第八十三話「オメガログの開示」
――拠点、深層観測室。
「――記録は、完全に一致してる。奴が“Ω”で間違いない」
千歳が端末を操作しながら呟く。
白く発光するホロパネルの前、陸は静かに拳を握り締めていた。
「……Ωの観測者。全記録の管理者……。まるで世界そのものが意思を持ったみたいだ」
彼の言葉に、部屋の空気が一瞬、重くなる。
「でも、違うわ」
千歳が、パネルを切り替える。
そこに現れたのは――**“Ωログ”**と呼ばれる未解読ファイル群だった。
「これ……最初にZコードが観測されたときに同時に現れた、未知の記録群。
一部の文字列には、“Ω”という署名があるの。つまり……これは**あの存在が残した“証言”**よ」
陸が息を飲む。千歳は続ける。
「今まで私たちは、“Ω”を神のように捉えてた。全記録の管理者で、すべての未来を知っている――って。
でも、このログを見て。これ……明らかに、人間だった痕跡がある」
彼女がスクロールしたその先には、ある日記のような文があった。
【Ωログ No.000:最初の選択】
『……選択を間違えたのかもしれない。
世界を救うためにコードに干渉した。
その結果、私は観測者として“生き残った”。
だが、私はもう人ではない。
私が救いたかったものは、とうにこの手を離れていた――』
「……Ωは、自らを“選ばれた者”にしたんじゃない。“そうなるしかなかった者”だったんだ」
千歳の声には、静かな哀しみが宿っていた。
陸は画面を見つめたまま、口を開く。
「つまり……あいつも、何かを“守ろうとして失敗した”ってことか」
「そう。そして、あの試練……“自己超克”は、Ωが最初に失った希望を、もう一度誰かに見せたかったのかもしれない」
静寂が流れる。
だがその中に、確かにあるものがあった。
継承。
Ωが失った未来を、陸が引き継いだ。
それが、コード世界の“最終段階”を動かす鍵となる。
千歳がログをさらに展開する。
「それと、もうひとつ……」
彼女が指し示したのは、Ωログの最後の記述。
【Ωログ No.999:終焉の指針】
『クラッシュコードの本質は、“記録の反逆”だ。
歴史に抗い、未来を更新する唯一の因子。
だがそれは、同時に“終焉の招待状”にもなる。
最後に現れるのは、“Ωを否定する存在”――
コードZ、第三段階“ゼロ・アンサー”。』
陸と千歳は顔を見合わせた。
「ゼロ・アンサー……?」
「コードZの“本当の正体”……」
その言葉と同時に、拠点全体に警報が鳴り響いた。
――【緊急警告:コードZ、第三段階への移行を確認】
――【警戒レベルΩ。全ユニット、戦闘準備】
「……来たか」
陸が立ち上がる。
千歳も、目を逸らさず前を見つめる。
「これからが、本番ね」




