第八十一話「コードネーム:『壊れた未来』」
深層域に広がる裂け目の中――
そこはすでに“現実”というルールの通じない場所だった。
重力は揺らぎ、空間は軋み、時間は断片化されて流れている。
陸と千歳が踏み込んだその場所は、“世界の内側でありながら外側”でもある異常地帯。
人類が触れてはならなかった、いわば“情報の断絶領域”だった。
「……ここは、“武器”たちが生まれた場所……」
千歳の声が震えていた。
少女の視線の先に広がるのは、静止した戦場。
崩壊した都市の廃墟。
浮遊する瓦礫、逆巻く水の球体。
そしてその中に、“動かぬ戦士たち”がいた。
彼らは全員、“壊れた武器”を持っていた。
だが、その姿にはどこか見覚えがある。
「……これ……俺……か?」
陸が、半ば呟くように言った。
目の前に立っていたのは、自分とまったく同じ姿をした“別の陸”。
だがその身体は砕けており、クラッシュコードも黒く変質していた。
“もう一つの未来”。
“終わってしまった方の自分”。
「ここは……未来の記録だ。いや、“起こらなかった未来”の墓場か」
千歳が言った。
その言葉に、陸は息を詰めた。
そして――
突如、視界全体が真紅に染まる。
地響きのような振動とともに、空が裂ける。
そこから姿を現したのは、禍々しい“人型兵器”だった。
その頭部には、かつて敵対した“アナザー”の象徴。
だが、背中から生えているのは……無数のクラッシュコード。
「まさか……俺の武器を“再利用”してる……?」
「違う、あれは……“過去に存在していた全ての武器の集合体”」
千歳の声が震える。
その存在は、まさにコードネーム『壊れた未来』。
記録には存在せず、ログには残らず、だが確かに世界を破壊し尽くした最終存在。
この深層域に隠されていた、“世界を滅ぼしたエラーそのもの”。
「……これを……俺たちが……倒すのか?」
陸の拳がわなないた。
だが、背中のクラッシュコードは、確かに答えていた。
──できるさ。お前なら。
──壊すことができる。
「俺が、“壊れた未来”を壊す」
陸の足元に、黒い円環が浮かび上がる。
クラッシュコードが完全覚醒し、形状が変化していく。
それはもはや剣ではなく、“世界そのものを断ち切る断罪の器”。
「来いよ、“俺の失敗作”」
敵が動いた。
空間が歪むほどの衝撃波と共に、無数の武器が襲いかかる。
陸は走り、跳び、切り裂く。
一撃ごとに過去が上書きされ、未来が焼かれていく。
千歳もまた、自身の“朱炎の刃”を最大出力に展開し、戦場を燃やす。
「ここで終わらせる……お前たちの犠牲を、絶対に無駄にはしない!」
叫ぶ声が、崩壊した未来を照らす。
そして、陸は気づいた。
この場所こそが、“選ばれし武器たち”の真の意味。
“世界を守る存在”ではない。
“世界が何度壊れても、再構築できるように設計された、壊すための兵器”。
「……やっと分かった。俺は、守るんじゃない。壊すために作られたんだ」
クラッシュコードの刃が、闇の中心に突き立てられる。
「ならばその役割、最後まで果たす……!」
敵の中心核が砕ける。
歪んだ空間が静かに崩壊していく。
深層域の裂け目が閉じていき、世界が再び静寂に包まれる――
だがその時、通信が入る。
──第一観測局より、コードネーム『観測者Ω』発信。
──陸の“未来干渉”を確認。
──次なる“試練”を送る準備に入る。
「まだ……終わらないのか……」
陸は静かに目を伏せた。
だが、心は決まっていた。
「何度でもやってやるさ。この世界の未来が、俺たちの手にある限り」




