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第七十九話「破壊か、共鳴か」

その瞬間、世界の“重力”が変わったように感じた。


疾風のように放たれた矢。

だが、それはただの飛翔物ではない。矢が空を裂いた瞬間、その軌跡の中に“法則のひずみ”が現れたのだ。空気が音もなく避け、光すら一瞬、歪む。


「来るぞ……!」


陸の声は低く短い。しかし、その中に張り詰めた緊張が含まれていた。視線は、矢ではなく——矢の後ろにある、**“意図”**そのものを見据えている。


隣のカズサが反射的に動く。

脚に巻かれた機械式の補助装置が白く点滅し、地面を蹴った瞬間、彼女の体が消えたように加速した。疾風のように滑り込んだ彼女は、陸の身体を押し倒す。


直後——


轟音。


矢が突き刺さった地面が、まるで生きているかのように捩れ、爆発的に隆起した。

破片が空を舞い、周囲の木々が一瞬にしてなぎ倒される。


「ッ……これが、封呪級の武器ってやつかよ……!」


カズサが歯を食いしばる。押し倒した陸の上で、咄嗟に盾のように腕を広げ、飛来する破片を受け止めていた。その腕は、彼女自身の武器スレッドラインによって強化された義肢。


鋼線のように巻かれた義手の表面が、金属音と共に火花を散らしている。


「大丈夫か、陸っ」


「……ギリセーフ、だな。助かった」


陸は小さく息を吐き、背中の地面を押して起き上がる。全身に土埃がまとわりついていたが、目は冴えていた。


彼の手には、**“壊れた武器”**がある。


今やそれは、最初に見たボロボロの剣ではなかった。無骨な鉄片のようだった刃は、かすかに赤黒い光をまとい、地面に突き刺さった瞬間、周囲の砂利が浮遊する。


「……目覚めたな、“こいつ”も」


陸の声は低いが、確信を帯びていた。


その刹那。


またしても空間がねじれる。

今度は——あの矢を放った張本人、“紅薙くれなぎ”が、瓦礫の先から歩み出てきた。


銀色の矢筒を背負い、顔には無表情。だがその目は、燃え上がるような闘志を内包している。


「その武器。やはり“本物”か」


紅薙が言った。


その声は静かで、だが確実に周囲の空気を震わせた。


陸は返事をしない。ただ、足を一歩前へ踏み出す。


「お前……何者なんだ。武器を狩る者か?」


「違う。“回収者”だ。封印された武器が覚醒しないよう、根絶やしにする任務を帯びた、正規の執行者」


「正規、ね……」


陸の口元がかすかに歪む。

皮肉屋らしい笑みだった。


「だったら、この“壊れた武器”を持ってる俺は……お前にとって、排除対象か?」


紅薙は矢を一本、静かに引き抜いた。


そして——


「判断は、戦ってから決める」


次の瞬間、再び放たれる矢。


今度は、最初の一撃とは比にならない速度。

だが、陸は動かなかった。


その場で、壊れた武器を静かに振りかざす。

それは——本来、戦いの流れとしては無謀な選択。


が、彼には“確信”があった。


共鳴シンクロ——《第一段階:接続》」


瞬間、武器の芯から生じた光が、陸の腕に食い込むように走る。

彼の右腕が、まるで武器と融合したかのように脈動を始める。


「な……!」


カズサが驚愕する間もなく、矢と刃が交差する——


そして。


破裂音。


空間が“弾けた”。


陸と紅薙の間で、赤黒い衝撃波が拡がり、木々が大きくしなって倒れる。


カズサは目を見開いた。


「あの陸が……矢を、弾いた……!?」


破壊された“壊れた武器”。

それが今、異能の媒体として覚醒し始めている。


そしてそれに呼応するかのように、陸自身の何かも——確実に、変わり始めていた。

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