第七十八話「エマ=リターナの記憶」
──それは、彼女がまだ「人間」だった頃の記憶だった。
廃墟と化した都市の片隅で、少女はひとり、錆びた槍を抱えていた。
名はエマ=リターナ。かつては武器開発局の研究員であり、同時に“被検体”だった。
「これが、人間をやめるってことなのよ」
「世界を守るために、人間であることを棄てる……誰かがやらなきゃ」
記録映像が、Ωの中枢で再生されていた。
それを見つめる陸とリ=アの表情は、沈痛だった。
彼女は「武器」ではなく、
「世界が人類を生き延びさせるために作った、新しい定義」だったのだ。
「私は、自ら望んで“Ω”になったのよ」
「人間たちの苦しみと無力さを終わらせるために」
「そして、矛盾を……この矛盾だらけの世界を“書き換える”ために」
エマは微笑みながら言った。
しかしその笑顔には、どこか壊れたガラスのような危うさがあった。
「俺たちの存在も、想いも、“武器”であることも……全部消して塗り直す気かよ!」
陸の怒声が空間に響いた。
リ=アが支えるように言葉を添える。
「彼女は、過去に世界を“救おうとして”……滅ぼした」
「だから、今度は“正しい形”で書き直そうとしている」
Ωの中枢が開く。
その奥にあるのは、エマの“心核”。
一度でも攻撃すれば、彼女の存在そのものが消える。
だがそれを壊さなければ、世界が書き換えられる。
「お前の願いは、誰にも否定できない……でも」
「“全部を無かったことにする”なんて、俺は……絶対に認めねえ!!」
陸は、矢を引いた。
リ=アの全記憶を重ねた矢。
「この矢で、お前の記憶ごと、俺たちの世界を塗り替える!!」




