第七十五話「記録外存在の原点、リ=ア」
陸の目の前に現れた“少女”――
誰もが知らず、どの記録にも残らない、けれど確かに彼の中にいた存在。
「リ……ア……? なんで、お前が――」
「わたしはあなたの“選ばなかった過去”。でも、今、ここにいるわ」
「選ばなかった……?」
少女・リ=アの声は、懐かしさと痛みを同時に刺し込んでくる。
記憶の底に沈んでいた、温もりのような何か。
「あなたが《壊れた武器》を拾ったとき。
世界はあなたに、“過去をひとつ捨てる選択”をさせたの」
「……まさか、あのとき――」
「そう。わたしは、“捨てられた側”。でも、それが間違いだとは思ってない。
だってあなたは、それでも前に進んだから」
イヴが冷たい視線で彼女を見据える。
「記録外存在……また、因果律の枠外からの干渉か」
「この子は、“お前の枠組み”にはいない。だから、世界は拒絶できない」
陸が構えた《オーバーライト・アロー》の輝きが増す。
リ=アが手を伸ばす。
それは、陸の手に重なるように――
「撃って。あなたの矢で、“私たち”の存在を世界に刻みつけて」
「……ああ。これは、俺たちふたりの未来のために!」
矢が放たれる。
今度は“因果を否定する”のではなく、“物語を肯定する”一撃。
因果修正球が砕け、イヴの演算視野が濁っていく。
「ありえない……この未来は、観測不能……ッ」
「知らねぇよ、観測も正解も!
これは“俺たちの”答えだ!」
爆発的な光の中、イヴの姿が消える。
空は再び澄み、世界が“ひとつの未来”として回り始めた。
だが――
「……終わってない」
陸が膝をつき、リ=アがそっと支える。
「彼女は倒れたけど、“あの組織”はまだ健在。
本当の黒幕は、今もこの都市のどこかにいる」
「だったら――探しに行こう。
今度は、最初から“お前も一緒に”」
リ=アが微笑む。
その笑みは、過去でも未来でもない“今”の絆。




