第六話「断裂と共鳴、そして目覚める“第二階層”」
――時間が止まっているはずの空間で、俺の刃が動いた。
《刻断者》の刀身が、鈍く赤く輝く。
目に見えない“境界”を裂きながら、前へ。
クロックワーカーの瞳が揺れる。
「っ――時間停止空間の中で動ける!? …いや、切ったのか、俺の干渉領域を!」
「知らねぇよ……俺自身がどう動けてるかも。
でもこの“剣”が言ってんだ。お前を――“断ち切れ”ってよ!」
足元の空間が崩れる。クロックワーカーの歯車が逆回転を始めた。
(時間が――巻き戻る!?)
「一度目は失敗。ならば、三秒前に戻して――」
「遅ぇよ」
刹那、空間に一本の線が引かれるようにして、斬撃が走った。
クロックワーカーの右腕が、鈍く弾け飛ぶ。
時間すら戻す異能を、“上書き”するほどの――強制力。
《ディバイダー:第二階層 起動》
「――コード名:《断絶因子》、第二階層……っ」
俺の中に、もう一つの力が芽吹いていく感覚。
「なんだこれ……熱い。胸の奥が……焼けてるみたいだ……!」
《異能覚醒 第二段階》
《位階 上昇。現在:Eランク → Cランク相当》
刃が燃えるように鼓動し、視界が異常に冴える。
(こいつは……ただの武器じゃねぇ。
この“刀”そのものが、何か意思を持って……俺に合わせて進化してんのか?)
クロックワーカーは血を流しながら、かすかに笑った。
「まさか第二階層まで……笑えるな。
無名の《無印》がここまで暴れてくれるとは」
「質問に答えろ」
俺は刃を突きつける。
「“異能の武器”ってなんなんだ。
なぜ俺は、こんなものを拾って、こんな戦いに巻き込まれてる?」
クロックワーカーは片手で胸を押さえ、答える。
「……答えは、“お前の武器の中”にある。
《刻断者》は“禁じられた領域の記録媒体”……
それを拾った時点で、お前は“観測者”の一人として選ばれたんだよ」
「観測者……?」
「お前の知らない戦争が、何度も繰り返されてる。
その鍵になるのが“武器”であり、“記録”であり、“世界そのもの”だ」
そう言い残すと、クロックワーカーは足元の歯車を操作し、時空の裂け目へと消えていった。
「……逃げられたか」
背後からフィルの声。
「お前、本当に何者なんだよ。
まさか一回の覚醒で第二階層まで行くなんて、前例ないぞ……!」
俺は息を整えながら、ディバイダーを鞘に納めた。
(答えはこの“剣”の中にある。なら、俺がすべきことは一つだ)
「……進むしかねぇだろ。今さら日常になんか、戻れねぇんだから」
――こうして俺は、無名の高校生から、“世界の観測者”へと踏み出した。




