第七十二話「記録武装《リジェネシス》第二形態──追記武装」
宙に走った白銀の軌跡。
陸が手にした刃は、瞬時に姿を変えた。
細くしなやかな弓へと変形し、同時に腕部の装甲が展開。
空気の粒子を集めて「概念情報」を束ねる。
それはもはや物理法則では説明できない“観測超越武装”。
「……弓?」
「いや、違う。ただの飛び道具じゃない。これは、“未来の出来事”を射る武器だ」
ユウリの言葉どおりだった。
弓にかかった“矢”は、どこにも存在しない。
それでも、陸は引き絞る。
指先に“確定していない情報”の感触があった。
「名前は……《追記武装:シュライヴ・アロー》」
「これは、“未来の観測”に干渉する武器」
放たれた瞬間、時空がねじれる。
矢は敵に命中する前に、「敵が攻撃する未来」を“書き換えて”いた。
都市の兵士たちは、命中する直前に崩れ落ちる。
「何が起きた……?」
「記録された“未来”そのものが、上書きされたのよ。陸が、“敵が敗れる未来”を追記したから」
「そんな無茶苦茶な力が……」
「ええ、だから“観測都市”がこれを最も恐れてる。
あなたは、“記録されない存在”のまま、“記録を書き換える”ことができる唯一の人間だから」
戦闘はわずか数十秒で終わった。
敵は全滅。残るは、警報音だけ。
しかし、その静寂の中で、再び義眼の少年が口を開く。
「お前の武器が進化するたびに、都市の中枢の計算結果は破綻していく。
近いうちに、“世界そのもの”が反応するぞ」
「世界そのもの……?」
「ああ。
“観測”と“干渉”が矛盾し続ければ、やがて《世界線修復因子》が起動する」
「それって、何だ?」
「簡単に言えば、“お前を消しに来る存在”さ」
そして、ユウリが口をつぐんだ後、空が割れた。
上空に浮かぶ“黒い虹”。
その中央から、真紅の衣を纏った謎の少女が、ゆっくりと降下してくる。
その姿は、まるで女神のように美しく、
その目は、“この世界をただ修正するだけ”の冷たい無機質さを宿していた。
「記録観測制御機構、サブシステムNo.0──《イヴ》」
「観測記録に反する存在を確認。……削除を開始します」




