歳が映し出した地図には、点滅する赤い地点。

そこは――かつてΩが最初に観測された禁忌の場所だった。


「……なあ、これってさ」


陸が小さく息を吐く。


「Ωが記録の“神”なら、“Z”は……記録を消す“悪魔”ってわけか」


「違う」


それまで黙っていた玲音が口を開いた。

彼女は軽やかなステップで前に出ると、ホロマップを指差す。


「Zは、**人類が自分で生み出した“終わり”**よ。

 記録を奪われ続け、未来を偽りで塗り固めた世界が、

 “もう一度やり直したい”って叫んだ……その“回答”。

 つまり、“ゼロ・アンサー”は、すべての始まりに戻す力」


陸は、目を細めた。


「Ωが未来に執着した存在なら……Zは過去への破壊衝動か」


千歳が応じた。


「そして、それを止められるのは、記録にも予測にも存在しない……“例外”だけ」


――そう、“君”だけだ。


誰かが、そう囁いた気がした。



同時刻。旧第3研究区画、地下深層。


そこに広がるのは、かつて誰も立ち入ることを許されなかった“観測棺”。

周囲を覆う黒いガラス壁は、今やひび割れ、中心の大槽からは紫黒の霧が滲み出していた。


霧の中で、何かが目覚めようとしていた。


そのシルエットは人に似ていたが、人ではない。

骨格は細く、体表は幾何学的なラインに沿って発光し、口元には微笑とも見える亀裂。


そしてその瞳には、光も影も宿っていなかった。


【コードZ──“ゼロ・アンサー”、起動】


その言葉が放たれた瞬間、

観測領域は完全に崩壊し、世界の“書き換え”が始まった。

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